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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■

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モンスターハウス

 わたしの周囲を取り巻くのは、アドミラルゴブリン、ヘルウルフ、デュークコボルトなど、最難関の異界アザーワールドらしく各モンスター種の中でもトップに近い強さを持つヤツばかり。キングやクイーンがいないのはソレ自身がボス扱いであって大量沸きするタイプではないからだろう。ボスが大量に沸くなんてどんな悪夢だっていう。

 そして宝箱の正面には――巨大なミノタウロス。迷宮の名前にピッタリなモンスターだ。大きさや雰囲気からして、今回はこいつがこのモンスターハウスのボス格か。

 ミノタウロスは興奮しているのか鼻息荒く、肌を赤くして(むしろ闘牛として自分が赤いヤツに突っ込まないんかい、みたいな感想が一瞬浮かぶ)、硬質な筋肉に覆われた太い腕で携えている斧は、ミノタウロス同様にとても大きい。わたしがアレをまともに喰らったらミンチになってしまいそうだ。また、脚も丸太のように太く、この脚で蹴られたら内臓破裂じゃ済まないだろうし、頭に生えた二本のねじくれた角は高性能防具ですら容易に刺し貫いてきそうな鋭さだ。

 入ってきた通路は警報と共に塞がれ、逃げ道はない。不壊属性なので壁を壊すことも出来ず、つまりはモンスターたちと戦って全滅させるしか出る手段はないのだ。


 ミノタウロスが口をすぼめて、上へと顔を向ける。胸が大きく膨らみ――ブレスが来る!


 ブオオオオオオオオオオッ!!


 前方に居るモンスターを躊躇なく巻き込み(モンスターたちに同族意識はないのだから普通といえば普通だ)、炎が渦を描きながらわたしへと迫る!

 とはいえ見え見えの動作ではあったので、モンスターを文字通り蹴散らしながら横へと避ける。通り抜けた炎は暴力的な熱と衝撃を撒き散らし、巻き添えとなったモンスターは哀れ消し炭となるが、不壊属性を持つダンジョンはビクともせず、刻まれた焦げ跡もすぐに元通りだ。


「ブモオオオオッ!」


 ブレスを外したことに苛立ったのか額に血管を浮き上がらせ、今度は自分が角を前に突っ込んでくるミノタウロス。やはり他のモンスターを気にすることはなく、進路に居たモンスターたちは刺し貫かれたり弾き飛ばされたり踏み潰されたりしている。いくら強いモンスターたちであろうと烏合の衆であれば統率など取れはしないか。これがキングゴブリン&配下のゴブリン集団だったりすると秩序立った動きをするので、かなり侮れない相手となるのだが。そして本来なら数はそれだけでも脅威となる……はずなのだけれども、これならそう心配は要らなさそうだ。


「よっ。ほっ。せいやっ」


 いくら威力は十分でも炎の巨人スルトに比べればスピードも遅いし、威圧感もない。それでもわたしはミノタウロスの突進を、まともに相手をすることなく避ける。ゴブリンの頭を踏みつけ、ウルフたちの隙間を抜け、モンスターたちの中へと紛れ込む。

 するとどうなるでしょう。暴走列車と化したミノタウロスがモンスターたちをぶっ飛ばしてくれます。自分で倒さずともモンスターが減ってくれるなんて、とても便利ですね。モンスターハウスはモンスターの沸きタイプにもよるけど、場合によってはこのように省エネで攻略をすることも出来ます。まぁモンスターに囲まれて攻撃を喰らうことだってもちろんあるけども、昔のわたしならともかく今のわたしであれば、これくらいなら避けられる。


「――っと」


 わたしが上に跳んだタイミングで、どこからか魔法が飛んでくる。その狙いは良いけど無駄だ。わたしはジェットブーツをふかして急加速して避ける。天井にぶつかる勢いで張り付いて、方向転換してまた別のモンスターの群れに蹴り飛び込む。


「ブモオオオオオアアアッ!!」


 それを繰り返すこと数回、いい加減に我慢の限界がきたのだろうか、ミノタウロスが更なる咆哮を上げると、赤い体から蒸気が揺らめき始める。……体温が上がったのか? すぐ横にいたウルフが触れてもいないのに体毛が焼け、炎に巻かれる。うーん、本当にこのモンスターハウスは組み合わせがミスマッチだな……炎属性モンスターで統一されていればまた話は変わってきただろうに。沸きはランダムだからそういうパターンもあるのだろうけど、さすがに可哀相になってきた。率先して巻き込む動きをしたわたしがいうなって話かもだけど。

