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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■

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援軍

 轟雷と共に現れたのは、赤銅色の羽根を生やした鷲竜。

 他のモンスターに比べて明らかに隔絶した強さを持つモンスター、ドラゴンの出現に、何も知らない者たちが大きくどよめく。しかしそのドラゴン――ウェルシュは、住人たちを一瞥しただけで攻撃を加えてくることはなく、逆に周辺のモンスターに雷を落としてから、己を呼んだ光神アイティの前へと降り立った。


「久しいな、ウェルシュ」

『フン。まさか貴様と地上で会うことになろうとはな』


 口調は嫌そうであるが、不機嫌な色はない。素直でない部分も変わらないようでアイティはフッと笑う。


『……それで、リオンは何処だ』

「今は居ない。だからこそ、ここを守ってほしい」

『このような大事が発生していながら居ない、だと?』


 ウェルシュは訝しむが、アイティはそれ以外に何も説明しない。訳アリのようだと心の中で納得をする。間抜けな面もあるリオンだが、やることはしっかりやる気性の持ち主であることは理解しているからだ。


「向こうにアルバも居るぞ。会って行くか?」

『………………いや、いい。それよりも俺はアレの方が気になる』


 アイティが示した方にチラと目を向けてから、フシュウと鼻から大きく息を吐く。気にはしているのか尻尾がゆらゆらと揺れていた。そして、空を仰ぎ……アルタイルだったもの(・・・・・)を睨みつける。アルタイルは最早ドラゴンとはいえないような姿に変化してしまったが、それでも面影は残っている。アルタイルのライバルであったウェルシュであれば、面影がなくとも察知したことだろう。


「……その更に先に男が居るのが見えるか? あれが日蝕を機にこの騒動を引き起こした者であり……あのアルタイルを壊した(・・・)者だ」

『――』


 アイティの言葉は静かだったが、ウェルシュは毛をぶわりと逆立て、バチバチと放電を始めた。

 ウェルシュにとってのアルタイルは、いつかはどちらが強者か白黒付けたいと思っていた相手だった。さりとて、己とは異なる別の者との戦いで死んでいてもそれはそれで仕方ないと思っていた。

 しかし……あれは、想定外だ。あのような醜悪な肉の塊にされることは、ただ負けて死ぬよりよっぽど屈辱だろうと、同類であるウェルシュには手に取るようにわかった。


『俺がアレの相手をする』

「出来れば防衛の方に加わってほしかったが……アレを貴方が対応してくれるならウルの手も空くか」

『先ほど空から様子を見たが、防衛には俺の手など要らんだろうよ』

「……ん?」


 そうウェルシュが口にし、アイティが首を傾げる。その少し前から、各地で変化が起こっていた。



「地神様、中に、中にモンスターが……!」

「なんだって!?」


 補助のために走り回っていた非戦闘要員から報告を受ける地神レーア。ついに侵攻が中まできたか、と恐れていた事態に焦燥感を隠しながら男が指をさす方向、祭壇の方を見ると――意外なモンスターが居て、目を丸くした。そして、レーアは表情を緩めながらただ一言告げると、そのモンスターは両手に一人ずつヒトを抱えてから北へとすっ飛んでいった。レーアは、抱えられているヒトたちの悲鳴を聞かなかったことにした。


「おや、どうやら他にも援軍が来てくれたようさね」


 続けて祭壇が光る。次に現れたのは、神子カミル率いる百五十人ほどの戦士たちだった。

 カミルたちはレーアの前に整列して跪く。


「地神様、お待たせいたしました。アイロ村、リオーネ村より戦える者を連れてきました」

「あぁ、よく来てくれた。ん? リオーネ村も混じっているのかい?」


 目を瞬くレーアに、一人の少年が勢いよく手を挙げる。


「はい、地神様! 我らがかみ……じゃない、神子リオン様に大恩を返せる機会と聞いて、有志を集めて参りました!」

「……そ、そうかい。頼んだよ」


 キラキラした目で語る少年――キリクの勢いにレーアが引くが、キリクは気付かなかった。キリクだけではない、他のリオーネ村の有志たちの様子も含めてレーアはやや乾いた笑いをしつつも、カミルたちを東西のゴーレム部隊の方へと向かわせる。

 その後も少ないながらも各地から援軍がやってきて、適宜振り分けていくのだった。



「フハハハハッ! 俺をこの程度で殺せると思っているのなら片腹痛いわ!!」


 火神ヘファイストは、そう笑いながら爆音を響かせてモンスターを吹き飛ばしていく。冥界出身含むモンスターが増えても臆すことはなく、逆に燃えているようだった。

 ただ、疲労感がないわけではない。そして疲労は……判断力を鈍らせる。


「火神様、危ねぇだ!」

「ぬぅ!?」


 近くで戦っていたウェルグスが警告を発するが、やや遅きに失した。

 ヘファイストの背後に唐突にモンスター、スニークシャドウが沸いていたのだ。正確にはその前兆はあった。スニークシャドウの潜む影だけが独立して動いていたのだ。しかしヘファイストはそれを見落とし――


 ゴウッ!!


