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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間二

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後始末の続き

 わたしとウルの二人でまたアルネス村へとやって来た。目的は後始末の続きだ。

 いや、村での裁判のあれこれじゃなく、イビルトレントに汚染された土の張り替えがまだだったからね。


ぬしのことだから、残ってる素材が欲しかったと言うのもあるのだろう?」


 ウルの突っ込みに、わたしは視線を逸らすことで回答とする。

 そんなやりとりに隣からクスクスと笑い声が聞こえてきた。……うぬぅ、恥ずかしい所を……!

 後始末に来たのはわたしたちだけではなく、一人の青年が一緒に来ていたのだ。もちろん監視ではなく見届け役と言う位置付けだ。本人曰く興味もあったらしいけど。

 そしてその青年、ウィーガさんの孫であり、フリッカとははとこの関係であるらしい。他にも親族居たのね、って感じ。

 いや、他に居たからこそフリッカをわたしの所に預けようと言う気になったのかも。……こ、子どもとか、こっちに居ると出来ないだろうし。他の誰かの嫁になりたいと言い出したりすれば別だけど。


 わたしは土の張り替え、ウルは汚染アイテムの回収、青年――マリクには触っても問題ないアイテムの回収を手伝ってもらいつつ、雑談もしていく。


「フリッカとフィンは神子様の所で元気にやっているでしょうか?」

「はい。二人とも元気に働いてくれてますよ」


 陰でこっそりと泣いていたりしない限りは。……な、泣いてないよね?

 ……あ、一応二人はうちで強制労働と言う体だったはずだけど……素直に答えちゃって良かったのかな? いや「元気?」って聞いてきたのだから実情はわかってるか。


「そうですか。フリッカが嫁候補になった時にはどうなることかと思いましたが、穏やかな日々を手に入れられたようで僕としてもホッとします」


 嫁候補と言う立場もあって、親族一同から気に掛けられていたようだ。

 神子は現れて欲しくない、けれども森の異変もあるしやっぱり現れて欲しい。そんな複雑な気持ちを抱えていた所にわたしがやって来て。

 わたしが女だと言うこともあって裏でどうするか話し合っていたけど結果的に良い方向に収まって、居なくなるのは寂しく思いつつも祝福モードであるらしい。

 む、むぅ……フリッカを苦しませようと言う気は元からないのだけれど、期待が圧し掛かって来た気がするぞぅ……?


 そんなことを話しつつ、広間の浄化(ただの土入れ替え)を完了させた。

 根っこはものすごく広範囲に渡ってるからそこはさすがに一日でやれない……と言うか全部やるのは不可能だと思う。ある程度は済ませるけど残りは自然に任せよう。


「しかし神子様の力は素晴らしいものですね。正直ここまで出来るとは想像していませんでした」


 まぁ前例がアレだとねぇ……。

 ただ装備さえ整っていれば、数日でこの森一帯を回収・・くらいは出来ると思うよ。とは言わないでおいた。

 ……こう考えると神子の力ってすごいね? 自分で言うのもなんだけども。適切に使わないと何時の日か手痛いしっぺ返しを食らいそうだなぁ。


 帰還石を使い、村の前の創造神像まで戻って来る。


「そう言えばフリッカがうちに急に来ることになりましたけど、次の司祭は決まっているんです?」

「まだですが数日中には決まるでしょう。衰弱状態からは脱したとは言え、聖水がないとモンスターに襲われることに変わりはありませんから」


 ……むしろイビルトレントを倒したことでモンスターがまた普通に沸くことになってるだろうからねぇ……。と言うかモンスターは元通り発生するのにその他生き物の生態系がぶっ壊れてそうで、下手をするとアルネス村の試練はまだまだこれからなのかもしれない。

 あ、自動聖水散布装置の話はどうなったのかな。これも聞いておかないと。

 それでもって、薬草園とか作っておいた方がいいかな? 畑もちょっとだけテコ入れして、それから――

 やることを指折り確認していたら、マリクから戸惑い混じりの質問がされた。


「……神子様はアルネス村にはもう力を貸さないと聞いていたのですが……」

「ん? 村の統治制度に手も口も出すつもりはありませんよ」


 ザギさんとウィーガさんには『村を綺麗にして』と言ったけれども、わたし好みの村を作りたいわけではないのである。ただわたしは薬を始めとしたモノ作りの知識がせき止められているのが気に入らないだけで。

 あんまり口出しすると、支配者が過去の神子から現在の神子に変わっただけとか目も当てられないことになってしまう。そんなのは御免被るよ。


「でも、モノ作りを促進する手伝いならします」

「なるほど」


 マリクは感心したように頷いてくる。

 でも……別にモノ作り自体も強制ではなくてですね?


