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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■

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立ち塞がるモノ

 空に飛び立ったとはいえ、地上に比べて少ないながらもモンスターは襲い掛かってくる。


「フンッ!」


 ウルの投げた石により、ポイズンクロウは一撃で木っ端微塵となった。いくらその爪に猛毒が仕込まれていようと、近付くことすら出来ないのでは意味がない。ウルが直近で戦った強敵、炎の巨人スルトに比べれば装甲なんてないに等しい。……アレに比べれば大半のモンスターの装甲は軟であるのだが。そもそも硬い装甲を持つ飛行型モンスターの種類は非常に少ないので、ウルの攻撃が当たればまず耐えられないし、羽根に掠るだけでも飛べなくなって戦闘能力を失うのは必至だ。

 飛行型モンスターへの対応のために、ウルは石やら鉄球やら投げ槍やらをアイテムボックスに溜め込んでいた。弾が尽きることはない、というより尽きる前にこの事態を収束させなければいけない。日蝕がどれほど続くかわからないので出来る限り耐久のための用意はしてきたのだが、戦う者たちの体力がもたないからだ。


「キュアアアッ!」


 複数で迫ってきたランサーイーグルが一斉に羽根の槍を射出してくるが、ゼファーの放つ風により全て吹き散らされただけでなく、気流が乱されて体勢が崩れる。そこをすかさずゼファーの風の刃とウルの投石で次々と倒されていった。

 ウルは投擲で、ゼファーが魔法で。ウルの攻撃は強力であれど範囲が非常に狭いが、逆にゼファーの風魔法には範囲型が多い。お互いにカバーしあってモンスターを蹴散らしていく。

 しかもウルの体幹と三半規管は誰よりも優れている。ゼファーがどれほど加速しようとアクロバティックな飛行をしようと、安定した対応を取ることが出来る。安全帯で落ちないようにされてはいても、フリッカではあっという間にダウンするだろうし、リオンであっても目を回すかもしれない。


「下は……今のところは大丈夫そうだの」


 上空からは、地上で繰り広げられる戦闘の状況がよくわかる。ピンチに陥っていたら駆け付けることは出来ないまでも上から石でも投げてやろうかとウルは考えていたが、その必要はなさそうだ。レグルスたちの突撃グループも、フリッカたちの防衛グループも、問題なく乗り切っている。もちろん、戦いは始まったばかりなので楽観視するには早いのだが。


 レグルスたちは火神ヘファイストを先頭に(守られるべき神は引っ込んでいろという者は誰も居なかった。血の気が多いというよりはねこの手も借りたい状況であるし、この中でもトップクラスの腕を持っているからだ)モンスターたちをバッタバッタと薙ぎ倒している。特にヘファイストが火の魔法を併用して戦うことで字面通り爆発的な攻撃力となっており、魔法が使えないウルとしては羨ましい気持ちになる。

 度重なる訓練によりレグルスは攻撃の一つ一つに重みが増し、リーゼは速さと鋭さが増しており、活躍が目覚ましい。ヴェルグスもドワーフ由来のパワーが磨かれ、ティガーは全てにおいて点数が高い万能の戦士だ。他のバートル村の戦士たちも粗削りだが全員に勢いがあり、さすが戦士の村だと頷けるものがある。

 怪我を負う者も当然出てくるが回復アイテムは豊富であるし、下がって水神ネフティーの治療を受けたり補給したりすることも出来る。ヒトが相手であれば補給地点から叩く戦法を取る者も居るだろうが、相手はモンスター。突撃一辺倒であるし、たまにすり抜けてくる飛行モンスターは子どもたちの魔法やアイテムで倒されていく。闇神ハディスの守りを抜くことも難しいだろう。ここも今のところは心配がなさそうだ。


 フリッカたちの方は魔法が飛び交い、より派手に見える。一番のアタッカーはもちろんフリッカだ。リオンとの旅で魔力も度胸も磨かれ、矢継ぎ早かつ的確に魔法を選んで使用している。稀に居る魔法抵抗力の高いモンスターは光神アイティの剣の錆となる。

 隣に居るセレネも善戦している。きちんとした戦闘経験は少ないのだが、直接攻撃よりも闇属性魔法によるモンスターの攪乱に重きを置き、モンスターたちにデバフを掛けたり混乱させて同士討ちさせたり、地味ながらも貢献度は高い。たまに漏れ出てくるモンスターも、ハーヴィ、アルバ、ランガたちを始めとした守り手たちにすかさず倒されていく。アイロ村の戦士たちも、バートル村の戦士たちほどの勢いはなくともよく戦っている。

