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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び

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真相は知れば良いというものでもない

 あの後は動揺を引きずってぎこちなかったけれども、「これまで通りにしてください」とお願いされたことで、深呼吸の後に出来るだけ元に戻すことに成功する。

 ……ぐぬぬ、何故わたしの方がテンパってるんだ……こういうのは、待ってる方が緊張するものじゃないのかね……。



 爆弾発言から数日後の雲一つない良い天気の朝。

 皆で日課の創造神像に向けてお祈りをしていた時、創造神様が以前の時のように実体のない状態でだけれども降臨してきた。

 わたしとウルは慣れたものだけど、フリッカとフィンなどは目を大きく見開きしばし固まってから、慌てて跪拝をする。


「創造神様、おはようございます」

「はい、おはようございます。お久しぶりですね、リオン、ウル」

「うむ、久々なのだ」


 わたしは神子なのでともかく、ウルまで気安く会話をしてる様を見て二人は目を白黒とさせていた。……まぁ崇拝対象だしね。


「そちらのエルフの方々は初めましてですね」

「っ……は、はい」

「はじめ、まし、て」


 ガッチガチで言葉もなかなか出てこない状態のようなのでわたしが紹介しておいたら、「創造神様に名前を憶えていただくなど恐れ多い」と更に縮こまってしまった。

 まぁ慣れてもらうしかないね。わたしの拠点に住んで居れば、これから先も嫌でも目にすると思うから。


 創造神のことだから今回も事態の推移を既に知っているかもしれないけれども、一応ざっくりと報告をする。

 なお、嫁騒動などちょっと恥ずかしい部分は言わずにおいたけど、隠蔽とかじゃなく関係ない話であるからね!


「で……これが神子の成れの果てですけど……この結末で良かったんですかね」


 そして最後に、核であった魔石を創造神へと見せた。


「……それで構いません。よくぞ解決してくれました。ありがとうございます」


 創造神はしばし目を伏せただけで特にわたしに何も言うでもなく、お礼を述べてきた。

 わたしに解決方法を一任していたのだし、ここで文句を付けられても困るのだけれども……思う所はあるのだろうか。

 まだ話せる時間がありそうだね、どうせだから聞いてみよう。


「……創造神様、何故あのような男を神子にしたのですか」


 わたしの問いに、フリッカの方から息を呑む音が聞こえた。

 創造神はと言えば、少しだけ天を仰いでから済まなさそうな声で説明をしていく。


「彼も幼少期の頃は敬虔な信徒だったのですが……」


 彼は神子に選ばれる前から創造神を深く信仰し、村のために創造神のためにといくつもの道具を作り出していたらしい。作っていた物自体は普通の村人らしく平凡であったけれども、その姿勢と信仰心を評価されて神子に任命された。

 彼は大層喜び、神子の力でどんどんモノ作りをしていった。モンスターからの被害を極力減らし、村の発展に多いに寄与した。誰もが幸せだった。

 しかし……次に創造神が彼を見た時には、ガラリと様変わりをしていた。


「そうなる前に私がしっかりと見ておけばこのようなことにはならなかった……かも、しれません」


 当時は他にも何十人と世界中に神子が居た。

 神子の数も多く元々の自分の役目もあり、今のわたし相手のようにこまめに見守るようなこともしておらず、気付いた時には彼の故郷は焼け野原となっており、彼自身は遠く離れたアルネス村で好き放題していた。

 看過出来る事態ではなく創造神は彼に詰問をしたら「俺の妻を殺すようなやつらを懇切丁寧に守ってやる必要がどこにある?」と返ってくるだけだった。


「改める意志もなかったので力を取り上げましたが……神子の特殊技能が使えなくなるだけで知識も経験も残ったままですので……」


 対応が遅きに失したことに創造神は心底申し訳無さそうにフリッカとフィンに頭を下げ、二人共に泡を食らってしまった。

 神様にしては腰が低いよねぇ。とは言え、無暗に偉そうにされるとイラッときちゃうかもしれないけれど。


 とまぁ、大体はこんな所らしい。

 ……彼が変貌したのは伴侶を殺されてしまったからと予測され、彼にも同情に値するような所もあったのかもしれない。

 けれども……だからと言って、全く無関係のアルネス村の住人を自由にしていいはずがない。

 だから、わたしは間違っていない。と、思いたい。……自己弁護なだけかもしれないけれど。

 重くなった心を何とか消化しようと試みていたら……またも心を読んだかのように創造神がわたしの頭を撫でるように手を乗せる仕草をした。


「リオン、貴女には負担を掛けてばかりですね」

「……いいえ、わたしがわたしの意志を以って行ったことですから」

「……ありがとうございます」



「それにしても……あのイビルトレントは何だったんですかね……モンスターなのかダンジョンなのか……」


 またも頭を撫でられたのが少し恥ずかしくなって、話を逸らすためだけのぼやきのつもりだったのに、その答えは創造神からあっさりと示される。


「あら、気付きませんでしたか? リオンは経験済みのはずですけれども……」

「え?」

「原理としてはクジラ島と同じですよ」

「……あっ」


 あああああそうだ、そうだった!

