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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■

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始まりと終わり

 闇に覆われていた太陽が復活した。

 ――と、誰しもがそう思ってしまうほどの輝きが、空に出現した。



 xxxxx



 手のひらを上に押し上げるように動かす。

 すると、光の玉はふわりと、空へと昇っていった。

 さすがに本物の太陽には及ばないけれど、周辺一帯を柔らかな明かりで照らしていく。冥界から侵攻してきたモンスターたちは苦しみ、肉の津波は目に見えて動きを鈍くする。少しずつ浄化されて体積も減っているようだ。

 ……アイテム作りに集中していて気付かなかったけど、肉は拠点の世界樹を中心とした半球状に広がっていた。あれが世界樹の効果が追加された聖域の範囲ってことかな。いくら世界樹とはいえまだ若木、目に見える壁があったわけじゃなく、頭上を圧迫され、中に避難していたヒトたちはいつ突破されてしまうか気が気ではなかっただろう。もう少し遅かったら危うかったかもしれない。


「そういえばウル、この光を浴びて大丈夫?」

「問題ないのである。リオンに付与された聖属性の効果がまだ続いているせいかもしれぬが」


 普段のわたしなら破壊神と成ったウルに多大な影響を与えられるほどの力を持っているとは到底思えないけど、今のわたしは創造神の力を借りているからねぇ。変な影響がないようでよかった。


「あ、冥界に繋がる亀裂も小さくなっていってるね」


 一番の目的であった亀裂への対処が効果を発揮していて一安心だ。いくら肉の津波を消そうと、亀裂がそのままだったら意味がなかったからね……。


『リオン』

「おや、ウェルシュ? どしたの?」


 いつの間にやらウェルシュがここまで飛んできていた。何しに来たのだろう? もしや下で何かが……と身構えかけたけど、そんな話ではなかった。


『俺は冥界に帰るから、一応挨拶をな』

「え? もう? 助けに来てくれたお礼をしたかったのに」

『……気掛かりがあるのだ』


 ふむ? まぁウェルシュもわざわざ準備してからこちらに来たわけではないだろうし、冥界でやりかけのことでもあるのだろう。冥界との転送門は一部素材を異界との転送門に流用してしまったので今すぐは使えないけど、二度と会えなくなるわけでもない。冥界の素材で欲しいやつだってあるしね!


『……それと、破壊神様』

「む。我のことか」

『アルタイルの件、譲っていただきありがとうございました』

「あれは我にも利があったことなので礼を言われるものでもない。……あと、いきなりそのような口調で話されてもむず痒いのでやめてほしいのだ」


 ウルは破壊神と成っても、成ったばかりだから自覚が薄いみたいだ。周囲の皆だって、『今すぐウルを破壊神扱いしてね』と言ったところで戸惑うことだろう。ウルや先代破壊神ノクスのことを知っていればなおさらに。わたしだって先代のイメージが大きすぎてちょっと戸惑う……これまでと同じ態度で接してるのでどの口が、って感じか。

 ウェルシュみたいな強大なドラゴンであっても神様相手では勝手が違う……というより、世界で一番強い破壊神だからこそ敬っているのかな。出会った当時弱っていた光神アイティ相手には割と軽かったし、わたしも力でねじ伏せたから言うことを聞いてもらっている節があるし。

 ウルの威厳のない返事(ただし見た目は厳つい)にウェルシュは目を瞑り『……そうか』と小さく零し、鼻から大きく息を吐く。


『ではな、二人とも。冥界に来た時には歓迎しよう』

「うん、またね」

「達者でのぅ」


 その言葉を最後にウェルシュは翼を大きくはためかせ、徐々に小さくなる亀裂へと飛び込んでいった。


「んー、このペースなら、あと三十分もしないうちに閉じそうかな?」


 亀裂から新たに肉やらモンスターやらが溢れてはいるけれど、出てきた端から浄化されていっているので、このままなら問題はないだろう。とはいえ新たなトラブルが発生しないとも限らないので、閉じきるまでは見張っていた方がいいか。


