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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■

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因縁の相手

 雷を操るドラゴン、アルタイル。

 ウルにとってこのアルタイルは因縁のある、恨みを持っていると言ってもよい相手だった。実際に被害にあったのはリオンとレグルスなのだが、当人たちは何がなんだかわからぬまま、アルタイルの姿を目撃することなく雷に撃たれて気絶させられたので、その気持ちが薄い。

 ところが、ウルだけはアルタイルと相対している。リオンを死の淵へと追いやられた挙句、治療することも出来ず、怒りに任せた攻撃は掠っただけでまんまと逃がしてしまった。自分への怒りも含めて、このアルタイルとだけはいつか絶対に決着をつけねば気が済まなかった。

 ザワリとウルの気が揺らめき、間近で当てられたゼファーは自分が対象ではないのに怯えてしまう。ウルは心の片隅ですまぬと思いながらも抑えることが出来なかった。


「……む」


 アルタイルをよく見てみれば、その背にラグナは乗っていなかった。遥か後方で腕組みをしながら宙に浮いたままだ。何のアイテムを使用しているかここからはわからないが、自力飛行が出来るなら何故わざわざアルタイルの背に乗っていたのだろうか。などと考えたところで、どうせアルタイルは数あるおもちゃのうちの一つという程度だろう、とウルは気にしないことにする。

 ただまとめてぶちのめすことが出来ないのは面倒だと鼻を鳴らす。ラグナは真っ先に倒すべき対象であるが、アルタイルを無視してラグナへと突っ込むのはウルの心情的に出来ず、そうでなくともアルタイルは雷撃による高速攻撃手段を持っているため選択出来なかった。

 アルタイルもウルの方を覚えていたのだろう。その目には傷を負わされ、ドラゴンの矜持を傷つけられたことに対する怒りが宿っていた。ウルからすれば、嫌々ながらもラグナに従っている時点で鼻で笑い飛ばしたくなるような情けない矜持であるが。


 ゴアアアアアアアッ!


 アルタイルが天に向けて咆哮する。すると、その身が雷を帯びてパチパチと随所で発光を始めた。


「とはいえ、ちと厄介ではあるな……」

「ギュウ……」


 リオンはアルタイルは対策さえしていれば大して強くはないと言っていた。今回はあの時とは違い取り巻きは居ない。というより、先ほどゼファーが弾き飛ばしたモンスターが取り巻きだったかもしれない。何にせよ取り巻きは大した脅威ではなかった。

 しかし雷撃だけは今も昔も脅威だ。リオン曰く避雷針を立てて、防御バフを盛って、回復アイテムを用意するとのことだが、後者二つはともかく避雷針の準備がない。あったとしても空に居る状態では意味がないだろう。空を自在に飛べるなら空中戦をすることも可能だが、ウルはゼファーの背に乗っているだけだ。ゼファーは風属性のドラゴンゆえに機動力は高いものの、さすがに雷速には及ばない。いかに発動タイミングを読んで適切に回避行動を取るかにかかっている。


「もしくは……いかに我が雷を撃たせないように立ち回るか、であるな」


 雷を操るとはいっても、ノータイムで雷撃を撃ち出せるわけではない。まず雷を溜める予備動作が必要となる。先ほどの咆哮もその一つで、すでにアルタイルは雷撃可能な状態になってしまった。なってしまったものは仕方ないので、次からは止めるようにしなければいけない。

 ウルはゼファーに一言囁いてから背に乗ったまま立ち上がり、投石の姿勢を取った。すると、アルタイルは投石でやられた苦い記憶が残っているのか敏感に反応をし、投げさせてたまるかといわんばかりに雷撃を放つ。


「フンッ!」


 バヂィッ!!


 いくらウルが投げた物とはいえ、ただの石は当然ながら雷には敵わず弾け飛ぶ。勢いを失うことなく突き進む雷は、事前の合図で回避行動を取っていたゼファーの翼を僅かに掠めるだけで済んだ。その傷もウルがポーションを投げて即座に回復させる。


「よし、今のうちに行くぞゼファー! 移動は任せる!」

「キュ!」


 目論見通りに無駄撃ちさせ、特攻するウルとゼファー。アルタイルはしてやられたことに唸りながらも次弾を装填しようとする。


「させるものか!」


 グオッ!?


