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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び

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スッキリしたと思えばまた落とされる

 あの後は何事もなく、朝を迎えた。

 いやしかし……随分アレなことを話してしまった気がする。実の所ストレスが限界近かったのかしらん……。夜のテンションでは平気でも、朝になると身悶えしたくなる現象に名前はあるのだろうか。


 目が覚めた時にはすでにフリッカは居らず、珍しくウルがわたしより早起きしていた。早めに寝かせたからかな。


「おはよう」

「うむ……」


 眠そうなのはいつものことなのだけれども……今朝は何だか様子が違うような、気がする。

 変な夢でも見たのかな?


「いや、そうではない。……リオンよ」

「うん?」

「もうちょっと我を頼ってもいいのだぞ?」


 唇を尖らせて拗ねたように言われた言葉に、わたしは思わず引きつってしまった。

 いや確かに、起きた場合でも空気を読んで寝たフリしてくれることを期待してはいたけど、まさか本当にそうしていたとは……!


「えーっと……どこからどこまで?」

「ほぼ全部」

「ちょっ」


 全部って……ひゃあああー恥ずかしいー!


「我が相手では頼りないのかもしれないが……」


 しょぼくれるウルに、頭を抱えている場合ではないと慌ててフォローを入れる。

 頼りないなんてそんなことあってたまりますか! 情けない話ながらもわたしがどれだけきみに頼っていることか!


「そんなことないです! めっちゃ頼ってます! めっっっちゃ助かってます!」

「むぅ……じゃあせめてもう少しくらいは愚痴でも何でも話すがよい。解決は出来なくても、スッキリくらいはするだろうよ」


 ……わたしはバカだ。

 ちゃんとこうやって親身になってくれる人が居るというのに。勝手に一人で悩んで、溜め込んで。

 はぁ、色々反省せねば……。


「……わかった、次からはそうするよ。ごめんね、ありがとう。ウルの方も何かあったら言ってね?」


 わたしの返事にウルは「うむ」と鷹揚に頷いてから、付け加えてくる。


「後、我がぬしに対して厳しくあれこれ言わない理由は、『我がそう言いたくなるようなことを主がやってなかっただけ』だからな」

「……なるほど?」


 いつぞやに似たようなことをわたしがウルに言ったなぁ。それをウルも覚えていたのだろうか。

 これはこれで落ち着かないのだけれども、ウルも同じような気持ちだったのかなぁ……わたしも厳しくするべきか?

 いや……それは何か違う気がする。このままでいいか。


 ちなみに、ウルが起きていた理由は「フリッカが思い詰めていたようだし、万が一トラブルが発生した時のため、念の為」だそうだ。

 その可能性は考慮してなかった……お、お手数お掛けします……。



 夜とは打って変わって静かに朝食を終え。

 朝食時には戻って来ていたフリッカに、「お話ししたいことがあります」と何処かへ連れて行かれる。もちろんウルも一緒に。

 まさか校舎裏じゃなかろうな……いやそもそも校舎がない、とかアホなことを思いながら歩いた先は。

 あの温和お爺ちゃんの家だった。


 この村に来てから泊っているザギ家ほどではないけれどもなかなかに大きい。内装は全体的に落ち着いた雰囲気でまとめられており、わたしはこっちの方が好みだな。

 同じように応接室のような部屋に案内され、ウルと二人、ソファに腰掛けた。

 対面には温和お爺ちゃんと、今度はフリッカはその隣に座っている。


「朝早くからご足労いただき、ありがとうございます」


 ……自分よりずっと年上の人に丁寧に言われると落ち着かないなぁ。

 この人……ウィーガさんは他の長老衆と比べて(今の所は)敵意もご機嫌取りもないのよね。心証が悪くないだけに、尚更だ。

 しかし何で改めてウィーガさんと?とフリッカの方をちらりと見る。


「言ってませんでしたね……私の祖父です」

「えっ」

「ハハ、もう一つ加えると、ザギの息子ですな。入り婿なので血は繋がってませぬが」

「……え゛っ」


 つまりフリッカの曽祖父があの目付き陰険……ごほん、しょうわr……あぁもう、つまりあのザギと言うことで。

 よくもまぁ、ここまで性格が違うもんだね……? ウィーガさんの遺伝子で丸くなったのかしら……?

