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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び

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花が開く時

「うわぁ……」


 拠点へとフリッカとフィンを連れて帰って来たら、フィンが声を上げて物珍しそうに眺めていた。木がほとんどない平地だからかな?

 フリッカは祭壇と整えられた花壇を見て、感心したように呟く。


「アルネス村の物より随分立派ですね」

「そりゃ神子ですから? まだまだ物足りないくらいだよ」


 なおフィンであるが、フリッカが一緒だったことと、父親こわいひとと離れられるなら、と言うことで、特に引っ越しに際して文句は出なかったらしい。つい目頭を押さえてしまった。

 ウルを見て怖がるかな?と懸念があったけれども、「お父さんにくらべればぜんぜんこわくない」と。……安心するべきか嘆くべきか悩む所である。

 けれど、わたしに対してたまに、お姉ちゃんフリッカにしがみつきながら胡乱な目を向けてくるのよね……取らないから……。ちょっと先行き不安だ。


「周辺にも色々あるようですが……全部リオン様が?」

「材料集めはウルが手伝ってくれることもあったけれど、まぁ全部わたしが作ったね」


 ……ウルさんまだモノ作りできませんからね……。わたしのこの説明の横で「ぐぬぬ」と悔しそうにしている。

 さて、まずは朝ご飯でも食べましょうかね。



「お姉ちゃんのご飯より美味しい!」

「……ちょっと、フィン……!」


 小さい子と言うのは簡単なもので、美味しい食べ物であっさりわたしを尊敬するような目で見てきた。……これはこれで先行き不安だ。

 フリッカが作ってたのならば、実はご飯を碌に与えられてなかった、と言う悲しい事実が潜んでいるわけではなさそうだし。

 ウルと同じような勢いで(もちろん減る速度は違う)食べる様を眺めていたら、フリッカが少しばかり赤い頬をしたまま決意の表情で見詰めてくる。


「リオン様……料理を教えていただくことは可能でしょうか……?」

「いいけど、特別なことはしてないよ?」


 作成メイキングスキルでパッと作る時以外は、これと言ったことは何もしてないからねぇ。

 後日に彼女の料理を食べてみたけど普通に食べられる味で、何故かご飯を不味く作る才能があると言うわけでもなかった。ちなみにウルは作る以前の問題だ。

 なので、教えていけばちゃんと吸収して、しばらく後にバフ付き料理まで作れるようになるのだった。



 ご飯の後は拠点の手入れをしながら案内をする。

 魔石で作業を自動化している部分に特に驚かれるんだけども……皆そんなに活用してないものなのかな?


「アルネス村ではそれらしきものは何も……曽祖父様、御祖父様を除いた長老宅にはあるかもしれませんけれども」


 薬を独占してたくらいだしなぁ。他の技術を独占していたとしてもおかしくないかも。……欠落させていたとしてもおかしくないけど。


「仕組みとしてはそう難しくないから発想次第かな、これは」

「なるほど……さすがですね」


 ……多数のプレイヤーの尽力の賜物なのにわたしが褒められてしまった。うぬぅ。


 モノ作りに興味を持ってくれると嬉しいなー、と言う願いも込めて作業棟の中身も軽く説明する。

 細工、錬金、鍛冶……料理と特殊なもの以外のほとんどがここで行えるようになっている。……鍛冶はまだ設備だけだけどね!

 あー、そろそろ錬金設備の拡張時期かな? だとしたらあのアイテムが必要になってくるな……素材見つかるかな。

 二人が何かしら出来るように簡易作業用も……いやその前に部屋を用意しないとだな。しばらくは客間を使ってもらうとして、家具は後で希望を聞くとして。

 フリッカが料理したいと言うからキッチンの拡張もしておきたいし、食堂も……うーん、いっそ今の建物を丸々使って共同用のアレコレを設置するとして、宿泊棟を別に建てるかな。

