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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■

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無ければ作ればいいじゃない

 まず落ち着こう。

 わたしに大した攻撃力はない。だからウルの補助をした方がいい、と結論を出したばかりなのに、何故自分の手で攻撃しようとしたのか。つい先ほどまで破壊の力も持っていたため、思考回路が攻撃寄りになってしまっているのだろうか。反省だ。

 アンデッドである冥界の王には聖属性が効くのだけれど、ウルに聖属性の武器なりアイテムなりでの攻撃は行えないから、自分の手でやろうとした? それもそう。

 ……ただしそれは、これまでの話だ。


 ウルはツールを壊してしまう? ならばウルにも壊せないツールを作ればいい。

 ウルは聖属性に弱く、扱えない? ならばウルにも扱える聖属性を付与すればいい。


 まぁどちらもこれまでは出来なかった。わたしの力が足りなかったからだ。

 今は創造神から力をもらった――いや、本来はそれだけでは出来ないのだろう。元々、創造と破壊では破壊の性質の方が強い。そしてわたしはただの神子、ウルは成りたてとはいえ破壊神、格の違いからしてもどうしたってウルの方が強い。

 けれどわたしは、ウルのことを知っている。肉体的な意味では体を作った創造神の方が知っているけど、なかみであれば、誰よりも。

 だったら……作れないはずがない。


「ウル、ちょっと時間を稼ぎたい。ただの風のブレスは吹ける?」

「むぅ……力加減を誤りそうであるな……」

「それでもいいよ。わたしがアイテムを投げたら勢いよく吹き散らして」

「わかったのである」


 ウルが頷くなり、わたしは冥界の王に向けて大量のホーリーミストをばら撒いた。そこをすかさずウルがブレスで散らし、ただの霧が勢いを得てかつ広範囲に冥界の王へと降り注ぐ。これならダメージは少なくとも防御がしづらいことだろう。


「ぐあっ、おのれ……!」


 ジュワっと冥界の王の全身から大量の黒い煙が噴き出す。アンデッドだから聖属性で浄化され(やけ)ているのだ。効果は覿面……のよう見えるけれど、おそらくあれもすぐに再生されて終わるだろう。その前に準備を終わらせなければ。

 念のためもう一度ホーリーミストのブレスを喰らわせてから行動に移る。


「ウルはとりあえずご飯を食べて」

「なぬ?」


 わたしの唐突な提案にウルは目を丸くさせていたが、単なる補給というだけではなく、料理バフだってバカにならないのだ。いつもは戦闘前に食べてもらってて戦闘中というのはなかったけれど、今は少しでもプラスがほしい。攻撃、防御、素早さを上昇させる料理をアイテムボックスから取り出してウルに差し出す。先代破壊神がそうだったけど、いくらドラゴンに成ったからって味覚がヒトと大きく異なったりはしないのはわかっている。なんだかんだで出してしまえばウルもうまうまと食べ始めてくれた。口も大きくなってあっという間にペロリだ。


「さて、と」


 ここで取り出したるはウルの鱗。今までずっと(気持ち悪がられながらも)拾い集めてきた物……に加えて、実はこの戦闘中でも何枚か剥がれたので拾った。……習性で無意識に拾ってしまうのよ、こほん。

 これを触媒にして、ウルの武器を作成――正確には強化用の付与をする。


「――創造クリエイション、【聖なる衣】」


 ただの聖属性であればウルが弱るだけの物となってしまうけれども、間にウルの鱗を挟むことで『これはウルの物だ』と認識させる。

 そうして作り上げた薄布――聖属性の膜のような力をウルの手足に纏わせた。いつぞやのウルの拳へ直接付与したのと同じようなものだ。ぶっちゃけ下手な武器を持たせるよりこっちの方がずっと強い。神の協力を得て作成した聖剣もなかなかの出来だとは思っているけれど、神そのものである鋼のような肉体や爪に比べれば劣る。


「ウル、体におかしいところはない?」

「ふむ……むしろ体が軽くなった気がするのである」


 よし、成功。失敗する気はなかったけど、ちゃんと出来てよかった。

 そして強化はこれだけではない。もう一つ。


 わたしはスゥと息を吸い、ウルのことを想う。

 何が好きで、何が嫌いか。何に喜び、何に泣くか。何に笑い、何に怒るか。

 これまで共に過ごしてきた日々から、彼女を描き出す(かいせきする)

