宇宙人?
目的を達成して、瘴気もなんとかしての帰宅。大ケガはせずとも疲労はかなり溜まっており、隕石取得の報告だけしてから泥のように眠ること一日弱。道中でも対策をしっかりしてきちんと寝てたつもりだったけど、安全が担保された暖かい部屋で寝るのは格別ですねぇ。
まだ眠い頭をフリフリ、大きなあくびをしてから、神様ズへの報告へと向かう。今回は巨人の魂アイテムのテキストがどれくらい重要かわからないので、わたし一人だけだ。フリッカには「相変わらず、お一人で、六柱もの神様たちに囲まれても平気なのはすごいですね」と褒めてるのか呆れてるのかわからないトーンで言われてしまった。……だって神様たち、やたら人間くさいというか、だらしないというか……ねぇ?
途中までは帰還石で帰った折りに報告していたので、今回必要なのは炎の巨人の辺りと、その後のダンジョンの話くらいかな。
「そんな感じの、炎を操り岩石を纏う巨人と遭遇したんですけど……これってやっぱり伝承にあった炎の巨人スルトなんでしょうか?」
わたしが巨人の特徴を述べていくと、神様たちは揃って微妙な顔になり、最後には闇神へと視線が集中した。『自分の領域だろ?』と視線で問いかけているようにも見える。闇神も少し考える素振りを見せてから、答えてくれる。
「おそらくは、そうだろう」
「おそらくって……確証はないので?」
「……僕が残した伝承じゃないから……スルトという名前も、初めて聞いたよ」
「あぁ、そっちのパターンですか」
そもそも闇神はギガントの変異種と思っていたらしい。魂アイテムのテキストを思い出してなるほどと頷く。あそこにも『スルト』の固有名はなかった。
この世界には神様が実在していても、当然ながら全ての事柄に関わっているわけではない。わたしが読んだ伝承も、信者のヒトが勝手に(というと語弊がありそうだけど)残すことだってある。むしろわたしの場合、ゲームでの創作が混じってこの世界とは関係ない、もしくは事情が異なってくるパターンもあるしね……大半は合ってるけど。
「巨人は、最北の凍土で暴れ回っていた。奴は地を焼き、命を焼き、存在するだけで世界を殺す者だった。だから、当時の神子を含む戦士たちの手を借りて、討伐することにしたんだ」
「討伐……封印されていたようですが?」
「正確には、逃げられて見失った、だね。捜索しても見つからず、反応も感じられず、ほぼ死に掛けだったこともあって、どこかで野垂れ死んだのだろう……となった」
「……」
封印ですらなかった。雑だなぁ。いやだからこそ、もしもの時のために伝承として残しておいたのか?
モンスターの気配を神様ですら察知出来ないのだろうか、などと思ってしまったけど、モンスター部分は死んだものの、取りついていたヤツが辛うじて生きていて、力を溜めるために眠っていたのかもしれない。もしくは別のギガントに乗り換えた、ってこともありえそうだな。そういえばあの地で他にギガントを見かけなかったけど、次々と乗り移られて全滅していたり……さすがに考えすぎか。
まぁ、今となってはヤツが伝承の炎の巨人スルトと同一人物だったかどうかは大して重要ではない。それよりも引っ掛かるのが取りついていたヤツの出自だ。わたしはアイテムを取り出し、闇神に渡す。
「……それで……こんな物が残ってたんですけど……」
「ん? ……これは――」
眠そうだった闇神の目が見開かれる。意味不明という感じではない。何かを知っているような驚き方だ。現に闇神は、隣に座っていた光神にこそっと相談をする。丸聞こえだけど。
「……これ、言ってもいいと思うかい?」
「む? …………………………まぁいいんじゃないか?」
「……本当にそう思う?」
「特に吹聴していないだけで、隠している事柄でもないだろう。それにリオンなら、世界の外があったところで理解するだろうさ」
『世界の外』。
それはやっぱり……宇宙のことか。
