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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章後

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リオン観察記・終

最後はウルで〆

 リオンが創造神に成ってから五年程が経ったであろうか。つまり我も破壊神と成って五年程であるのだが、我のことはさておく。リオンは創造神として……かどうかはわからぬが(何せ言動が神子時代とほぼ変わらぬのだ)、精力的に活動をしてきた。

 しかしながら、リオンにはさっぱり威厳というようなものが身に付かなかった。見た目のせい……ではなかろう。見た目で言えば風神メルキュリスも似たような年頃であるし、言動も加味すればあ奴の方がよっぽど下に見える。しかしあ奴はその気になれば、しっかり神としての威厳を見せつけることが出来る。面倒だからせぬだけで。……面倒という気持ちはよくわかるが、あ奴と一緒なのは複雑な心境である。

 では経験の問題だろうか? リオンは神気量ならば神と言っても差し支えのない能力の持ち主だ。いや実際に神であるのだが。ただそれを効果的に発揮することが出来ない……という観点からすれば、やはり経験の問題であるか? 力の大半は創造神プロメーティアから譲り受けたものであるしのう。モノ作りは巧みだが、それ以外の点ではまだまだ使いこなせていない、ということか。


 だからこそ、トラブルも付きまとう。

 アステリアにおいて、プロメーティアの代理としてそれなりに知名度は高くなってきたが、リオンを舐めて低く見積もる輩がまだまだ多い。リオンの努力のおかげで大陸は比較的平和であるというのに、身の危険が感じられないと増長する輩というのは度し難い。『いっそ貴様の村にモンスターを放ってやろうか』と思ったことも一度や二度ではない。実際にやったらリオンに叱られることが容易に予想出来るのでやらぬが、フリッカには同意されている。


 まぁこれはまだ可愛い方であろう。もう一つの大陸、アトラスの方だとまた話は変わってくる。

 我らが海を越えて見つけた、異なる大陸。あの大陸の住人たちは、神に対する拒絶感が強い。地域によってはモンスターよりも嫌われておる。

 『自分たちが酷い目に遭っているのは、神がこの大陸を見捨てたからだ』

 そのような感情が強いゆえに。


 実際、他の創造神から手に負えぬと見限られ、プロメーティアに半ば無理矢理に管理を押し付けられたという話なので、境遇には我とて同情する。

 しかし恨みを無関係なリオンにぶつけるのはいかがなものか。奴らからすれば神として一括りなのだろうが。我も嫌われ……というよりは恐怖の要素の方が強いか。まぁそこはどうでもよい。

 ただでさえ能力が使いこなせていないところに、神にとって必要な要素の一つである信仰値がマイナスに振り切っておる。それではリオンとて苦労もするであろう。事実、アトラスの環境改善は遅々として進んでおらぬ。これはアステリアより広いのと、アステリアより環境が酷い、というのもあるだのろうが。


 アトラスは全体的にとにかく生命力が薄いのだ。緑が少なく、荒野と砂漠だらけのようなものだ。死の大地と呼ばれる、ひたすら灰色が続いているだけの地を見た時はリオンのみならず我も思わず息を呑んだものだ。あそこには瘴気とはまた別の不気味さがあった。

 そのような環境であっても、否、そのような環境であるからこそ、負の感情を糧にモンスター共は強化される。あの地には破壊神も居らぬはずであるが……ひょっとしたら、ラグナや冥界の王のような者が陰から糸を引いておるのかもしれぬ、とはリオンの想像であるが。否定しきれぬのが頭の痛くなる話である。

 そしてそのような環境であるからこそ同様に、住人たちの気性も苛烈になるわけで。一部の者は素直にリオンに感謝を述べるのだが、それがなければリオンは早晩潰れていたやもしれぬ。……そうなったらそうなったで、我が全てを一緒くたに滅ぼしてやるのである。なおこれもフリッカに同意された。


「……ふあぁ……よく寝た……。ウルも休めた?」

「我は元々問題ないのである」

「顔色が良くなりましたね、リオン様」


 手持無沙汰でつらつらとアトラスでの出来事を話していた我とフリッカの元に(なおフリッカはリオンの癖が移って何がしかの作業をしておった)、仮眠から起きたリオンがセレネと共にやって来た。

 ……これは我が深く言うことではないが、最近になってついにリオンが絆されたと言うか、陥落したと言うか。一応セレネの名誉のために付け加えておくが、弱っているところに付け込んだとかではなく、本人の努力によるものだと言っておく。元よりリオンは押しに弱い性格なので時間の問題であったのだろうが。


