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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風

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しばしの休息

「リオン様、出来ました!」


 嬉しそうな声を上げて駆け込んで来たフリッカに対し、わたしは苦笑しながら自由な方の手で人差し指を立てて『しーっ』っと言うジェスチャーで返す。

 出て行く前と帰って来た今の違いにすぐ気づいたフリッカは口元を手で押さえて、ホッと小さく呟いた。


「ウルさん……ちゃんと眠れたのですね」

「うん?」

「私が声を掛けた時は、ベッドの上で布団を頭からかぶった状態で、幽鬼のような顔付きで座り込んでいましたので……」


 うーん、随分と心配を掛けてしまったみたいだ……いやまぁLPの残量と状態異常からして死にかけだったみたいだしなぁ。

 わたしとしても、雷に打たれたのが本当ならよく生きてたなぁと言う感じですよ。あれ、ゲーム時代も対策してないと即死か瀕死の大ダメージ喰らうことがあったからね……ここが現実なら尚更危険でしょうよ。


「えっと、軟膏、出来たんだ?」

「はい、今塗りますね」


 良かった、予想は合ってたみたいだ。これで出来なかったらフリッカがまた『自分が未熟だから』と凹むところだったかも。

 そんなことを思いながら、フリッカが包帯を外しやすいように体を動かす。


「うぐぐ……っ」

「すみません、我慢してください」


 体を動かすこと自体と、包帯がペリペリ剥がれる感触につい呻き声を漏らす。これでも(効果が足りなかったとは言え)軟膏とポーションによってマシになってるんだろうな。

 そう言えば包帯とガーゼの開発はしてなかったな。検討しておくべきか? さすがに注射針とか手術用具は扱う技術がないから無理にしても、消毒液とか絆創膏とか――


「……リオン様はこのような時でもモノ作りを考えるのですね」


 ……バレてる! 

 あははー……と曖昧な笑みで誤魔化すわたしであった。


「ちょっと冷たいかもしれませんが、これも我慢してくださいね」

「はーい…………ゥヒッ」


 包帯が取れ傷も露わになった背中を向け大人しく薬を塗られていたのだが、宣言通りに冷たいのと痛くすぐったいのとで耐えきれずに変な悲鳴?が出てしまった。

 そんなわたしの声が聞こえてないのか、聞いてて無視しているのか、無言でフリッカは塗り進めていく。

 早速効果が出始めているのか、塗られた部分がじんわりと沁みた後にムズムズしてきたような感じがする。


「背中は終わりました。前を塗るので向きを変えていただけますか」

「えっ、ま、前は自分でヤルヨ?」


 いくら医療行為とは言え、意識のある状態で触られるのは恥ずかしいですよ?

 一緒にお風呂入ったことあるし、見たことも見られたこともあるけど、触られるのはまた別……ああああダメだアレ・・を思い出すなわたし!

 反射的に自分の状態を忘れて頭を抱えようとしてまた痛みが走る。……バカかなわたしは!?


「……リオン様……」

「……はい……」


 バカですねすみません! だからそんな呆れた目で見ないでフリッカさん!

 目尻に涙を溜めながら、観念したように身を任せるのであった。

 ……何も考えるなわたし。石像、石像になるのだ……………………ッッ。



 わたしの羞恥心が煽られた以外に特に何事もなく――あるわけがない――包帯を巻き直し、服にも血が滲んでいたので交換する。ウルを起こさないように……眠りが深いのか起きる様子はなかったけど、力が出ない状態だったので動かす方が難点だったシーツ交換をし、やっと一息を吐く。

 ステータスを開いて確認すると【火傷:レベル二】になっていた。継続ダメージは残っているけれどかなり減少したし、自然回復と拮抗しているようでLPは回復もしないけど減りもしなかった。これならSP切れで長時間放置でもしない限り死ぬことはないだろう。

