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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び

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最後に少し報われた話

 カイナが慌てて振り返ると、ザギさんが、ウィーガさんと他数人を引き連れてやってきた。その中にはウルも居る。

 ……良かった、ちゃんとウルの言葉を聞いてくれたんだ。ウルが別行動したのは、こっそり彼らと連絡を取るためだったのだ。

 まぁこれで『リザードだから』とスルーするような人達だったら、異変は解決したのだしもうこれ以上は付き合ってられない、と放り投げて帰還石で帰るだけだったけどね。

 しかし……証拠まで持ってきてくれたんだ?


「これが貴様の部屋にあったのだがな」


 ポイと放り投げられたそれを見て、わたしも思わず顔をしかめてしまった。


 ……【汚染されたイビルトレントの枝】だったのだ。


 つまり、めっちゃイビルトレントの存在を知ってたんですやん。


「な、何だそれは、知らぬぞ。そうだ、そこのリザードが持ってきたんだろう! ハハ、俺を罠に嵌めようなどと――」

「……貴様の部下が、気に入らない相手に飲ませるよう命令されたと証言したが?」


 ウィーガさんが男の人の腕を引っ張り前に立たせる。

 ……ん? 何処かで見たことあるような……どこだっけ?


「その隷属の首輪とやらも、汚染物の研究ノートも押収済だ。筆跡は明らかに貴様の物だから誤魔化しは効かぬぞ」


 これは後から聞いた話であるけれども、村内の衰弱はともかく、瘴気に関してはほぼカイナのせいだったらしい。

 どれだけ摂取すれば症状が出始めるのか、継続するのか、死に至るのか、ノートに色々と記載されていた。

 そこに『症状が回復した』『治った』と言う記述は一つもなく、努力の過程も一切なく、治療用の研究だった線は消え、完全に悪用するためのものだったようだ。

 被験者・・・は主に別派閥から選ばれ、自派閥の者でも逆らった者などに使用していた。

 そして……フリッカの母にも使用されていた。それはフリッカ父が『自分(の持ってくる治りもしない薬)に依存するように』という理由で始めて、量を誤って致死量を摂取してしまったものと思われる。

 あまりの身勝手さに反吐が出そうであった。……このことはフリッカ本人には伝えていない。ウィーガさんからこっそりとわたしにだけ聞かされた話だ。


 しかし今回の作戦、フリッカに刺される演技をしてフリッカ父の油断を誘う、という所は合ってたけど、居るかどうかもわからなかった黒幕が自ら出てくるとは思わなかったなぁ。

 ウルはフリッカ父による殺害命令の件を報告して捕縛の許可を得て、背後からわたしをフォローする予定だったのだが、すでにカイナに疑惑を抱いていたザギさんの提案により方針を急遽変更したとか。

 わたしだったらそんなヤバイノートは絶対部屋に置いておかないな、と思ってたけど、巧妙に偽装された隠し部屋の入口をウルが見つけて、さらに内側にデッカい鍵があったけど力技で破壊したらしい……どうしようもないですね!


「く、くそがああああっ!」

「させるわけがなかろう」


 ゴッ


「……ぐあ……っ!?」


 破れかぶれとばかりにカイナが最後の抵抗をしようとしたけど、ウルがすかさず投げた石で昏倒して捕まりましたとさ。……頭が割れなくて良かったね?

 他のカイナの取り巻きの人達も変な動きを見せるたびに石が投げつけられ、最後には皆大人しくなった。


 そうして騒動は終幕となり、カイナとフリッカ父を始め色んな人達が引きずられていく中、ウルがこちらへとやって来た。


「お疲れ様だ。リオン、フリッカ」

「ウルもありがとうね。どうしようか悩んでたから助かったよ」

「お疲れの所ではあるが、ぬしと話したい者が居るそうだ」

「ん?」


 ウルが後ろに向かって手を振ると……あの部下と言われていた人が近付いてきた。

 少しばかり警戒の構えを取ったのだが、ガバっと膝を付かれて思わず気が抜けてしまう。


「神子様、大変申し訳ありませんでした。お連れの方にもお詫びを申し上げたく……」


 なんと、わたしが一番最初に飲んだお茶に瘴気の枝を混入させていたらしい。そう言えば何だか妙な感じがしたけど……あれか?

