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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風

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ダンジョンは何処にでもある

 そうして何もない荒野を目印を付けながら歩くこと二日。


「……さすがにちょっと飽きてきたな」


 あまりの起伏のなさにレグルスが期待外れだと言わんばかりに呟いた。

 「さぁ、外の世界へ!」とワクワクして村を出てきたのにこんな代わり映えのない風景が続くとなると、その気持ちもわからないでもない。

 わたしとしては素材さえあれば平穏な方が嬉しいんだけども、その素材があんまりだからなぁ。

 ウルとレグルスだけなら修業とばかりに走って行くことも出来るかもしれないけれど、そこはそれ、確実にそこまで体力のないわたしが足を引っ張ってしまう。

 馬でも見つかれば行程が短縮出来るんだけどな。ロケーション的に居てもおかしくはないけれど、今の所見当たらない。


「んー、じゃあまた上に登って何かないか見て来るよ」


 上、と言うけれど、丘があるわけではない。ブロックを足元に積んで遥か上まで登るのだ。

 何か探すなら上からの方が圧倒的に早いので、わたしがちょくちょく上から観察をしてきていた。まぁこれまで特に何もなかったから今退屈しているわけだけども。


「気を付けて行くのだぞ」

「もしも落ちたらキャッチしてね」


 ウルの声を受けて、どんどんと足元に石ブロックを積んでいく。

 単純作業ではあるけれども、単純作業であるだけに油断して操作をミスるとコケる羽目になるので地味に気を付けなければいけない。あと、ロープも何もない高所作業になるので、慣れてないとすっごく怖いことになる。上空は風が強いので尚更だ。ゲームで慣れてたわたしでも現実になった今は怖い。登れるのは下にウルが居てくれるおかげだ。

 ちなみに、レグルスが興味を持ったので一度上に連れて来たことがあるけれど、やはり彼もダメだったようだ。顔を真っ青にしてしまい、以降二度と行きたいと言ってきていない。まぁ仕方ないよね。アステリアに高層建築物なんてあるわけがないし、山にでも住んでない限り高所の経験なんてないでしょう。


「さて、何かないかなー……」


 百ブロック、五十メートルの高さになった所で積むのをやめて南の方に目を向けると、わたしたちが歩いて来た印としての石柱が点々と見える。

 そこからゆっくりと東を向く。似たような風景ばかりで目ぼしい物は見付けられない。

 北を向く。……うーん? ちょっと色が変わって見えるような気がする。けれど目立つ物はない。

 そして西を向く……途中、北西の方向、結構距離があるけれども地面に黒い物……穴が見えた。


「……何だろう、ダンジョンかな?」


 ダンジョンは常時聖域化している場所でもない限り世界の何処にでも出来る。今までなかったのに何時の間にか出来ていたパターンも偶にある。その場合は一部例外を除いて出来たてなのでそこまで深くはないけれども。

 一応西から南の方まで一通り確認してからわたしは一つずつブロックを収納して降りて行く。……これもちょっと怖いのよね。だから、無事に地面に足を付けた時には大きな安堵の息を吐くことになる。


「リオン、お疲れ様だ。どうだった?」

「北西の方の地面に穴があったからダンジョンかもしれない」

「おっ、マジ?」


 ようやくの変化の訪れに、レグルスがわかりやすく目を輝かせてくるのについ苦笑してしまう。ダンジョンじゃなかったらゴメンネ!

 都合良く風神の手掛かりが見付かるとも思えないけれども、他に何もない状態だからね。と言うことでわたしたちは穴へ向かうことにした。



「……む?」


 穴まで後少しかな?と言うくらいの位置まで進んだ所でウルが唐突に足を止めた。


「ウル? どしたん?」

「リオンとレグルスもじっとしてくれ」


 何だろう?と二人して首を傾げながらウルの言う通りに立ち止まる。

 ウルはあちこちに鋭く視線を向けてから、地面の一点を凝視し始めた。


「下に何か居る」

「うぇっ?」


 イビルトレントの時を思い出して咄嗟に石畳を敷く。あの時は運良く刺さらなかったけれど、下からグッサリとかゴメンだよ!

