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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び

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束縛からの解放

「……あ……」


 わたしはゆるゆるとおなかの方を見る。

 鈍く光る白い刃が生え、じわじわと、赤い物が染み出してくる。


「……あああ……」


 おなかを押さえて、がくりと膝をついた。衝撃でボタボタと垂れていく。

 その拍子に持っていた魔石を落としてしまい……すぐさま誰かに拾われる。


「よくやった! さぁ、それを持ってこっちへ来るんだ!」


 静寂を引き裂くように、いっそ気持ち悪いと言える程の喜色満面の声でフリッカ父が叫んだ。

 ノロノロと、魔石を拾った誰か――フリッカが歩みを進めていく。

 動けないでいるわたしは……グッと、手を握りしめた。


 父親の元へと辿り着いたフリッカは、魔石を渡す……直前で手を止め、小さな声で問う。


「……御父様、もういいでしょう?」


 最初は「あぁん?」って反応であったが、目線でフィンのことを尋ねられていると気付いたのだろう。

 一瞬だけ醜悪な笑みになり、すぐに取り繕うように表情を戻した。


「あぁ、後は俺達に任せて、お前達は家で休んでいるといい。……フリッカは後で説教だがな」


 ……あれは絶対、説教じゃない別の何かをするつもりだ。

 取り繕いながらも滲み出る色欲は、遠くから見ているわたしからしても吐いてしまいそうな程で。

 間近でぶつけられてしまったフリッカのダメージは如何程なのだろうか。

 それはすぐに、見られることになる。


「……が」

「ん?」


「何が説教ですか! この色情狂が!!」


 ボゴオッ!!


「ぎょあああああああっ!?」

「お、お姉ちゃんっ?」


 フリッカは素早くフィンの手を握って引き離し、取り出した杖で下から上へ――股間へとフルスイングしていた。

 ……ヒエッ。

 ぶっ潰したい気持ちはすんごいわかるけど、布越しとは言えそんな汚い所を……ちょっと前にも思ったなコレ!

 わたしの周りの女の子はこんなんばっかりですね! リーゼもそうだったらどうしよう!

 って、ビビってる場合じゃない!


「リオン様!」

「はいはーい!」


 股間を押さえて悶絶するフリッカ父と唖然とする長老トリオに向けて、用意していたアイテムを投げ付けた。


 ボフンッ


「ぐあああっ!?」

「げほっげほっ」


 ハハハ、ただの唐辛子玉で非殺傷だから安心するといいさ! めちゃくちゃ粘膜が痛むだろうけどね!

 苦しむ人たちの隙を突いて、フリッカがフィンを連れてこちらへ向かって走って来る。


「フリッカはすでに誑かされていたのか……!」

「まだ罪を重ねるか……この恥知らずの人間ヒューマンめ!」


 周囲で杖を構えていたエルフが激昂して魔法を使おうとするが。


「恥知らずはどちらですか!!」


 今までに聞いたことのないフリッカの大音声が響き渡って、その口は縫い付けられたように止められた。


「リオン様はただ神子であると言うだけで、私達の病を治してくださり、森の異変すら解決してくださったのですよ! 恩を仇で返す所業を恥知らずと言わずして何と言うのですか!!」

「……だ、だが、それらはその人間の仕業では――」

「証拠はあるのですか?」


 もっともなフリッカの言葉に、反論しようとしたエルフは沈黙をする。


「証拠もなしに、ただの妄想に踊らされて断罪しようとしたのですか?」


 静かに、だけれども強い意志の籠った声で。

 フリッカはゆっくりと武器を手に攻撃しようとした者達を眺めていき、目の合った者はバツが悪そうに手を降ろしたり、視線を逸らしたりしている。

 ふぅ、一触即発の空気からは解放されそうだ。わたしはもしもの時のために帰還石を握りしめていた手を緩める。


「……何故、動けるのだ……」


 カイナが唐辛子ダメージから回復したようだ。濡れてるから魔法で水を出して洗い流したのだろう。

 ……チッ。

 憎々しげな視線がわたしだけでなくフリッカにも向けられている。

 フリッカがわたしを殺さずにいた――命令に逆らった行動をしていることを指しているのなら……そうか、こいつが隷属の首輪を提供したのか。まぁ十中八九神子産だろうし、その辺りが妥当ではあるけれども。