 更に後方、拠点内の地神レーアは常に泰然としており、おかげで非戦闘員たちは慌てることなく落ち着いて補給物資を運ぶことが出来ている。現時点では全体的に順調、といったところか。


「皆はともかくとして……地味に強いの、あやつら」

「……キュ」


 ウルが次に見ていたのは東西の警備ゴーレムだ。拠点近辺は比較的平和で出番が少なく、出番があったとしても出現するモンスターが弱い。出先では多少の出番があったものの、ウルが起きて対処しなければいけないほどの強力なモンスターが来ることもなかったので戦いを目にする機会がなかったのだ。ウルは戦闘狂というわけでもないので警備ゴーレムと戦いたいという欲求も沸かず、どれくらいの能力があるのか知らなかった。

 警備ゴーレムたちは岩石だったり金属だったり、その硬い体を活かして、なおかつ無機物ゆえに命を惜しまず突っ込んでいくので雑魚モンスターでは相手にならなかった。それでも破損は避けられずやがては壊れていくのだが、数が減るなり風神メルキュリスが追加で放出しているので壁が尽きることがない。リオンのモノ作り狂いによる、過剰と言っても過言ではなかった在庫がこの場では非常に役立っている。


「我らもきっちり仕事をせねばな。しかしまぁわらわらと出てきおって……」

「キュウ……」


 ちょっと飛び上がっただけでこれだ。この調子ではラグナのところに到達するのにどれだけの時間がかかることやら、とウルは口をへの字にする。

 一人と一匹は強かったが、それでもモンスターの数が多い。これが地上であればウルは十全に力を発揮出来たのだが、足場の不自由な空中ではそうもいかない。もしくはリオンのようにスカイウイングとジェットブーツを駆使出来ればよかったのだが、魔力を上手く行使出来ない……というよりも、終末の獣の力を取り入れたことで破壊の力も増していき、ツール系の破壊がより酷くなったことで使用不可能となっていた。多少なりともモノ作りに憧れていたウルは途方に暮れたものだ。


「むぅ……ゼファーよ、頑張るのだ。アレ(・・)は出来れば最後まで取っておきたいのだ」

「ギュー」


 ウルにはこの数か月で新たに使用出来るようになった手段がある。だがそれは確実にラグナの意表を突くことが出来るものなので、このような雑魚モンスター戦では使いたくない。

 その意を汲んだゼファーは任せてとばかりに頷き、風を全身に纏い始める。そして、近付く者を切り裂く風の弾丸となってモンスターたちの真っ只中へ突っ込んでいった。これには機動力優先で装甲が犠牲になりがちな飛行型モンスターは溜まった物ではない。ゼファーの体当たりにバラバラにされ、弾き飛ばされ、落ちていった。

 これならばすぐにラグナの元に辿り着ける……と思ったのも束の間。ただニヤニヤと成り行きを見学しているだけのラグナであっても、手は打ってくる。


「ゼファー! 避けるのだ!!」


 ウルの警告にゼファーは急速に方向転換する。加速していたがゆえに猛烈なGが発生して骨が軋むがなりふり構っていられなかった。


 バリバリバリッ!!


 直後、ウルとゼファーが真っ直ぐ飛んでいたら間違いなく居たであろう位置に雷撃が迸った。

 おそらくウルであれば耐えられる。ゼファーも風属性ドラゴンゆえに多少は抵抗力がある。しかし直撃しては無事に飛んでいられる保証はなかった。

 ウルがキッと発生源を睨みつけると、そこには想像通り――鷲の特徴を併せ持つドラゴン、アルタイルが居た。

先週末に当作品は初投稿から4年が経過しました。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

物語も終盤なので次年の挨拶は多分ないですが、最後までお付き合いいただければと思います。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >警備ゴーレムたちは岩石だったり金属だったり、その硬い体を活かして  !?  まさか鉄ブロック4と、くり抜いたカボチャ頭1で出来るアイアンゴーレム以外にもゴーレムがいたとは……!!
[一言] わりと最初の頃から読んでいる気がするのですがまさか四年も経っていたとは……すごい……! 佳境ということで、最後まで楽しみにさせて頂いております!完結まで頑張って下さい!!!
[一言] あけましておめでとうございます。 気付いたらもう484話まで連載されてるんですね。終わっちゃうのは寂しいですが、必ず最後まで拝読させていただきます。 残りのストーリーを楽しみにしております。…
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