 我は破壊神に成った時より、リオンと……と言うより、他の誰とも寝たことがない。意識下ならほぼ大丈夫であるのだが、無意識だったり感情が昂ったりすると破壊神の力の制御が甘くなるからだ。寝返りパンチでフリッカやセレネの骨を折りかねない。リオンなら痛いだけで済むとしても、二人の肉体的強度は決して高くないのである。むしろ弱い方だ。

 リオンと出会って以来、リオンにくっ付いて寝ることが多かったので……少しばかり寂しいという気持ちが胸の奥で疼く。


「ウル? やっぱり疲れてない?」

「む? そのようなことはないのである」


 疲れていないのは事実である。アトラスの住人の言動に多少の辟易はしても大した痛痒を感じぬし、モンスター共はアステリアに比べれば強くとも、破壊神の力を得た我の敵ではない。肉体的にも精神的にも疲れる要素はない。

 のであるが……リオンが我を見て首を傾げる。何なのだ……?

 わけもわからぬまま「ふむ」と一つ頷き。


「――よし。ご飯を作ろう」

「お手伝いします」

「あ、アタシも手伝う」


 帰ってきたばかりのリオンに作業をさせるのか、などと止める者はここには居ない。モノ作りが何よりリオンのリフレッシュになると知っているからだ。

 別に機嫌が悪くなるほど腹が減っていたわけではないのだが……リオンの作る食事が一番美味いので我も止めはしない。ただ、どう頑張っても手伝えぬことが、やはり少し……寂しい、のかもしれぬ。


 その晩の食事は豪勢な物になった。フィン、イージャ、マナたち子ども組と、プロメーティアとノクス、まだ体が戻らず滞在したままの光神アイティ、闇神ハディスを含む神組も同じ卓を囲み、部屋に入りきれないゼファーとアルバも窓から見える位置に、アステリオスもそこで一緒に。つまりは勢揃いで。

 うるさい担当(おもにメルキュリス)が居らぬゆえ比較して静かな食卓であったが、それでも明るく賑やかであったと言えよう。皆、リオンの作った料理が大好きであるからして。リオンの作ったここ(・・)が、大好きであるからして。

 この拠点はいつも穏やかで、ご飯もいつも通りとても美味い。


 けれども……今日は、何かが抜け落ちておった。

 それが何なのかわからない。わからなかったのだが……このすぐ後に、示される。



「ウル。今日は久々に一緒に寝よう」

「……なぬ?」

「いやまぁ、いつもの野宿の時も一緒と言えば一緒なんだけど……ウルはわたしに気を遣って離れてくれているしね」


 枕を持って我の部屋までやってきたリオンは、返事を聞かずに枕を並べる。


「待つのだリオンよ。我の寝相のせいでぬしは痛い目に遭ったであろうに」

「あはは、確かにあの時は痛かったねぇ」

「笑いごとではなくてだな?」


 涙目で、本気で痛がっておったのが我の記憶に残っているのだが?


「ウル。ここはおうちだよ。だからきみも、ちゃんと休まないと」

「ぬ? どういう意味だ?」

「はいウル、両手を横に大きく広げてー」


 リオンの意図が読めぬまま、言われるがまま手を広げたら。


「まぁこれはわたしが昔、フリッカにやってもらったことなんだけどね」


 ……リオンが、正面から我に抱き着いてきた。

 久方振りに味わうそれは、我の中に根付きかけていたモヤモヤを拭っていく。


「きみがわたしのことを気に掛けてくれているように、わたしもきみのことは気に掛けているつもりだよ」

「……」

「きみが、自分の力が怖くてわたしに触れられないなら、わたしの方からきみに触れてあげる」


 いつしか、見下ろす形へとなってしまったリオンの頭。

 表情は見えないのだが……どのような表情をしているのかは、想像がつく。

 いつも、見てきたのだから。


「……焼き立てのパンの匂いがするのである」

「……誉め言葉として受け取っておくよ」


 その日の夜は、随分と楽しい夢を見た気がする――

Q:前作主人公が新作で弱くなってるのは何故? A:デバフです

みたいな話を取り入れつつ。


さて、ここで完結となります。

評価、ブクマ、感想、いいねなどありましたら、どうぞよろしくお願いします。


しばらくお休みをいただくことになると思いますが、まだまだ書きたい物語はあるので他作品でお会い出来れば幸いです。

何なら旧作を読んでくださっても喜びます。


(うっかり忘れていない限り)今日中に活動報告を書くので、興味がある方はそちらも読んでみてください。

それでは、この作品をここまで長々と読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  完結おめでとうございます!  割烹では百合成分が少なかったと仰ってましたが フリッカ「やはり私がリオン様の子供になるより前に、私かリオン様が……むしろお互いがお互いの子供を産むべきだっ…
[一言] 完結お疲れ様でした! 最後までウルがかわいい良い作品でした。
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