「……貴方達が作らないと言う選択肢もありますけれどもね」


 『わたしは望むなら手を貸すけれども、望まないなら意識改革からやってる余裕も義理もないので放置しますから』

 と言う意図を篭めてニッコリと笑えば、マリクはちゃんと理解してくれたのか冷や汗を流しながらも「誠心誠意取り掛からせていただきます」と何度も首を縦に振るのであった。

 ……脅しじゃないですよ?


 『神子なら世界を救え!』とか言う非難が何時か何処かで飛んできそうだけども、そうです、わたしの最優先事項は創造神のために世界を救うことなのです。

 やる気のない住人をただ甘やかすだけとか、宥めすかしてお願いしてやってもらうとか、そんなのは業務に含まれておりませんので。悪しからず。


「リオンは甘いのか甘くないのかよくわからんのぅ……」

「そう?」


 そもそもそんな至れり尽くせりが必要な状況で創造の土壌が育つとは思えないし、遠からず心が壊れて終わりそうな気がする。わたしは聖人君子とは程遠いからねぇ。

 創造神とウルと、わたしにとって大切な人のためなら出来るだけ我慢すると思うけれども、基本的にそこまでメンタルが丈夫とも思っていないから。

 ……まぁあまりに自分の都合でバッサバサ切って行っても、ただの傲慢な神子と映って得られるはずの協力も得られなくなるかもしれないので悩む所だ。


 はぁ……ただのゲーマーがどうしてこうなった。いや今更すぎる話だね。


 何処となく重い気分を引きずりながらザギ家応接室でちょっとお休み。マリクは「報告しに行きます」と屋敷の入り口で分かれたので、部屋にはウルと二人である。

 ウル以外誰も見てないのをいいことに、だらしなく机にべったりと伏せて大きな溜息を吐いた。


「ぐだぐだ頭使いすぎて疲れてるのかなぁ……パーッと何も考えずにモノ作りして癒されたい」

「そこで『休みたい』じゃなくモノ作りが出てくるあたり、リオンは根っからの神子であるなぁ」

「いやー……わたしはモノ作りが好きなだけで、政治やら何やらが好きなわけじゃないからねぇ……」


 誰かわたしのブレインになって、わたしはただモノ作りするだけでいい状態にしてくれないかしら、とたまに思ったりする。

 けれど……それはダメだろうなぁ。神子わたしが誰かの恣意によって動かされることも、思考やら責任やらを放棄することも。

 心の中でもにょもにょしていると、そんなわたしの気を紛らわそうとしたのかウルがウルらしくない(とわたしが勝手に思っている)ことを言い出した。


「リオン、冷たい机じゃなくここを使えばいいのではないか?」


 そうしてウルがぺちぺちと叩いていたのは……自分の膝だった。

 ……つまりは膝枕と言うことで。

 衝動的にそのお誘いに乗りたくなったけれどもここが何処だったかを思い出してグッと飲み込み、代わりに疑問を口にした。


「……それ、誰に教えてもらったの?」

「む? フリッカにだが」


 デスヨネー。知ってた。

 あの子、たまに変なことしてきますからねぇ……いや膝枕は全然穏当であるけれども。

 この前のお風呂の時にされそうだったことを思い出すと、今でも恥ずかしさで顔から火が出そうであるよ……フフフ……。


「と言うことで、アルネス村での嫁教育に対して苦言を呈したい所存であります」

「……唐突に何ですかな、神子様」


 丁度応接室に入って来たザギさんに八つ当たり(?)をするわたしであった。


 なお、うちに帰ってからやってもらいました。ふへへ。

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