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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■

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そして日はよみがえる

 『世界を照らして』

 創造神に懇願されたわたしは思わず空を見上げた。

 金環の光に縁取られているけれど、相変わらず闇に染まったままの太陽が浮かんでいた。ぽっかりと虚無への穴が開いたようで、寒気すら覚える。


「従来であれば、時間が経てば元に、戻りますが……それでは、間に合いません」


 月蝕の時も空間が裂けて冥界からモンスターが溢れたけれど、それは一時的なもので、時間経過と共に月蝕は終了して裂け目は元に戻った。……わたしはその前に冥界に落とされて目撃していないんだけどね。

 日蝕も同様。日の光さえ復活すれば裂け目は閉じ、溢れたモンスターも天敵である日光に浄化さ(やか)れて死ぬので戦いも終わる。特に冥界生まれのモンスターは聖属性にっこうに弱い特性があるしね。なお、ウェルシュはアルタイルと知己ライバルであることからも察せるように、地上生まれのモンスターであり聖属性が弱点ではないらしい。

 しかし今回は最後に冥界の王がやらかしてくれた。自分の命と引き換えに裂け目を大きく広げたのだ。……本当に死んだのか怪しいけれど、探している暇はない。

 このまま何の対処もしなければ、日の光が復活する前に地上と冥界が繋がってしまう。一度そうなってしまっては裂け目は閉じることなく、一か所繋がってしまってはそれを呼び水として世界中で同じことが起こる可能性だってある。この場を死守すれば済む話ではなくなり、世界中にくまなく手を回せるわけがない。そして日中はともかく夜間は常に冥界の侵略に晒されることになる。日中であってもうっかりヒトが冥界に迷いこみ(おち)かねない。改めて閉じることも出来なくはないと思うけど、多大なリソースが必要となり、その間に多くの犠牲者が出ることだろう。

 ……それはまだマシな方で、場合によっては繋がった影響で世界を守る壁が壊れ、生きとし生けるものたちの生存可能環境が脅かされかねない。下手すると空気がなくなって窒息死とか、地上に打ち上げられた深海魚のごとく破裂することだってあり得る。そうなっては最早どうしようもない。創造神が力を取り戻して壁を張り直す頃には死の世界と化していることだろう。壁の残る異界に一時避難したとしても、異界は異界で生存が厳しい過酷な環境だ。転送門も現状一つしかなく、世界中のヒトたちが避難出来るわけじゃないし、ヒトだけ生かしたってダメだ。

 つまり、何としてでも、日の光を自然復活以外の方法で再現しなければならないということだ。それが『世界を照らす』ということらしい。


「えっと……上空で超強力な聖属性かつ光属性の魔法を使えばいい、とか?」

「その方法でも、構いません。要は、広域空間を、浄化するということ……ですので」


 なるほど。先ほどばら撒いたホーリーミストの上位互換ってところか。

 ……などと言葉では簡単かもだけど、日光の代替ってさぁ! どんだけのリソースが必要なのさ! 具体的な数字はわかんないけど、めちゃくちゃデカいに決まっているよ!

 無茶苦茶な要望に頭を抱えるわたしに対し、ウルがなんともあっけらかんと言ってくる。


「リオンなら出来るであろ」

「うえっ? なんで!?」

「それは、破壊神われに聖属性を付与するより難しいことなのか?」

「……い、いやまぁ、難しさで言えば、そっちの方がずっと難しいだろうけどね……?」


 だとしても、必要なリソース量はさすがに桁が違うんじゃないかなぁ……!


「リオン様なら大丈夫ではないでしょうか」

「そうね、アンタなら出来るでしょ」


 ウルだけでなく、フリッカ、セレネまでもが賛同し始めた。ちょっとぉ!?


「リオン、ぬしには創造神がその身を削ってまで力を与えたのだ。主以外には誰も出来ぬし、ぐだぐだ悩んでおらずにやるしかないのである」

「うぐ、それはそう……だね……?」


 出来っこないと躊躇している余裕はないし、やらずに後悔するくらいなら、やって玉砕する方がずっと良い。玉砕はしたくないけど。


「……申し訳、ありません。わたくしが、不甲斐ないばかりに……」

「……まぁ、創造神様には後で地神様辺りに説教していただこうと思ってますけどね」

「えっ」


 沈んでいた創造神が、わたしの言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。そんな返しをされるとは思ってなかったのだろう。アイティがプッと小さく吹き出す。


「はは、それもそうだな。私も参加させてもらおうか。水神ネフティーも参加したがるだろうな」

「えっ? アイティ、どういうことですか?」


 戸惑う創造神を無視し、アイティが言う。


「リオンは突飛なことをやるが、少なくともプロメーティアに比べれば全然ポンコツではない。むしろよっぽど出来た神子だ」

「……ぽ、ぽん、こつ……」

「だから挑戦しろ、リオン。これは全身全霊でモノ作りが出来るいい機会だと思わないか? 今ならプロメーティアの神力付きという、またとない機会だぞ」


 なる、ほど。そう言われれば……やらないのはありえない気がしてきたぞ?