 そしてこのダンジョンは不壊属性なので、火が燃え移って火山地帯のような環境になることもない。壁を壊して一直線に進むことが出来ないデメリットもあるけど、逆に環境に変化が起きようもないというメリットもある。


「ブモッ!!」


 ミノタウロスがその腕を肥大化させ、大斧を力任せにぶん投げてくる。大斧にも炎が纏わりつき、燃え盛る音と空気を斬り裂く激しい音がする。ギリギリで避けようとすると当たらずとも焼かれそうだ。

 わたしは気持ち大きめに横に距離を取った――のだが、大斧と炎に隠れていたミノタウロスが目の前にまで迫っていた。攻撃じゃなく隠れ蓑に使った!? ミノ(・・)タウロスだけにごほんごほん。


「――フッ!」


 寒いダジャレが脳裏に浮かぶくらいには落ち着いている。わたしを突き刺そうとする角に手を添え、鉄棒に似た要領でくるりと回ってミノタウロスを飛び越える。先にモンスターが居たけどやっぱり踏みつけつつ着地。

 背後から大斧とミノタウロスが壁に衝突する凄まじい音が響いた。これでも壁は壊れないのだから不壊属性って本当に丈夫だ。神レベルの力を持っていれば壊せるらしいけど、ミノタウロスの力量はそこまでではないらしい。まぁそんな強敵が宝箱のトラップ如きで出てくるわけがないか。


「さて、と」


 随分とモンスターの数が減り(八割くらいはミノタウロスが倒した)、風通しのよくなった小部屋。それでもモンスターたちはわたしを敵と定め、襲い掛かってくる。散発的になったそれらは脅威でもなんでもない。ここまできてわたしはやっと普通に相手をする。といっても剣で一振り二振りするだけで倒せるのだが。……わたしも強くなったものだなぁ。

 ほどなくして、まともに立っているのはミノタウロスだけになった。あれだけの勢いで頭を打って少量の血が流れてはいても脳震盪らしきものは起こしておらず、足腰はしっかりしている。脳があるのか知らないけど。

 しかし頭の血が抜けたことで逆に冷静になったのか、ミノタウロスは大斧を持ち構えを取る。どっしりと揺るぎのないその姿は武人の姿を彷彿とさせた。別牛になったかと思うくらいのあまりの変容にわたしは気を引き締め直した。

 ミシリ、ミシリと、ミノタウロスの両腕から音がする。明らかに力を溜めている。全身全霊でもって、わたしを叩きのめそうとしている。

 その様に、わたしは聖剣を正眼に構えることで応えた。自分の力を試してみたくなったのだ。自惚れではなく、得た力に酔っているわけでもなく、勝てるという感覚があるから出来ることだけれどね。

 スゥと深呼吸をして。息を止める。

 その刹那。


「ブモオオオオオオオオオッ!!」


 ミノタウロスが体から炎を噴出させながら大きく大斧を振り上げ――わたしの脳天目掛けて振り下ろす!


「はあああああっ!」


 わたしは横ではなく前に進むことでその暴威を避ける。さすがに受け止めることは出来ない。炎が纏わりついてくるけれど、この程度ではわたしの耐性を抜けやしない。ミノタウロスの懐に入り込んだわたしは左脇から大きく斬り付け、横を抜けようとした。


「あちっ!?」


 ミノタウロスの腹から飛び出たほのおがわたしの耐性を抜いた。痛み、というよりは驚きで一瞬足が止まってしまった。

 その慢心から出来た隙を、ミノタウロスが上半身を思いっきり捻りつつ大斧を振り回す。傷口から血が出ても止まらない。むしろその出血ほのおがなおさらわたしを焼く。

 迫る大斧に慌てて剣を盾にしつつ、後ろに飛ぶようジェットブーツを全力噴射。ガチリと剣に大斧の刃がぶつかったけど、なんとかその程度で済んだ。

 わたしは背後を見ないまま体を前へ回転させ、壁に着地するように足を付ける。ジェットブーツの噴射と共に壁を蹴って大斧をかいくぐり、再度ミノタウロスを斬り裂いた。

 胴を真っ二つにされたミノタウロスは、今度こそ倒れるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >肌を赤くして(むしろ闘牛として自分が赤いヤツに突っ込まないんかい、みたいな感想が一瞬浮かぶ)  なおリアルの牛は赤い色を認識できないため、あの布を赤にする意味は牛に向けてではない模様。 …
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