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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章後

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三年後

 重石を付けられ海底に沈められていたモノが、解放されて浮上するような。

 霧のように辺りに散らばって漂っていたモノが、凝縮されて水滴になり滑り落ちるような。

 あるいは――新たに生まれ直すような。


 曖昧なモノは、目覚めと同時に全て泡沫となり消えていく――


「――! ――……ス!」


 次第に光が差し込む。……いや、自分が、瞼を開けている。

 ぼんやりと霞む視界に映るのは、少女の顔。柔らかく波打った太陽のような金の髪。空のような瞳には今にも溢れんばかりに涙が湛えられ。

 部分部分は見覚えがあるのに、全体的に見ると大きく異なるその顔は。


「……ぷろめーてぃあ……なのか……?」

「――ノクス……!」



 xxxxx



「ふぅ……成功したか。良かったぁ」


 わたしの目の前で、わんわんとそれこそ小さな子どものように泣きながら……先代破壊神ノクスへと抱きつくプロメーティア。

 正確には、わたしが作り上げて、先代破壊神の魂を入れられた神造の肉体に。本物の肉体は本人の手でバラバラにされちゃったから、代替を用意するしか手段がなかった。

 要は、アステリオスと同じことをしたのだ。当時に比べて技術力は上がったから肉体の出来は良いけどね。

 魂アイテムを使用すれば本人の魂が宿ることはわかっていたのだけれども、時間経過により記憶が欠損している可能性だってあった。ウルがその例に当てはまる。こればかりは実際に行わなければわからない。そして、先ほどの第一声で少なくともある程度の記憶が保持されていることが証明されたということだ。ホッと肩の荷が下りる。

 ……まぁアステリオスと比較して肉体の出来が良いというだけで、完全とは言い切れない。何故なら。


「……おい、プロメーティア。貴様は何故そんなに小さいのだ?」

「ふふ、貴女の体も小さくなっていますよ」

「…………な、なぬ?」


 呆然とする先代破壊神の前に、わたしはスッと手鏡を差し出す。

 映し出された自分の顔に目を見開き、次いで自分の手足を確認する。ベッドに横たわるのは小さな胴体、細い手足。

 それは……幼女と化してしまったプロメーティアと、同じくらいに幼い体。


「これは……どういうことだ……?」

「いやぁ、めちゃくちゃ大変だったんですよ? 破壊神様……じゃないか、えぇと、ノクスと呼んでも?」


 つい癖で破壊神と呼んでしまいそうになる。今になってわたしに気付いた彼女は目を何度か瞬いてから「好きにせい」と言った。許可をもらったので今後は名前で呼ばせてもらう。

 ここはわたしの拠点です、という前置きをしてから(そこはどうでもよさそうだった)話を続ける。


「まず、プロメーティアが小さくなってしまった理由は、わたしに限界まで力を渡したからです。リソース不足なので元に戻るには長い年月を要するでしょう」

「……貴様から感じる気配からしてそのような感じはしたが……何故そのようなことに」


 顔をしかめるノクスの言い分に、わたしのこめかみにピキリと感覚が走った。それはプロメーティアも同様のようで。


「貴女がそれを言いますか!? 自決してまで! 力を受け継がせようとした貴女が!!」

「うおっ!?」


 ノクスが驚いて引くが、プロメーティアは構わず怒涛の文句を突きつけていく。

 それくらいにアレは大きな衝撃だったのだ。もうはや三年くらい前になるか。あの嫌な感触と温度をハッキリ思い出せるくらい印象深い。もちろんマイナスの意味で。


「貴女が肉片となって盛大に飛び散ってしまって! 凄惨な光景を見せつけられたわたくしの悲しみが、何も出来なかった無念さが、貴女にわかりますか!?」

「い、いやでもあの時は――」

「敵にばれないようにしたかったのだとしても! 何故それを、せめて事前にリオンに相談しなかったのですか!?」

「その――」

「勝手に死んでしまった貴女に比べれば、私が小さくなるくらいどうってことないでしょう!!」


 いつも穏やかなプロメーティアがここまで怒るのは初めて見た。……逆に言えば、そこまで素直な感情を見せられるのがノクスだけなのかもしれない。最高神も大変だ。

 あまりに怒るものだから、わたしがあれこれノクスにつけようとしていた文句がどこかに行ってしまった。というか言ってしまったので必要がなくなった。なお、当時わたしがプロメーティアに抱えた不満はレーアとネフティーの手により既に清算済みだと付け加えておく。