 クジラ島ダンジョン――超巨大クジラがそのまま島となり、島まるごと体表も体内も全てがダンジョンのように扱われていたパターンである。それでも元はモンスターなので、システム的にはモンスターとして分類されていた。

 イビルトレントの場合は体内ではなかったけれども、生命力を徴収する支配領域であったと言う点ではダンジョンと同等の性質を持っていた。しかしやはり元はモンスターだから、と言うことか。

 いやあの時は大変だったな……体内は見た目気持ち悪いし、それでも素材になるかと思って肉壁に手を出したら血が飛び散るし、クジラが口を開けるたびに海水が流れ込んで溺れそうになるし、胃液で溶かされそうになるし、寄生虫モンスターもグロいしで泣きそうに……。


「おーい。リオン、大丈夫か?」

「ハッ……」


 思わず遠い目をしていたらウルに肩を叩かれた。

 今回はド忘れしていただけだけど今後未知のモノに出合う可能性は大いにあるわけで……冷静に対処していかなきゃな。


 先程の神子の数の話で、ふと気になったこともついでに聞いてみた。


「そう言えば、今現在の神子の数はどれくらいなんですか?」

「リオンを含めて、活動している神子は三名です」

「……すくなっ」


 何でもアルネス村の件に反省して、神子に任命する基準をかなり厳しくしたそうだ。その厳しい基準を何故わたしがクリアしたのか疑問だけどそれはさておき。

 モンスターとの戦いやら事故やらで死ぬ神子や、『生きることに疲れた』と自ら力を返上する神子も居て、数は減っても増えることがあまりなくて。

 今ではすっかり神子が少ないと言う、本末転倒と言うか、なるべくしてなったと言うか……上手く行かないものですね。

 ん? 今何か引っかかったな?


「生きることに疲れたら、何で力を返すことになるんですか?」

「神子の力を得ると言うことは神に近い存在に成ると言うことですので、不死ではなくても限りなく不老になりますから」

「……はい?」


 不老、って。……え?

 つまりわたしは、ただの人間ヒューマンではない……?


「リオンの場合は更に特殊です。私が手ずからその体を作りましたので。基本は人間に寄せていますが……神造人間ドールとも言えます」

「……そう言えば、一番最初に言ってましたね」


 ずっとただの人間だと思ってたけど……全然違いましたねぇ……フリッカに嘘吐いてしまいましたねぇ……。

 ……中身メンタルはただの人間なんですけどね?


「えっと……他の神子との違いは?」

「そうですね。貴女の力は後天的に与えたものではなく元々持っていたと言う扱いになるので、私が取り上げることは出来ないと言う点でしょうか」


 おっと、それ言っちゃっていいやつ……? わたしが悪いことしても止められないよ宣言では……?

 そこまでわたしを信用しているのか、言外に釘を刺しているのか、抜けているのか……どれだろう。

 例えば、ウルがとある村人に殺されでもしたら、その村人に復讐……はするかどうかわからないけれど、『救わない』と言う選択肢を取ることは十分にあり得る。アルネス村だっていい加減イライラしていたので、ちょっとボタンを掛け違えたらイビルトレントを倒すだけで『はいさようなら』とかやっていたかもしれない。


「リオン、私が彼の力を取り上げたのは村で好き勝手をしていたからだけではありません。彼の比重が創造より破壊に傾き過ぎたからです」


 極論、たとえ住人を救わなくてもその地を救うだけでも良い。むしろ心を壊すくらいならそうなる前に逃げて欲しい、と。

 創造神としても住人は大事であるけれど、それ以上にこの世界が、そして世界を整える神子の方が大事である、と。


「なので、どうしても辛くなったら言ってください。神子からの解放は出来ませんが……休息を取れるようにはしますので」

「……わかりました」


 創造神も非常に忙しいようなのでわたしが離れてもいいのだろうか、という気持ちはあるけれども……まぁ実際そんな事態になったら他のことを考える余裕すらなさそうな気がするので素直に頷いておいた。


「他は然程変わりはありません。つまり不死ではないので、重々気を付けてください」

「あ、はい、そこはもう」


 不死だとしてもわざわざ死にそうな目には遭いたくないけどね。痛いのは嫌なので!

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[一言] リスポーン不可能なんか...
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