 しかし……となると、わたしはどうしてもウィーガさんに聞いておかねばならないことが出てきた。


「……そちらのお話の前に、一つ質問いいですか?」

「何でしょう、神子様」


 この村の件で色々と言いたいことはあるけれども……その中で、どうしてもわたしと密接に関係してくることがある。


「……何故、孫娘を神子の嫁などにしようとしたのですか」


 最初にフリッカは『長老たちから』嫁となるように言われたと述べていた。

 つまり、自分の孫(ザギからすれば曾孫)を選んだ、と言うことだ。単純に身内贔屓なのか?

 それだけならまだしも……『どのような相手でも』とわざわざ付け足していたと言うことは、ともすれば『神子がどれだけ非道であっても』と言うことにもなりうる。

 それは……生贄と何が違うのだろう?

 身内の人生を壊してでも、神子の力を取り込みたいと思ったのだろうか?


 どんどん疑心暗鬼に塗り潰されていってしまいそうなわたしの感情を察したのか、ウィーガさんは大きく息を吐いた。


「孫娘だからこそ、です」

「……?」

犠牲者・・・は、身内で済ませるべきだと、判断したからです」


 頭をガツンとハンマーで殴られたかのような衝撃が走った。

 あんまりな内容に脳が理解を拒み、しばらくの間は呆然としていたのだが……染み渡るにつれて怒りがフツフツと沸いてきて。

 激昂して立ち上がる寸前に、ウルに手を掴まれて止められた。


「ウル、何で……っ」

「落ち着け。ちゃんと見るがよい」


 顎でくいっと促された先――ウィーガさんの顔は苦渋に満ちた表情で、いかにも『不本意ですが』と言わんばかりであった。

 わたしは怒りを飲み込むためにも頭を乱暴にガシガシと掻いてからソファに座り直す。


「フリッカは知ってたの?」

「……はい」


 ……知らずに強要されたならともかく、知っていてなお引き受けているならわたしが文句を言うのはお門違いな気はする。

 ただしそれが『知っていても逃げられない』のなら、強要に変わりはないのだけれども。


「……『犠牲者』とか物騒なことを言う割には、神子の嫁やら婿やらになりたがる人が多いようだけど?」

「派閥が違いますからな。神子様への対応も変わってきます」


 どう言うことなのかと聞いてみれば、アルネス村は現在、ザギ&ウィーガ派、他三人の長老派の二つの派閥があるとのこと。意外にも後者の方が大きいのだとか。

 後者は神子を積極的に取り入れ……ぶっちゃけると利用を考えており、積極的にあれこれと(わたしからすれば斜め上方向に)画策している。

 本来ならフリッカ一人に定められていたのだけれど、わたしが女だから無効じゃないか?と言うのと、自派閥に引き込みたい余りに先走っているらしい。迷惑な……。

 そもそも何で『嫁制度』が出来たのかと言うと。


「三百年前、この村には人間ヒューマンの男性の神子様がいらっしゃいました」

「へぇ……」


 神子の存在が知れ渡っているのだから、わたし以外の神子が存在していたとしてもおかしくはないけど、過去の人物とは言え実際に聞いたのは初めてだなぁ。

 神子=男と言う思考はここから来てるのかな。他の神子含めてほぼ男だったりしたのかな?

 それはさておき、その人が何の関係があるんだろう?と思っていた所に……ヒドイ爆弾が落とされる。


「女性に語るには少々憚られますが……その方が、大変な性豪でして」

「………………はい?」


 三百年前のことだから当事者はザギを含む少数しかおらず、『ほぼ伝聞ですが』と言う前置きで。

 語られる語られる。神子クソヤロウの悪行の数々が。

どうでもいい話ですが、夜に執筆を進めるのですけれど、翌日になると「これでいいのか……?」現象がしょっちゅう発生します。

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