 スニークシャドウの爪がヘファイストを引き裂く寸前、頭上から降って来た炎によって焼き払われた。ヘファイストが発した炎ではない、別の誰かの炎で。

 ヘファイストが上を見上げると、そこには。


『よう、ヘファイスト。ちょっと腕がなまってるんじゃナイカ?』

「……ヘリオス!!」

「って、おい、ビットとユアンも居るんだべか!」


 火竜ヘリオスと、その手に掴まれたまま高速移動されて青い顔をしているビットとユアンが居た。バークベルク村、ウェルグスの故郷の住人であり、友人だ。

 リオンはヘリオスの件で喧嘩別れしたような形になってしまったバークベルク村とは大っぴらには交流をしていなかったのだが、好意的な者たちも少数ながら居ることはわかっていたので、小規模ながら交流を続けていたのだ。日蝕の時のために彼らにはモノ作りの面で協力をお願いしていたけれど、参戦するだけでなく、ヘリオスまで連れて来てくれたのは嬉しい誤算だっただろう。

 そのようにリオンが交流を続けていた村は他にもある。



 北のまた別の戦場にて。

 レグルスとリーゼが、新たに沸いたモンスターたちの波に呑まれて孤立してしまっていた。

 一匹一匹は強くなった彼らの敵ではない。さりとて数というのはそれだけで脅威である。レグルスとリーゼは背中合わせに戦い、出来るだけ死角からの攻撃を防ぎながら奮闘していたが、倒しても倒しても次から次へとやってくるモンスター、ハンドレットを相手に、息切れの隙を突かれてしまう。

 しまった、の声を上げることも出来ずレグルスが硬直する。が。


「ほら、しゃきっとしなさいレグルス!」

「うおっ!?」


 横から飛び出して来た槍に貫かれ、ハンドレットが絶命した。その槍の、声の持ち主はリーゼではなく。


「お、お母さん!?」

「私も居るぞ! リーゼ!」


 リーゼの母でありレグルスの叔母であるライザが、バートル村の追加の戦士たちと共にやってきたのだった。その中にはティガーの娘、エリスも含まれており、長の娘らしくキビキビと戦士たちを指揮していた。当人も随分と暴れ回っているが。

 なお、リーゼとエリスは当初はレグルスの件で問題が発生していたのだが、合同訓練と交流を重ねたことで和解済みであることをおまけで記しておく。



 そして南では。

 フリッカが、二度と会うことはないだろうと思っていた人物と再会していた。


「………………御祖父、様……?」

「あぁ、久しぶりだな、フリッカ」


 フリッカの祖父であるウィーガが、アルネス村のエルフの魔法使いたちを引き連れてやってきたのだった。

 フリッカは、義理とはいえ父親であるルーフが大きな罪を犯したことにより、償いのための強制労働……という体で、異父妹のフィンと共にアルネス村より追い出された身だ。以降、一度たりとも村に帰っていないし、帰ることは出来なかった。フリッカは村にそれほど愛着はないが、それでも血の繋がった家族のことだけは気になっていた。偶に村に寄っていたリオンから話は聞いていたものの、こうして直接会うことは全く想定していなかった。


「先ほどフィンとも会ってきた。二人とも立派になったな。神子様から近況を伺っていたが、想像以上に大きくなって誇らしい気持ちで一杯だ」


 そうして頭を撫でられるフリッカ。リオンのものとは違う、大きな手。久々に嗅ぐ故郷の匂い。

 非常事態であるというのに、フリッカは一筋の涙を流した。


「色々と直接話を聞きたいところではあるが、まずは邪魔物を片付けないとな。老骨には堪えるが、まだまだ戦えることを見せてやろう」

「……はい、御祖父様。活躍を見させていただきます」


 舞台に役者は揃いつつある。

 残るは――リオンと、破壊神ノクスのみ。

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