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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■

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そして日は翳る

 時は少々遡り、ところ変わってリオン拠点にて――



「……リオン様、いつ戻っていらっしゃるのでしょうかね……」

「うむ……」


 天気は日は出ているものの曇り空。厚い雲の隙間から覗く空の弱々しい太陽を見上げてフリッカが呟き、ウルが心ここにあらずといった応答をする。

 季節は春の始め。リオンが異界アザーワールドへ旅立って二月ほどが経過した。本来であれば少しずつ暖かくなり、心地よい風が吹き始める頃であるのだが、ここ数日は逆に気温が下がり、昼間の太陽の光量も弱まってきている。まるで冬へと逆戻りしているかのようだ。


 日蝕。


 太陽の一部(または全部)が月によって遮られる天文学的な意味のそれとは異なる。ここアステリアにおいては数百年に一度、創造神プロメーティアの力が弱まるその時を狙って、創造神たいように干渉し蝕もうとする試みを意味する。その数百年に一度が光神アイティにより間近であると通達され、それが事実であるのだと嫌でも肌で感じられるようになってきた。

 リオンは対抗するための強力な手札として破壊神の封神石を探し出し、破壊神の封印を解くために異界へと向かったのだが……フリッカたちでもわかるくらいタイムリミットが間近になった今も、戻ってきていない。


「どうせリオンのことだから、アタシの時みたいにギリギリにくるんじゃないの」


 フンと鼻を鳴らし、セレネがいう。その口調は軽いが、不安は隠しきれていない。彼女がリオンに救出されてから、長期間に渡りリオンと顔を合わせていないのはこれが初めてだからであり、『帰ってこれないのでは?』という類のものではない。

 セレネの言葉にフリッカとウルは顔を見合わせ、軽く笑みを笑みを零した。

 リオンが冥界アンダーワールドに落とされてしまった時とは違い、創造神より『リオンは生きている』との保証も得られないのだけれども、冥界の時ほどに不安は抱いていない。『必ず生きて帰ってくる』とセレネ同様、いやまだ付き合いの浅いセレネ以上に強く信じているからだ。

 ただその帰還がいつになるのか、日蝕に間に合うのか、といった点になると……きっと間に合ってくれると信じてはいてもどうにも落ち着かない。


「まぁなんであれ、我らは我らの出来ることを為すのみであるな」


 日蝕が起こると黒幕ラグナとの最終決戦が始まるのは確定だ。座して待つだけでは創造神がラグナの手に落ちてしまうのだから、力づくで止めなければいけない。ラグナが対話で止まるような相手であればそもそも神様たちも封印されていないので、必ず戦闘は発生する。月蝕の時のようにモンスターも大量に溢れ出すことだろう。

 拠点に残ったウルたちはリオンを待つだけで無為に過ごしていたわけではなく、戦闘に備えて訓練を重ね、モノ作りをして物資を充実させると共に神様たちの力を少しでも復活させるようにしてきた。

 その中でもウルが一番変わった(というより、見た目が変わるような変化をしたのはウルだけであるし、変化しないのが普通である)。両腕両足、胴体も大半が黒い鱗に覆われ、モンスターに近い見た目をしたリザードのランガと似たようなフォルムになっている。顔は鱗が増えただけで大きな変化はないのは、親(のようなもの)である破壊神がそうであるからか。破壊神の本体はウロボロスドラゴンであるのだが、ウルは竜人ドラコニアンがベースであり種族としては異なっているのだが。

 もっとも、この変化の原因はウルが破壊神の神子として自覚したからではなく、終末の獣の力を取り入れ始めたことの方が大きい。リオンは異界行きで中断されたが、ウルは今もなお取り入れを続けている。純粋な力の話であればウルの方が強くなっている……ように見せかけて、リオンの場合は三種類の力が混在していることによる相乗効果があったりするので、測ることは出来ない。

 ここまで大きな変化が現れればフリッカとてウルが何かをしていると察しているのだが、口にはしていない。リオン以外にはドライだから……ではなく、言われないことを根掘り葉掘り聞くような性格ではないからだ。なおセレネの方は「アタシより破壊神様から授かった力が大きいしね」程度だ。