 ぜぇはぁと息を荒げ、溜めに溜め込んだ不満を全てぶちまけ終わったプロメーティアを横目に、ノクスが口をへの字にしてわたしを見る。そんなところはウルにそっくりと言うか、ウルがそっくりと言うのか。


「……貴様に言って何とかなったとでも――」

「何とかなったんですよ、これが」


 わたしはクイッと親指を横に向けるジェスチャーをする。ノクスがつられて視線を移してみれば……そこには、黙って経緯を見守っていたウルの姿があった。ノクスは先ほどよりも大きく目を見開き、おまけに口をぽかんとさせた。……ノクスの中の予定では、わたしかウル、どちらかが死んでいるはずだったのだから、二人とも生きているのを見ればそりゃビックリするのだろう。はは、外れて残念でしたね。


「……何故貴様は大きくなっておるのだ?」


 最初に突っ込むところはそこ!? ウルも「は?」って顔してるよ! 突っ込みたい気持ちはわからないでもないけどさ。


「聞かれたところで、我も誰も答えを持っておらぬぞ」

「――ではなくて、何故生きておるのだ……? 彼奴めは力を一つにせずとも勝てる相手ではなかっただろう……?」

「ハッ。リオンが何とかしてくれたからの」


 ウルの何故か得意気な声に、ノクスはまたも言葉を失った。……ノクスからすれば、わたしはそれだけひよっこだったのだろう。

 実際のところ、ノクスが自爆して冥界の王の油断を誘ってくれたから一つにまとめるための時間が捻出出来たともいえるけども、そこはあえて黙っておく。今後、二度とそんな真似をさせたくないから。

 わたしはにっこりと、ネフティー直伝?の笑ってない笑顔をノクスへと向ける。


「反省してくださいね?」

「…………ハイ」


 小さいながらも返事をしたことに『よし』とわたしもプロメーティアも留飲を下げる。


「それでまぁ、ノクスの体が小さい理由ですけど……これも単にリソースが足りないからです」


 あれから三年。長いようだけれども、たった三年である。復興作業は最初の一年で大体終わったけど、それで全てが終わりなわけがなく、以降も色々と入用だった。この小さな体を作るだけで手いっぱいだったのだ。


「だったら無理に作らずとも、余裕が出来てから作ればよかろうに……」

「あんまりちんたらしていられませんでした。何故かと言うと、プロメーティアがうちのウルさんを見るたびに妙な顔になるからです」


 きょとんとするノクス。そっと気まずそうに目を逸らすプロメーティア。

 原因は、先走って死んだノクスと、ノクスそっくりにウルを作ったプロメーティアにあるんです。言うなればあなたたちの尻ぬぐいですよ?

 そんなこんなで、技術に関してはプロメーティアの手ほどきもあり何とかなっても、リソースが足りずに小さくなりましたとさ。……どうせならプロメーティアとおそろいの幼女にしてやれ、という気持ちもあったけどね、ウフフ。


「なので、破壊神業務は必要ありませんが……頑張ってプロメーティアのご機嫌を取ってくださいね」

「…………………………ぐぬぬ」

「……も、申し訳ありません……」

「そうじゃ、貴様が悪い――」

「なんですって――」


 ノクスが自分のことを棚に上げ、またケンカが勃発しそうだったので、わたしとウルは肩をすくめて部屋から出ていきましたとさ。



 なお、後になり。


「……こうして改めて揃うと、リオン様とウルさんの子どもに見えますね」

「創造神様も、雰囲気はともかく色はリオンに似てるからね……」

「ちょっと!?」


 なんてこというの、きみたち!?

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