 あぁなるほど、これは創造神には出来ないことだ。わたしにしか出来ないことだ。

 創造神は破壊神のことが大好きだけど、それは先代破壊神のことだ。ウルとは違う。ウルには娘のような親愛は抱いているだろうけど、それでもわたしみたいに共に過ごしてきたわけではない。隣に居て、見てきたわけではない。

 一緒にご飯を食べて、寝て、遊んで、訓練をして、旅をして、戦って、何もなくともそばに居て。

 そんなウルにピッタリな、ウルにしか扱えないオーダーメイドの一品を。


「――創造クリエイション、【聖なる泉】」


 手の平から淡い光が零れ、数回明滅した後に形作られる。

 わたしの言葉ねがいで現れたそれは、見た目は瓶入り聖水とほぼ同じだった。

 もちろん、中身の効能は違う。


「ウル、食後の一杯とでも思ってこれを飲んで」

「む? リオンが飲めと言うのであればいただくが」


 ウルは何の疑問を抱くこともなく、わたしの渡したそれを飲み干した。

 途端、ウルが大きく目を輝かせる。


「うまっ……! リオン、これは何なのだ?」

「ブレスが聖属性になる水」


 わたしの答えに「えっ」と空き瓶を取り落とすウル。……下に誰も居ないからいいか。


「…………………………なぬ?? は? 聖属性? 我がそのようなものを飲んで大丈夫なのか?」

「むしろ美味しかったでしょ」

「……それは、そうである、が……っ」


 ウルがその身をわずかに跳ねさせる。体に合わなかったわけではない。わたしがウルのためだけに作ったそれに問題なんてあるわけがない。飲んだ水が体内に浸透しているだけだ。ウルの力と成っているだけだ。

 【聖なる衣】で外側を、【聖なる泉】で内側を。破壊神としての力を損なうことなく、聖なる力をウルに。

 創造神の神子(わたし)破壊神(ウル)は、決して相容れない存在なんかじゃない。創造と破壊、正反対の力を持ちながらも力を合わせて一緒にやってこれた。なんならわたしは一時期破壊神の神子まで兼ねていた。二つの力を一つに出来ないなんてことはないんだ。

 まぁわたしの力が足りないから、これは恒久的な変化ではなく一時的なものだろうけど……それだけでも十分だ。


「ウル、あちらさんはもうすぐ動きそうだけど……いける?」

「――うむ。何やら不思議な感覚がするが、やれる」


 力強い頷き。口から漏れる呼気に清浄なる気配が混じっていた。うん、いいね。

 ウルの背に戻りながら冥界の王を見やれば、全身から新しい肉を盛り上がらせているところだった。どうやら黒炎で自分の体ごとホーリーミストを焼いたらしい。再生が出来るなら確かにそれが一番手っ取り早いか。

 ただ体は元に戻ったように見えても、精神的には相当に頭にきているらしい。赤い血の通っていない死肉でなければまさに顔を真っ赤にしていたことだろう。そんな憤怒の形相だ。


「くそ……よくもやってくれたな」

「はは、冥界の王のくせに随分と復活まで時間がかかったようだね」

「時間がかかりすぎて、我らはのんびりティータイムとしゃれこんでおったわ」

「貴様らぁ! 絶対に、殺してやる!!」


 冥界の王が怨嗟の叫びを上げながら黒炎を吹き上がらせた。今まで見た中でも一番濃い濃度だ。

 しかし怒りで頭が一杯のようで、わたしたちが何をしていたかに気が回らない。ウルの変化に、気が付かない。


「骨すら、塵すら残らずに、燃え尽きるがよい!!」


 放たれる黒炎。それは敵を絶対に逃がさないという強固な意志。速く、広く、わたしたちを覆う闇の帳となった。

 これはわたし程度では防御しきれずに黒焦げになり、魂も未来永劫呪われそうな代物。

 ……当たれば、だけどね。


「ウル!」

「任せよ!」


 ウルの聖なるブレスが、光の槍となって闇を切り裂いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ウルのことを想う。 >何が好きで、何が嫌いか。何に喜び、何に泣くか。何に笑い、何に怒るか。 >これまで共に過ごしてきた日々から 麦わらのナニカ「何が嫌いかより、何が好きかで語れよ!」  …
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