「あぁ、この隷属の首輪のことですか。リオン様が外してくれましたよ」

「……なん……だと……?」

「残念でしたね、私が貴方達の言いなりにならなくて」


 もっと勿体ぶっても良かった気はするけれども、フリッカはあっさりネタ晴らしをした。首のそれを引き千切るように外して地面に叩きつける。

 その勢いに、わたしが怒られたわけでもないのについ肩を竦めてしまった。……いや、あの、ご、ごめんね、フリとは言え嵌めさせて。


「このような非道な手段を用いて、アルネス村のために尽力してくださったリオン様に盗掘の冤罪を掛けたあげく殺害しようなどと……あぁ、ひょっとして貴方が異変の原因なのでしょうか?」


 フリッカもわたしと同じような考えに至ったようだ。カイナの言動が不自然すぎるから、そう思うのも時間の問題だったろう。

 ここでこんな行動を起こさなければ、わたしは長老トリオに疑惑は持ちながらもどうしようも出来なかったかもしれないのに……これは自滅でしかない。


 エルフ達の間にまた別のざわめきが走った。

 ……フリッカ父は事実関係を明らかにしないまま殺害命令を出したからねぇ……真相を葬り去ろうとしたと思われても仕方ないでしょうよ。


「し、知らん! 俺はお前にそのような物を嵌めてなどいない!」

「……実行犯は父でしたからね」


 なお、フリッカ父はまだ悶絶しているので弁明の一つも出来ないようだ。クリティカルヒットだったのかな。……ザマァ。


「でも、この愚かな父にこのような物が用意出来るとお思いですか? 誰かから渡されたと考えるのが自然でしょう。……ねぇ、曽祖父様?」


 ……わぁ、ここで意外な新事実が発覚したぞぅ。

 カイナとフリッカ父は祖父と孫の関係に当たるそうだ。つまり、フリッカは義理とは言え曾孫に当たるわけで。

 しかしこの祖父にしてこの孫ありか……性格がバッチリ遺伝してつらみしかない。フィンちゃんに遺伝してないことを祈ろう……。


 そしてカイナは神子の実の子だ。神子謹製のアイテムをいくつも持っていたとしてもおかしくない。フリッカはそれを言外に指摘したのだろう。

 理論武装で返すでもなく、カイナは額にいくつもの青筋を作り、顔を真っ赤にしてわめき始めた。


「しょ、証拠を出してみろ……!」

「証拠……?」

「俺が首輪それを持っていたと言う証拠、異変に関わっていたと言う証拠、そしてその神子が魔石を盗んでいないと言う証拠だ! フリッカの証言は不可だ。盗人神子に取り込まれて俺に罪を擦り付けようとしているのでな!」


 ……自分が証拠もなしに嘘八百を並べていたくせによく言うよ……ここまで面の皮が厚いともはや笑いたくなってくる。

 しかし前者二つに関してはまだ疑惑止まりであるし、三つ目はあの場にはわたしたちだけで第三者は居なかったし、戦いの跡を見せた所で『で?』って言うだけじゃないかな。

 どうしたものか、と頭を掻いていると、盤面を引っ繰り返すセリフが飛んでくる。


「カイナよ、貴様が罪を犯している証拠ならあるぞ」

「なっ……!?」

首輪を外すくだりを回想としてここに持ってくるべきかと思いましたけど、あのシーンを抜くとフリッカの様子の変化の説明が辛かったので、三人称ならともかくリオン一人称ではもんのすごい茶番にならざるを得なく…描写力が欲しいです…。

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