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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び

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襲撃

「きゃあああっ!」

「ウル!」


 わたしはギリギリ掠っただけで済んだけれども、フリッカが運悪く(いや、刺さらなかっただけ運が良かったと言うべきか)服に引っ掛けられて宙に放り上げられてしまった。

 ウルに咄嗟に救助を頼むが、頼むまでもなく既に飛び上がっており、空中でフリッカをキャッチして地へと戻ってくる。さすが。

 しかしウルはフリッカを降ろすことなく、そのまま前――元々の進行方向――へと走り出す。

 その瞬間、ウルがつい先程まで足を踏みしめていた位置から根が突き出された。


「ひぇっ!?」

「リオン、まだまだ来る! 走るぞ!」

「りょ、了解!」


 凄まじい野性の勘が働いているのか、それとも地面に現れる刹那の兆候を瞬時に察知しているのか、ウルはフリッカを抱えたまま根の槍をすり抜けるように駆けて行く。

 下からだけでなく横からも根が襲ってくるが、そこはわたしがQAボックスから取り出したオークファングアックスで切り払っていった。木材ならアックス系で補正が入るからそんなに苦ではない。切った先から素材になってるけど……さすがに拾う余裕はない、ぐぬぬ……!

 前から来る根は上手く体を動かしてあえて掠るようにぶつけることで逸らし――しかもご自慢の鉄壁肌で傷一つない――、器用にわたしにも当たらないようにしてくれている。妙技を特等席で見学することになってしまったフリッカから時折悲鳴が漏れてくるけど、そこは我慢してもらうしかない。


「すまぬ、木の根がモンスターと気付けなくて!」

「いや、そういう種類のモンスターが居ることを失念していたわたしも悪いから!」


 植物タイプのモンスターだって当然のように存在している。

 引っこ抜くと致死ダメージの金切声を出すマンドレイクや、根をクネクネさせて巧みに歩く植物アルラウネ、モンスターと言うよりはプレイヤーにメリットを与えてくれることもある精霊種のドリアードも居る。

 他にはトレントとかね。今回のこれもきっとそうだろう。見た目がまんま木で、擬態して潜んでおり、無防備に近付いたプレイヤーをグサリと刺してくるのだ。不意打ちタイプという点はサイレントキラーと共通している。

 とは言え、トレントがこんなに大量に潜んでいたのならば、ウルなら気付けそうなものだけれども……何故?

 気配が薄い……擬態と言うよりは地中に埋まっていたからわかりにくかった?

 ……いや、待って、その前に――


 本体は何処・・・・・


 襲い掛かって来ているのは全部『根』だ。枝葉含めて全てがトレントの体であり武器なのでそれはおかしくないのだが……では、幹は?

 周囲に生えている木が全てトレントだったりする? 違う、攻撃のため動き出したトレントは葉のせいでワッサワサ音的にも視覚的にもうるさいことになるので、それならさすがにわたしでもわかる。

 幹も含めて全部埋まっている? ないとは言い切れないけれど……。


 ――……まさか?


 わたしの脳裏を、とある可能性がよぎった。

 手と足を動かしながらも、襲い来る根と、周囲の木と見比べてみて……更にその可能性が高くなった。

 もし、本当にそうなのだとしたら……想像するだけで、背筋に寒気が走る。

 加えて、事態の悪化を知らせるウルの叫びが聞こえて来た。


「リオン、フリッカ、前方に瘴気が沸いている! アイテムを使え!」

「っ!? わかった!」

「は、はいっ」


 わたしはホーリーミストを取り出して使用した。もちろんフリッカにも(一応ウルにも)事前に渡している。

 キマイラ戦の時よりは数に余裕があることだし、ウルが使えと判断したのなら出し惜しみせずに使うべきだ。


「チッ……誘導されているとは思ったが……!」


 ウルが唸り声と共に吐き捨てる。

 誘導か……瘴気が見えてきたことからしても、そうなのだろう。

 根で死んだらそれはそれ。たとえ死ななくてもより確実に対処出来るよう、モンスターがあえてわたしたちを自分の元へと招いたのだと。この場合、モンスター側は迎え撃つ準備は万端と言うことで一段と難易度が上がることになる。

 漂う瘴気でやや見えにくいが、視界にポッカリと不自然に森が途切れた空間が入った。

 その中心には、黒い壁が聳え立っていて。

 ……いや、違う。


「ハハッ……ブチ壊し甲斐がありそうだな……?」

「これ……は……」


 ウルの不敵でありながらどこか乾いたような声と、フリッカの恐れ混じりの呟きが耳に入る。

 わたしたちの、見据える先には。一瞬、黒い壁と錯覚した程の。



 あまりにも巨大な一本の木が――モンスターが、居た。



 大きさはアルネス村にあった御神木より一回りも二回りも大きい。

 そして全体が、葉も含めてとにかく黒い。瘴気を纏った影響なのだろうか。


 何故わたしがそれをモンスターと断言出来るのか、それは単純である。

 枝が、根が、蠢いていたからだ。

 幹に大きな穴――横に大きく裂けて瘴気を漏らす口が、熾火のような不気味な暗い光を灯す虚ろな一対の目が、あったからだ。


 ――ウオオオオオオオオンッ


 ひょっとしたら、風の通り抜ける音だと思ってた内のいくつかはこいつの叫び声だったのかもしれない。

 このモンスターはトレントの中でも悪霊に近いイビルトレントのようだ。ただのトレントに顔はないからね。

 他の特徴として弱点属性に、通常のトレントと同じように火属性があり、悪霊の弱点でもある聖属性も追加されるけれども、だからと言って攻略難度が低くなるわけではない。ドレイン能力で植物モンスターの特性である再生力が強くなるからだ。

 そしてやはり、嫌な予感が当たってしまった。


 攻撃してきた根は、全てこのイビルトレントの物だったのだ。


 根と幹の色が一致しているし、他に同じ色をした木は見当たらない。

 元々巨木だったのか、それとも周辺のリソースを吸い取るうちに大きくなったのかは不明だけれども、そこはどっちでも現状は変わらない。

 問題は、根があちらこちら一帯に、超長距離で張り巡らされていることだ。まさか偶然わたしたちの足元だけ根があったわけでもないだろうし。

 そしてその根を使って、こいつが活動するために栄養を吸い上げることで周囲が衰弱状態に陥り、同時に瘴気が振り撒かれていたのだろう。

 つまりは、周囲一帯を衰弱状態にする程のドレイン能力を持っていると言うことであり……辛いな、これは。


 しかし……どこをどうすればこんなに大きくなるんだ……?

 それとも根がただ長いだけ(だけ、と言うにはこれはこれで脅威だけれども)で衰弱の原因は別……ダンジョン核がどこかにあるのか……?


「ん……?」


 辺りにちらほらとモンスター素材らしきものが散らばっている。生まれてきたものの、こいつに喰われてしまったのか。

 ……サイレントキラーが大発生したのも、こいつがモンスターを喰っていたからだったり、する……? いやまさかね……さすがに範囲が広すぎる……ハハハ……。


「リオン、我が攻める! フリッカと防衛しながら打開策を考えてくれ!」

「……っと、了解!」


 考え込んでいる暇はない、今はこのイビルトレント討伐に集中しよう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 全体として楽しく読ませていただいていますが、私が誤字報告をお送りしている中で「例え」→「たとえ」の意図がわかりにくいかもしれないので、お知らせさせてください。 日本語で「たとえ」と言う…
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