 となると――


「あ、あの……リオン様……?」

「放って置け、いつもの病気だ。我もしょっちゅう存在を忘れられる」



 しばらくしてから我に返り、乾いた笑いを残してから案内の続きをする。


「おぉー……」


 フィンが次に興味を持ったのは意外にも牧場区画だった。牛をあちこちから眺めたり、鶏に恐る恐る触っていたりする。

 うちの動物たちはウルさんを恐れないツワモノなので(?)、その程度では逃げないのよね。


「アルネス村で畜産はやってなかったの?」

「勿論やっていましたが……『あのような汚らわしい所に行くな!』と怒られるので、フィンは初めて見るはずです」


 ……お前の食う卵と肉と乳製品はどこから沸いているんでしょうねぇ?と言ってやりたい。いや二度と会いたくないけど。

 フィンは農場区画でも広々と作物の植わった畑に驚いていた。……想像通り、これも初めて見るものらしい。

 ふむぅ……どのみち何かしら作業は覚えて欲しいし、経験してもらうのもありかな。


「ねぇフィン、良ければ畑と動物の世話をやってみる?」

「え、でも……」

「大丈夫、そんなに難しくないよ。わたしも一緒にやるし」


 日本でどうだったのかは知らないけれど、アステリアではわりと大雑把でも育つんだよね。質を上げようと思えば手間暇愛情を篭めなければいけないけれども。

 わたしの提案に、それでも不安だったのかフィンはフリッカを見上げる。フリッカは笑みを浮かべて頷いた。


「じゃあ……おねがいします」

「うん、頑張ろう」


 ポンポンとつい頭を撫でてしまったけれども、フィンは特に嫌がる素振りを見せることもなくて良かった。



 昼食の後は、疲れてしまったのかフィンはお昼寝をしている。ウルは逆に動き足りないのか「ちょっと運動してくる」と出て行った。アルネス村ではほぼ行動を同じくしていたけど、今は拠点だからわたしがどうこうなる心配もないのだろう。

 フリッカは料理の他に錬金と細工に興味を持ってくれたようだ。後、聖属性についてのあれこれを。……まぁまだ心残りがあるんだろうね。まずは聖花について軽く説明をしつつ、花壇の手入れを行う。

 そして、ある程度キリがついて休憩しようかなぁと思った所で、フリッカが神妙な顔で話しかけてくる。


「リオン様」

「ん? 何かわからない所あった?」

「いえ……」


 フリッカは急に姿勢を正した……と思えば、跪き始めた。

 う、何だか嫌な予感。


「私は……貴女の手により体だけでなく、心も救われました。つきましては、この身の全てを以って貴女のために生涯尽くしたいと思う所存です」


 またかー……とわたしは思わず顔を覆ってしまった。

 いや、うん、そう思ってくれるのは嬉しいよ? 嬉しいけど……何だか、違う気がして。

 フリッカはそんなわたしの悩みに気付いたのか。


「すみませんでした。言い直します」

「……うん?」


 マイルドに言い変えるのかと思えば――もっと大きな爆弾を落としてくるのであった。



「リオン様、私は貴女のことを愛しています。それ故、死ぬ時まで貴女の御側に居たいのです」


「……へっ?」



 ……はい?


 …………それって、つまり…………。


「え、え、ええええええ……???」


 衝撃的すぎて思考回路が壊れてしまったわたしの声は、随分マヌケに聞こえたことだろう。

 ポカンとした顔でぶっ壊した当人を見てみるも表情は至って真面目であり、冗談で言った気配はない。いや、元々冗談は一度も聞いたことがないのだけれども。

 ……真面目が過ぎるのかその言葉を言うのが当人の中で自然なのか、赤面すらしていない。むしろ言われたわたしの方が頬が熱くなってきた。

 いやだって生まれてこの方二十年程、愛の告白とかされたことありませんからね……! 免疫なんてあるわけがない……!

 動悸が早くなり、どう答えればいいのかわからず、ひねり出そうにも頭の中がジューサーで掻き回されているように混沌としていて出てこない。

 ひたすらアワアワと無意味に手を動かしていたら、少しだけ苦笑して付け足してきた。


「私の意志表明をしただけで今すぐ貴女の嫁にして欲しいと言う話ではありませんので、ゆっくり判断してください。勿論断ってくださっても構いません」

「え、あ、はい……」


 ズルいような気はするけれども、その言葉に少しホッとしてしまった。

 だって……ねぇ? 彼女のことは好ましいと思っているけれど、嫁にしたいかと言われると性別的なモノを抜きにしても……即断でNOとは言い切れないけれどもYESとも言えない。優柔不断ですみませんね!

 と言うか、恋人を通り越して嫁って……いや、その段階ならOKと言うわけでもないのだけども! お試し? ハハ、そんな器用なことは出来ませんよ……。


「ついでに申し上げますと」


 フリッカはちらりと視線を何処かに向けて。


二番目・・・でも大丈夫ですので」

「はい!?」


 二番目ってことは、一番目が居ると言うことで。

 それが誰のことを示しているのかすぐにわかってしまった。そもそも候補が一人しか居ないんだけども。


「えっと、ウルとはそういう関係では……」

「知っています」


 あっはい。


「でも、最も信頼しているのはウルさんでしょう?」

「それは……そうだね」

「別に私はどうしても一番になりたいわけではありません。あの方を蹴落としたいわけでも、蔑ろにしたいわけでもありません。そもそも、リオン様とウルさんのやり取りに憧れる所もありますから、それを大切にしつつ私も同じように良い関係を築けたら、と」


 フリッカは静かに目を伏せ、何呼吸かの溜めを作ってから再び目を開き。


「……その末に、貴女に少しでも愛されるよう、頑張っていきたいと思います」


 花のような、と形容するにふさわしい、これまで見てきた中で最上の穏やかな笑みを見せるのであった。

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