 レグルスも拳を構えて警戒態勢を取った。なお、その腕にはわたしが用意した鉄板で補強したグローブと、足も同じく補強済ブーツを装着している。

 わたしも前回同様にオークファングソードを取り出した。


「来るぞ!」


 ――ゴバアッ!


 ウルの叫びと同時に地面が弾け、そこからモンスターが飛び出して来た。

 にょろにょろと細長いミミズのモンスター、ロングワームだ。ミミズと言ってもそんな小さい物ではない、太さは数十センチ、長さは二メートルは超えているだろう。

 しかも一匹だけではなく、わたしたちの足音から位置でも割り出していたのだろうか、ご丁寧に取り囲む形で五匹もやってきた。


「ふんっ!」


 ウルの目の前に出現したロングワームがあっさりその拳で胴体を上下に分割される。

 しかしこいつらはこれだけでは終わらない。二つに分かれてしまった体のままでウルに襲い掛かる! ……が、それも危なげなく弾き飛ばしていた。安定のウルさんである。


「おらあっ!」


 レグルスも一番近い位置に沸いたロングワームへ殴り掛かる。ウル程のパワーはないがロングワームの体をのけ反らせ、ラッシュを掛けて行く。


「くっそ、ブヨブヨしててあんまダメージ入ってる気がしねぇ!」


 わたしの持ってる斬撃系武器かハンマーのような重さを利用した打撃系武器じゃないと軟体には効き辛いだろう。彼には拳だけじゃなく第二武器として今後何かを覚えてもらうべきだろうか。

 同じく手近なロングワームに斬り付けながら、わたしは二人に注意を飛ばす。


「ウル、レグルス! こいつらは簡単に死なないから魔石を潰すか抜き出すかして!」

「わかったのだ!」

「お、おう!」


 フリッカが居れば魔力視で魔石の位置もわかったのだろうかなどと考えながら、わたしも意識して目を凝らしてみる。

 ……うん、わからない! まだまだ魔導スキルレベルが足りてないね!

 とりあえず斬って斬って細切れに……あ、チラっと見えた!


「うえぇ、感触が気持ち悪いいいっ」


 魔石を抜き取ろうと手を突っ込んだらネチョっとしたのでちょっとだけ後悔することに。それでもアイテムが欲しかったんです……!

 そうして何とか一匹倒して周囲を見回してみると、ウルは既に三匹も倒していた。……うん、ミンチになってしまえばさすがに動きませんよね……。

 残るはレグルスの相対する一匹だけだ。手間取ってはいても危険と言う程でもなさそうなので、手を洗いながら見学をする。


「ぐ、オレが最後かよ……!」


 悔しそうに呻きながらロングワームに蹴りを入れそのまま踏みつぶし、それの繰り返しで体を分断していく。

 やがて魔石の位置に辿り着き、蹴り飛ばしたことで止めとなった。


「お疲れ様。水要る?」

「さんきゅー。いやぁ、参ったぜ」


 レグルスは水を受け取り、手足にこびり付いた粘液を洗い流し始める。その間にわたしは蹴り飛ばされた魔石を拾いに行こう。


「あ」

「リオン、どうした? ……あぁ、なるほど」


 わたしの声を拾いウルもやって来ると、その理由に気付いたのだろう。

 そう、そこにはわたしたちが目指していた穴があったのだ。

 そしてその穴からは、ダンジョン核の気配が薄っすらとだが漂ってくるので、やはりこれはダンジョンで合っていたようだ。


「ダンジョンがあったからモンスターが沸いたのかな」

「だろうな」


 わたしたちは怪我がないことを確認し、移動速度バフ付きおやつを食べてからダンジョンへと踏み込んで行った。

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