「……亀裂の中に聖水でも投げ込む?」

「何が起こるかわからぬので、下手に近づくのはやめておいた方がよかろう。それよりも、地上の惨状を何とかした方がよいのではないか?」

「あー……」


 地を覆っていた肉が減り、所々から地面が露出してきている。

 しかし大地は肉に汚染されており、草が枯れるのはもちろん、土ごと腐ってしまっていた。ふと、アイロ村の地下に溜まっていた高濃度汚染水の件を思い出す。……あれもまだ全部終わってないんだよねぇ。いやわたしはあまり関われていなくて、カミルさんに任せっきりなんだけどさ。転送門の素材の件で会った時に「まだまだ年単位の時間が掛かりそうだ」と嘆いていたよ。

 いくら拠点が無事であったとしても、拠点の周りがこんな状態だと憂鬱にもほどがある。毒気は聖域で浄化されて入ってこないにしても、見るだけで気持ちが悪くなりそうだし、出かけるたびに体調不良になるのもごめんだ。創造神の力を持っている今のうちに出来るだけ浄化してしまおう。

 ……創造神の力っていつになったら返せるんだろう? などという不安が頭を過りつつ、わたしはいつぞや北の地を浄化した時と同じように、強化した聖水の雨を周辺一帯に降らせる。今回は当然ながら雪にはならなかった。


「……寒くないのであるな。むしろ温かいくらいである」

「そう? 火属性がちょっと強かったかな」

「……そうではないと思うのである」


 ウルが何やら呆れを含んだ声で呟くけど……なんで?

 降らせてから、雨で日の光が遮られてそちらの浄化の力が弱まりはしないかと焦ったけど、どうやら相乗効果を発揮してくれたらしい。目に見えて浄化の速度が速まり、肉も減っていく。

 汚染された土も完全に元通り……とまではいかないけれど、ドス黒い色がちょっと栄養の足りなさそうな土くらいにまでは戻っていた。これならそう時間もかからないうちに草原へと成長することだろう。


「あ、見て見てウル。虹が出てるよ」

「キラキラしておるのぅ」


 そうこうする内に肉は全部浄化され、無事に亀裂も閉じるのだった。



 xxxxx



 ほぼ同じ時刻、冥界にて。

 肉塊が、蠢いていた。

 地上を侵略する津波のようにただ溢れるのではなく……確かな、意志があるかのように。

 それは間違いではなく実際に意志があり、忌々し気に、声を発する。


「くそが……またやり直しとは……」


 ずるり、ぺたりと、足のように肉を動かす。

 いや、よく見てみれば、辛うじて四肢と頭と呼べるような形をした、肉の人形だった。頭に当たる部分に目のような窪みが、口のような裂け目がある。口からは怨嗟と共に、毒が、呪いが吐き出される。小さな、手のひらサイズの人形には似合わないほどの、巨大な怨念。


「あの愚か者のような都合の良い駒がまた落ちてこれば話は早いのだが……」


 運悪く近くに居たモンスターたちが、毒と呪いに触れた途端に叫びを上げ、なす術もなく溶けていく。

 そうして溶けた肉と魔石かくを肉人形が不味そうに啜るたびに、一回り大きくなる。


「まぁ良い、時間はいくらでもある。あの糞女神も俺様の冥界には手出しが出来ぬしな」


 下向きに弧を描いていた裂け目が、上向きへと変わった。

 この世の悪意と憎悪を煮詰めたような、暗い暗い笑み。

 しかしそれは――突如として頭上から迸る光と轟音に掻き消される。


「がっ――!?」


 肉人形は自分の身に何が起きたのか知る間もなく、意識が無に塗り潰された。はたして、痛みすら感じられなかったのは幸運なのか。

 肉は黒焦げどころか塵となり、ドス黒い核だけが残された。


『……ちっ、最後までしぶといな』


 再度の光――雷光。

 核は耐えきれず、今度こそ籠められた呪いごと全て消滅するのだった。


『アルタイルをあのような目に遭わせた報復だ。あの男への手出しは禁止されたので代わりだが……まぁ貴様も関係者――むしろ元凶。己の悪行を呪え』


 雷を落とした者は、核があった場所へと侮蔑の視線を投げ、やがて飽きたのか遠ざかる。

 『……飯だけでももらっておくべきだったか……』などとぼやきながら。

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― 新着の感想 ―
[一言] >『……ちっ、最後までしぶといな』 >再度の光――雷光。 >核は耐えきれず、今度こそ籠められた呪いごと全て消滅するのだった 冥界の王「王は滅びぬ。 何度でも蘇るさ」  時間軸的に続きの作品…
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