 元々はにっくきリザードウルに向けての物だったらしいけど、わたしも同じ物を飲んでたからなぁ。


「カイナの部下と言う話だけど……どうして証言する気になったの?」


 バタバタしてはいたけれど、ザギさんがこの人に話を聞いた時点ではまだこんな結末になることはわからなかったはずだ。知らぬ存ぜぬでも通せたはず。良心の呵責でもあったのだろうか?

 ……この想像も間違ってなかったけれども、意外な理由に少しばかり目を丸くする。


「神子様の薬で息子の病気を治していただきましたので……」


 あー、長老トリオ派にも何人か病人が居たって話だったな。その中にこの人の子どもが居たのか……言われてみれば顔を見た記憶が微妙に残ってる。情けは人のためならず、とはこのことだろうか。

 わたしのおかげで薬を盾に従わされる必要もなくなり、更に酷い話として彼は自分が混入させていた物が何なのか知らされておらず、自分の子どもを苦しめていた物と同じだとザギさんに教えられて絶望し、やらされていたあれこれを白状する決意をした、と。

 ……怒るに怒れなくなっちゃったなぁ。症状も出なかったんだし。

 ウルに至っては「全く気付かなかったわ」と肩を竦めるだけで、わたしに判断を委ねてくれるようだった。


「わたしとウルに対しての行動は不問にするよ。ただ、これまでの行動に関してはちゃんと裁きを受け入れてね」

「……ありがとうございます」


 情状酌量の余地はありそうだけれども、そこはわたしが口出しする所ではない。全部あの人の行動のせいではないだろうけど、死人だって出ているのだし。

 大人しく部下さんが帰って行ったのと入れ替えに、今度は女性と子どもがやって来た。

 おや、この人は……。


「神子様、御挨拶……の前に、そのお怪我は大丈夫なのでしょうか?」


 おっと、そう言えばそのままだった。


「大丈夫です、トマトジュースなので」

「トマト」


 古典的な方法だよねー……ってアステリアでも使われてるのか知らないけど。ウルや鼻の良い獣人ビーストが相手だったら匂いで即バレしそうだな。

 無事を示すようにペチペチお腹を叩いてから、女性の方に向き直る。


「病気、歩ける程に治ったんですね。良かったです」

「あ、はい。その節はありがとうございました」


 うん、本当に良かったよ。

 わたしが満足気に頷いていると、頭を下げる母親を押しのけるように少年が手を上げて「ハイハイ!」と主張する。


「みこさま、きいてきいて!」

「ん? 何かなー」


 母親は子どもの言動に慌てるけど、「いいんですよ」と手振りする。


「あのね、ウィーガさまが、おくすりきょうしつをやってくれるんだって!」


 ほーん。早速かぁ。

 自分達だけで独占しようとせず、ちゃんと公開してくれるようで安心したよ。まぁいい人そうではあったからそこまで心配してはなかったけど。

 わたしがそんな風に心の中で感心していると、少年から不意を打つ言葉が出てきた。


「ぼくもいっぱいべんきょうして、みこさまみたいに、すごいおくすりつくれるようになるからね!」

「――」


 胸が詰まり、言葉が出ない。


 わたしの作ったモノに対して感謝を述べられるのは嬉しくなるけどむず痒い気持ちも沸いてくる。

 しかし、こうやって追従の姿勢を見せてくれるのは……単純に、とても嬉しい。


 モノ作りの意志が、創造の力が広がる様を目撃すると、感慨深いものがある。

 あぁ……わたしの蒔いた種は、きちんと芽吹いてるのだ、と。

 また荒野に戻るかもしれない。けれども、遥か彼方まで続く草原になる可能性だってある。


 願わくは、この芽が健やかに育ちますように――


「うん……頑張って。期待してるよ」


 十数年後、少年は薬の分野において神子わたしに匹敵する腕を持つようになるけれど、それはまた別のお話だ。

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