まぁ、元の世界だって、昔の人は空の彼方に宇宙空間があるなんて知らなかっただろう。それはアステリアのヒトたちも同じで。わたしも実際に行ったことがあるわけでもないし、ただ漠然と『有る』と思っていただけで、本当は何もなかった可能性だってあった。
……と、わたしは考えたのだが、どうやら宇宙ともやや異なるようで。
「世界の外は世界の外だ。逆に私たちは、リオンの言う『宇宙』とやらの概念が上手く理解出来ないのだが……というのはさておき。ふむ、どう説明したものか」
わたしだって宇宙について説明しろと言われても、格別に興味があったわけでもないので詳しくはない。
この世界――アステリアが、どこぞの空間にぽっかりと浮かんでいるのは間違っていないらしい。ただその『どこぞの空間』がわたしの知る宇宙と同一であるかは不明で。
「私たちが住むこの大地と、あと一応、冥界と異界がプロメーティアの管轄内だ。後者二つに関してはちゃんと見ているとは呼べない状態だが、それも今は関係ないので置いておく」
なお、冥界と異界も、この大地同様、近くの空間に浮かんでいるらしい。そりゃ移動に転送門が必要になるわけだ。月まで徒歩でいけません、という当たり前の話である。ロケットの技術もないし。頑張って作れば行けるかもしれないけど、転送門を使えば一瞬なのだから、宇宙?旅行にロマンを感じるタイプでなければ面倒だろう。
そして……アイティが『管轄内』と言ったからには『管轄外』があるということであり。
「私たちは一切交流がないし、プロメーティアから聞いただけの話であるが……プロメーティアとは別の創造神が管理する世界が『外』にいくつもある、らしい」
「……別の創造神――」
確かに……創造神が一柱だけ、なんて聞いたことはない……よな? 聞いていたとしても、『アステリアの創造神』は一柱だけ、なら間違いでもない。
……というか、そもそもわたし自身が外の世界の人間だったな。元の世界にも、実は知らないだけで別の創造神が居たりしたのだろうか、なんて。
「そしてこの文章が正しいのであれば、その外の世界の生き物が罰として追放され、このアステリアに紛れ込んでしまったということだろう」
「……迷惑な話ですね?」
「……まったくだ」
例えるなら、犯罪者を島流しにしたものの、流した先に住人がいて被害を被ったようなものだ。
しかも外の世界からって。偶然アステリアに辿り着かなければ実質死罪だったろうに……何故殺さずに追放という手段を取ったのか。……もしやうちの創造神に迷惑をかけるためワザと……これも考えすぎか。交流がないなら嫌われることもない、はずだ。……追放手段を取った創造神が愉快犯でもない限り。
「どうしたの? なんか僕に言いたいことある?」
「いえ、なんでもナイデス」
思わず風神を見てしまったけど、迷惑のレベルが違いすぎるので失礼だった。反省。地神と水神がこのやりとりに苦笑しているので、多少なりとも通じるものがあったみたいだ。ウフフ……。
煤けた目をするわたしに、火神がパンと大きくヒザを打って注目を集める。
「ともあれ、その巨人が外の世界の住人であったとしても、今後トラブルになることはないだろう。俺としては、そ奴の炎によくぞ耐えて勝った!と褒めてやりたいくらいだ!」
なにやら火神としては同じ火属性として張り合っているようだ。自分の加護を与えた神子が勝ったことで喜んでいるのだろう。
……勝ったと言っても、環境によるめちゃくちゃ大きなデバフのおかげだろうけどね。世界を殺す存在って、どう考えたってわたしより数段強い。
まぁ、火神のことはさておき。アステリアの遥か彼方にも世界があったことは衝撃的ではあるけれども、関わることはない、問題も起こらないというのなら、懸念材料は消えたかな……?
元々うっすら設定があったので出しましたが、宇宙(外の世界)開拓編とかやる予定は全くありません。フラグじゃないです。