 そんな説明をすると、フリッカは椅子に座って俯きながら大きく肩を落とし、長い、長い息を吐いた。


「……そうですか……良かったです……本当に」

「うん、きみにも心配掛けたね。治療してくれてありがとう」


 丁度頭が良い位置にあったので撫でると、しばらくはされるがままになっていた。

 わずかに震える肩。鼻をすする音。

 泣いているのだろうか、と手を頬に伸ばそうとしたその時に。


 ――キュルル


 と、体の緊張が解けたせいなのか聞こえてきて。

 発生源は敢えて追及しない。追及はしないが……エルフ特有の長い耳が真っ赤になっていたので、言わずもがな、と言う感じであろう。


「そう言えばおなか減ったなー」


 わざとらしい声であるがおなかが減っているのは事実だ。自然回復が頑張ってるのかまたSPが減っているんですよ。

 クッキーを取り出し一枚食べながら、フリッカにも「食べる?」と差し出すと。


「……はい」


 蚊の鳴くような声を絞り出しつつ受け取ったその頬は、少しだけ濡れていた。


「……何だかわたしは泣かせてばかりだねぇ」


 ウルもさっきめちゃくちゃ泣かせてしまったし、色々とままならないものだ。

 重くなる気持ちで包帯の巻かれた指でぬぐってやると、しかしフリッカは何度か目を瞬いてから、フッと柔らかな笑顔を見せた。


「ご心配なく。悲しみ以上の幸せをいただいていますので」

「……そ、そう……」


 わたしは込み上げてきた気恥ずかしさに目を逸らし、クッキーをかじることで誤魔化すのであった。



「そう言えばレグルスの容態は? 軟膏は渡してきたの?」

「はい。リーゼさんに制作を手伝っていただいたので、出来上がったその時にポーションと一緒にお渡ししています」


 そもそもレグルスはちゃんと意識があってぎこちないながらも動ける状態で、回復のために大人しくしているだけらしい。

 ……意識のない間に薬を塗られるという、オトコノコ的に尊厳がピンチになりそうな事態は起こらなかったのね。良かった良かった。

 ついでに気になってることを聞いてみよう。


「フリッカとリーゼって仲が良いよね。何かあったの?」

「特別何かをした覚えはありませんが……私がリオン様の嫁希望だと言ったらあれこれ応援してくれるようになりましたね」

「…………はい?」


 ちょ、ちょっとちょっと、何言っちゃってるのー!?


「? どのみちすぐ知られることでしょう?」

「そうかもしれないけれどー!」


 などと頭の痛くなりそうな会話がきっかけ……と言うわけでもないけれど、ドッと疲れが押し寄せてきた。

 わたしたちの会話があっても全く起きる気配のないウルをちらりと見たら更に眠気がやってくる。


「眠い……わたしも寝ようかな……」

「そうですね。傷が癒えるまでしっかりとお休みください」

「フリッカもちゃんと休んでね」

「……」


 おや、返事が来ない。不思議に思いフリッカを見ると目を逸らされた。

 じーっと首を傾げて見ていると、耐えかねたのかポツリと理由を零す。


「私は……リオン様の容態を看ていますので」

「いやでも、もう大丈夫だよ?」

「ですが……」


 食事で少しばかり回復したかもしれないけれど、フリッカはずっとわたしの看病をしていたのだ。疲れていないわけがないし、それは表情に如実に現れている。

 ここで、言ってしまえば必要のない待機をされてもむしろわたしが困るのだ。


「フリッカ、休もう」

「……」


 わたしと目を合わせようとしない。

 ……むぅ、こうなったらやや自爆になるが仕方がない。

 ポンポンとわたしは隣、ベッドの空いている部分を叩く。


「ほら、ここで寝ていいから」

「それは……」

「ここならわたしの容態が急変してもわかるでしょう?」


 その言葉が決定打だったのか、わたしの隣が良かったのか、単に眠すぎただけなのか。

 フリッカは少しだけ逡巡してから「わかりました……」とベッドに上がり込んできた。


「……アルネス村の時より近いですね」

「あのベッドが大きすぎるだけだから」


 ちなみに、ウルが一緒に寝るのが常態化しているので、宿泊棟を建てて部屋移動した際に大きいサイズに変更したのでスペース的には三人寝ても問題ないが、さすがにキングサイズとかではない。くっ付いてないと落ちる。


「……薬の臭いしかしなくて、リオン様の匂いがわからないのが残念です」

「そんなのわからなくていいから!?」


 ありがとう薬臭!!


「もうお休みっ」


 これ以上余計なことを言わせてなるかとばかりに布団をかぶると、フリッカがもぞもぞと動いて軽く抱き着いて来た。

 ……まぁこれくらいいいか……ウルなんて毎回だし……。


 そうして、数分もしない間にわたしたちは寝息を立てるのであった。



 なお、一度リーゼが様子を見に来たらしいのだが全く気付かなかった。

 生暖かい視線だけ残してそっと戻ったらしい。……うぬぅ!

一応フォロー(?)しておきますけど、フリッカは変な方向に知識を植え付けられているだけで、彼女自身に性欲は(そんなに)ないです。

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