 手のひらを見つめる。創造の力が、創造神から託された力が宿った手を。

 出来ないから作らない? ……そんなことがあってたまるか。この期に及んでリソースなどを気にしている場合か。

 今この瞬間、モノ作りをしないでいたら、わたしはこれから二度と創造神の神子を名乗れないだろう。そもそも死んでいるという話はさておき。

 ぎゅっと手を握りしめる。覚悟は、決まった。


「アイティ。念のため、皆を拠点まで避難させてほしい」

「そうだな。あそこは貴女の育てた世界樹がある。防御には最も適しているだろう……ということで、もう既に風神メルキュリスを通して指示済みだよ。後は私たちだけだろう」


 おっと、さすが戦いも司る神様。判断が早い。


「フリッカとセレネも、わざわざ声を掛けに来てくれてありがとう」

「いえ、当然のことですから」

「そうね!」

「あと創造神様はそろそろ正気に戻ってください」

「うっ……も、申し訳ありません……」


 こんな時でも変わらずポンコツなのは、良い意味でも気が抜けるけどね。


「ウル、上まで乗せてくれる? ジェットブーツに流す魔力すら惜しいから」

「うむ」


 快諾してくれたウルの背に乗り、飛び立ってもらう前に皆を見る。

 誰一人として、不安そうにしていなかった。……わたしが出来ると、信じてくれている。

 その期待が重いけれど、信じてくれているからこそ、わたしは挑戦出来る。わたし一人だけだったら、未だにやらない言い訳を続けていたかもしれない。

 軽く手を振ってから、ウルに上昇をお願いする。ふわりと浮遊感を感じたと思えば、あっという間に遥かな上空へと辿り着いた。


 空からなら地上がよく見える。そして、そこら中に走る亀裂も。

 冥界から溢れる肉が、みるみると緑に輝く綺麗な大地を蹂躙し、冥界と同じかそれ以上の死の大地へと変えていく。呪い、滅ぼしていく。

 ……そんなこと、させるものか。命のない虚無の世界だなんて、モノ作りの出来ないつまらない世界だなんて、真っ平ごめんだ。


「キシャアアッ!」

「貴様ら木っ端にリオンの邪魔をさせるものか!」


 空を飛べるモンスターは肉に飲まれず健在だった。そして、皆が拠点に引っ込んで手出し出来なくなったところ、ターゲットを唯一残ったわたしたちに定めたのか。まぁ冥界の王より遥かに劣るので、ウルの敵ではない。相手はウルに任せて、わたしは目を閉じて自分の中の力に集中する。


 わたしの中に宿る神様たちの加護ちから

 創造神、地神、水神、風神、光神、火神、闇神。極小だけど破壊神も。

 まず破壊神の力を隅っこへと追いやる。先代破壊神の「じゃあ適当にやってくれ」と隅っこでごろりと昼寝する姿が何故か浮かんだ。

 次に、地神、水神、風神、火神、闇神の力を純粋な神力へと変換・・していく。属性を破壊……ではなく、濾して抽出するイメージだ。

 そして残る創造神と光神の力――聖属性と、光属性へと統合させていく。

 これまでの神力操作に比べて格段と容易く出来た気がする。創造神の力があるせいだろうか。

 けれど、これだけでは足りない。わたしの持つ力の最後の一滴まで余すところなく搾り出さなければ。もっと、もっともっと増幅させなければ、太陽には到底届かない。


 わたしの全身から汗が噴き出していたが、それに気付かぬままひたすらに集中していく。

 一瞬意識を失いかけたけど、フリッカの柔らかな声が、セレネの怒ったような声が聞こえた気がして持ち直す。足にはウルの体温がある。皆の顔も次々と脳裏に浮かび、丸くなった背をしゃっきりとさせる。

 大丈夫、わたしは一人じゃない。そう思い出した瞬間、新たに力が湧いた。


 そうしてどれくらいの時が経っただろう。時間感覚があやふやだ。

 いつしかわたしの手のひらに、光が浮かんでいた。

 それは強く、それでいて優しく。太陽の光であれば目を焼くはずなのに、むしろ癒してくれるようで。


 わたしは、最後のピースを、紡ぐ。



「――創造クリエイション、【創造神の陽】」



 その瞬間、天の太陽は輝きを取り戻した。

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― 新着の感想 ―
[一言] >何としてでも、日の光を自然復活以外の方法で再現しなければならないということだ。それが『世界を照らす』ということらしい。  なんだ、今回の日食終了のお知らせを出してくれって事か。  創造神…
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