 しかし来るとわかっていれば、先制して挫くことも可能だ。ウルは素早く投石、アルタイルの顔に命中させることで気を散らす。これが並の相手であれば投石程度ではドラゴンたるアルタイルが怯むことはないのだが、ウルが相手では分が悪い。他のモンスターみたいに貫かれない辺りはさすがドラゴンといったところか。

 それでもアルタイルは風音を頼りにウルたちの位置を察知し、雷を宿した爪撃を繰り出す。どうやら放出分と体に纏う分は別らしい。ゼファーはなんとか風圧でガードしつつ、一旦離れる。ウルは重ねて投石し、アルタイルの追撃を防ぐ。


「リオンめ、アルタイルもそこそこ硬いではないか……いやそれとも彼奴に強化されているのか……?」


 『大して強くない』と評したリオンに少しばかり愚痴を零すが、そもそも投石でドラゴンにダメージを与えられるウルが異常なのだと、リオンが聞いていたら返したことだろう。それに、アルタイルはラグナと共にやってきた。何かしら強化されている可能性は十分にある。ベヒーモス相手にラグナがやらかしたことを思い出し、ウルは口の端を歪めた。

 ともあれ、投石で怯ませられるなら上々。雷撃の溜めを潰しつつ、隠し玉に警戒をしつつ、ゼファーに再度接近を頼もうとしたその時。


「ハハッ、お前相手に見せるのも癪だが、別に隠すほどのものでもないか」


 そんな悪意に満ちた呟きが、風に乗って届いた。

 同時に。


 グオオオアアアアアアッ!?


 アルタイルが叫び声をあげた。またチャージか、とウルは咄嗟に構えたがなにやら様子が異なる。アルタイルはビクビクと大きく痙攣し、舌を垂らし、目も白目を剥いている。明らかに尋常な事態ではない。猛烈に嫌な予感がし、収まるのを待たずにウルは石を投げる。

 しかしその石は、アルタイルから(・・・・・・・)生えてきた腕(・・・・・・)によって防がれた。代償として腕は弾け飛んだが、また別の腕が生えてくる。ウルもゼファーも思いも寄らぬ展開にギョッとする。

 生えてきたのはそれだけでなかった。足が、骨のようなものが、別のモンスターの頭が、アルタイルの肉体を喰い破るように突き出される。


「……これがふらぐとやらかのぅ……?」

「ウキュ……」


 ウルがベヒーモスの件を思い出した途端にこれだ。ウルの思考は関係ないはずだが、自分が引き金になったのだろうかとついぼやいてしまう。

 そう、アルタイルはベヒーモスの時のように――いやどちらかといえばキマイラの時のように、様々なモンスターのパーツが混ぜ合わされた姿になってしまった。

 ドラゴンの面影はほとんどない。ただの醜悪な、肉の塊へと。


「……我の手で引き裂いてやりたいとは思っていたが、これはさすがにのぅ……」


 アルタイルは憎い相手だ。しかしこうなってしまっては憐憫が沸くというもの。アルタイルが力を手に入れるために進んで受け入れたのならともかく、無理矢理に植え付けられたものだとわかってしまったから。

 ……残ったアルタイルの頭部が……無念の涙を流していたから。


「……せめて引導を渡してやるとするかのぅ」


 こうなっては元に戻れない。ならばいっそ命を断ってスッパリ終わらせてやるのが情けか。

 溜息と共に吐き出すウル。

 だが、その思いを嘲笑うかのように、更なる悪意が付け加えられる。


「おっと、楽にはやらせないぜ?」


 ニヤニヤ笑いを貼り付けたままのラグナが、最初の時と同じように大きく腕を振る。

 すると……同じように空に、地面に、ドス黒い染みが広がっていく。


「さぁ、冥界のモンスターたちよ! お前たちも宴に参加させてやろうじゃないか!」


 闇から這い出るのは、以前の月蝕の時に見たモンスターと同じ顔触れだった。

 またも世界は、冥界と繋がってしまったのだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  ここまでくるとラグナの末路が気になって来ますわなぁ。  これで簡単にプチッとされて終わりだと、因果応報理論で言って今までの所業からして報いが足りない。 と感じてしまう。  やはりラ…
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