「――ッ」


 ザワリと、天敵・・の気配を感じて、ウルは空を見上げる。ただならぬ様子にフリッカとセレネも釣られて空を見上げた。

 変わらぬ弱々しい太陽――その端が、わずかに黒く翳った。

 少しずつ、少しずつ、闇に浸食されていく。


 ――日蝕が始まった。


 口にする前に、哄笑が響き渡る。

 誰の? 言うまでもないだろう。

 ウルは拳を強く握りしめ、牙を剥き出しにし、天を睨みつける。

 雲が風に払われ――ドラゴンが、姿を現した。


「……まさか、アルタイル?」


 思いもよらない憎き敵が現れてウルが虚を突かれたが、本題はそこではない。

 そのアルタイルの背に乗る、一人の男。

 ラグナ。

 リオンがゼファーを手懐けたように、ラグナもアルタイルを手懐けたのだろうか。いやどちらかといえば支配の方が正しいか。アルタイルは嫌悪と同時に恐怖の色を、ドラゴンでありながらありありとわかるくらい顔に出していた。

 拠点の人員が次々と外へと出て空を見上げる。神たちは逆に姿を見られないように引っ込んでいたが……どうやらそれも無意味だったようだ。


「ハハハ、君たちも隠れてないで出ておいでよ。それとも、僕が君たち神の存在に未だに気付いていない、とかおめでたい頭をしていたりするのかい?」


 カマかけではなく確信。こうなっては隠れたままではいられない。姿を見せないことで癇癪を起こされても困るので渋々と神たちも外へと出る。


「まぁさすがに、ハディスは別として残りの神たち全員の封印が解かれていたことには僕もビックリだけどね。クソザコ神子と思っていたけど僕の想定よりはやる……というよりは運がとてもいいのかな? 君たちの神力、全然回復させられてないみたいだしね」


 神気隠蔽までは気付いていないらしい。あえて教える必要もないので誰もが黙っていた。


「それとも、そこの黒いけだものに力が喰われてるのかな? はぁやだやだ。僕は縁を切れと忠告したのに、一体何を考えているのやら。創造神様の神子としての自覚が足りな……ん? そういえば見当たらないな?」


 黒い獣(ウル)を一睨みしつつ、そこまでしゃべってやっとクソザコ神子ことリオンが居ないことに気付くラグナ。

 ここで無視していぶり出しと称して家屋を破壊されては問題なので、地神が一歩前に出て声を張り上げる。


「神子ならアイテムを探しに外出中さね!」

「ふーん……? 嘘ではなさそうかな」


 嘘ではない。そのアイテムが破壊神の封神石であることを、異界に出掛けていることを言わないだけで。

 ラグナも深くは興味がないのか、「どうでもいいか」とすぐに話題を切り替える。

 ニヤニヤと口元に笑みを貼り付け、神たちに向けて問う。


「何で僕が君たちを見逃していたんだと思う?」

「……見ての通りアタシたちは神力が回復していないし、障害になりえないとでも思ったんじゃないのかい」

「それも正解。けれどもう一つ、君たちには重要な役割があってね――」


 重要な役割とは何か、問い返す前に。

 ラグナが大きく腕を振るうと……その動作に合わせたかのように、大量のモンスターが空から滲み出るように沸き出てきた。ただ、自動展開されているリオンの聖域(日蝕が始まりそうなら昼夜問わず稼働させてと言付けしていた)の中に直接入ることは出来なかったのか、拠点を取り囲むように配置される。ラグナは片眉をピクリと上げたがこれも『まぁいいか』と流した。リオンが軽く見られているせいだ。

 ラグナは語る。とても自分本位で、自分勝手な理由を。



「君たちがピンチになれば、優しい優しい創造神様は、ここに来てくれるだろうからね」



 モンスターを従えるその様は、ラグナこそが破壊神であるかのようにすら見えた。

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[一言] >モンスターを従えるその様は、ラグナこそが破壊神であるかのようにすら見えた。 破壊神「甚だ遺憾である」 破壊神様の遺憾砲
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