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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第八章:凍土の彷徨える炎獄

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雪が降る

「――破壊こわしてやるのである」


 そのウルの呟きと共に。


 ゴバッ


 と、巨人の纏っていた瘴気が散っていった。

 瘴気による拘束ブーストがなくなったウルは「フンッ」と息を吐いて巨人の腕から容易く抜け出す。ボキリと巨人の腕から音がした。軽く振り払っただけに見えたけど、巨人の脆さも重なって骨が飛び出るほどだったようだ。


「ゴアアアアアッ!?」


 苦痛、というよりは瘴気が消えたことによる戸惑い混じりの声を上げながら、巨人はよろよろと後ずさってウルから距離を取る。

 ……炎だけでなく瘴気によるパワーアップも消え、ただ体への浸食が残っただけ。もはや巨人は何も出来ない――と思うのは早計であった。


「ゴロロロロロ……ッ」

「む」


 再び巨人が瘴気を纏いだしたのだ。どうやらこの巨人は相当に瘴気との親和性が高いらしい。嫌な親和性だ。


「むぅ、破壊してやったつもりだったのであるがな……」

「……単純に周辺の瘴気がまた集まり始めただけだと思うよ」

「つまり、周辺の瘴気ごと全て消す勢いでなければ駄目だと?」


 ウルは辺りを見回す。どこもかしこも瘴気だらけでさすがに出来ないと悟ったのだろう。口をへの字にしていた。

 ただ巨人へのダメージが残っているのでウルの行動が無意味だったわけではない。繰り返せばどう考えても瘴気が絶えるより先に巨人が倒れる。

 けれど、もっと早い方法がある。


「ウル、後はわたしに任せてよ」

「む? ……そうか」


 ウルは特にこだわっていなかったようで、あっさりわたしに譲ってくれた。

 何をするか。

 ……単に大量の聖水をぶっかけるだけである。

 巨人の炎の力は失われて、聖水が蒸発することもなくなったのだと恥ずかしながらワンテンポ遅れて気付いた。そして瘴気に浸食されたせいで聖属性の耐性ダウンが著しい。めちゃくちゃ効いてくれることだろう。ついでにいえば水蒸気爆発に巻き込まれる危険もなくなった。

 とはいえただ聖水を撒くだけでは味気ない。実験、というと聞こえは悪いけれど、わたしも試させてもらおう。

 まず時間稼ぎのために聖水だばぁ。


「――――――――――ッッッ!?」


 ……時間稼ぎだけのつもりだったのに、想像以上に効いてしまった。実験するまでもなくなった気もするけど……せっかくだから。


「ゴア、アアアアア……ア……ッ」


 先ほどまでと異なり聖水による痛みは感じるのか、巨人は悶えながらも、足が腐って転げながらも、地を這って進もうとする。

 腕が壊れていて進めないのに、わたしたちを狙うことをやめない。止まらない。止めることが出来ない。

 けれどその叫びは、どこか泣いてもいるようで。

 ……一方的に敵意をぶつけられてモヤっとくる気持ちもあるけれど、せめてちゃんと浄化してあげよう。


「【作成メイキング】――」


 わたしは聖水を大型の樽で大量に取り出し、それに更なる聖属性と火属性――熱を加えて水蒸気へと変化させる。爆発目的ではない。

 雲――雨雲にするために。

 風属性を加えて水蒸気を上空に巻き上げながら、大きく広げながら、どんどんと送り込む。それらは冷たい空気に晒され、気体から個体へと変化していく。


「――降れ。聖なる(セイクリッド)恵みの雨(ヒーリングレイン)


 この荒れた地に、癒しを。

 そういった気持ちを籠めていたのだけれども……。


「……あ、あれ?」


 雨を振らせるつもりだったのに、ちらほらと降ってきたのは。


「む、雪になっておるのぅ」


 そりゃこんだけ寒けりゃそうなりますよねぇ!? アホかなわたしは!

 ま、まぁ聖属性の水には変わりはないんだけどさぁ……。


 シンシンと、広範囲に聖なる雪が降る。

 雪に触れた瘴気は浄化され、薄暗かった空が明るさを取り戻す。周辺にわずかに残っていた瘴気に浸食されたモンスターたちも浄化されていく。

 フリッカたちは雪で倒されていくモンスターに驚きながらも(攻撃性はないので彼女たちは降られてももちろん問題はない)、わたしが何かやったんだなと苦笑を零し、息を吐く。お疲れ様。きみたちの奮闘のおかげで巨人に集中出来たよ。


 そして、巨人も例外なく。

 集まっていた瘴気は消え、再度補充されることはなく。

 地に伏しながらも藻掻いていた巨人の動きが少しずつ鈍くなる。瘴気による浸食がなくなっても、腐った体までは戻らない。虫の息。

 寒さに弱くても体に積もった雪を振り払う力すらすでになく、最期に、ガリと地面を掻いて。


「……アァ、アタタ……カイ……」


 そう零して、動きを止めた。



「のうリオン、何故あやつは『暖かい』と言ったのだ?」

「……夢も希望もない話だけど、体温が下がりすぎるとそういう錯覚に陥るらしいよ……」

「そ、そうであるか……」


 なんでも、低体温になると体温を保つために体が熱を発して、外気温との差でそう感じるとかなんとか。火属性は聖水の蒸発に使用しただけで、冷え切って雪になったことで熱は残っていない。決してわたしが巨人を温めようとしたわけでもないし、夢を見させたわけでもない。ちょっぴり酷いことをしたかもなぁと脳裏を過るけど、命の取り合いをしておいて何を今更という感じだ。


 巨人の体は、雪のような灰となって散っていった。残されたのは背中の隕石と魔石のみだ。大丈夫だとは思っていたけど、ちゃんと隕石が残っていたことにホッとする。

 隕石をそそくさとアイテムボックスに収納し、魔石を手に取り――説明文に思わず目を剥いた。



●xxxの魂

 大地を焼いた罪で追放され、遥か空の彼方より、隕石と共にアステリアに飛来した者の魂。

 自分を追放した世界を憎みながらも、生まれた世界を忘れることは出来ず、ギガントの体を乗っ取り一体化した。

【不壊属性】【加工不可】



「隕石と共にって……つまりあいつは宇宙人ってこと……!?」


 え? ひょっとしてモンスターじゃなく、ヒトだった……?

 いやいや、ギガント――巨人系モンスターだ――の体を乗っ取ったってあるから、体はモンスターであり、魂は……乗っ取り出来るような存在はヒトなのか?っていう。もしやアメーバ的な何かでは……うん、深く考えるのはやめておこう。

 そして名前はxxx。名前の表記がないのは発音出来ないから? 持っていないから? 今までの魂アイテムと違って加工も不可なのはアステリアの生き物とは勝手が違うから? その割りにはアイテム化してるけど……色々不明だしマジでどうすればいいんだこれ。供養するしかないか?


「……リオン様? 大丈夫ですか?」

「……っと。大丈夫だよ。フリッカたちも大丈夫……そうだね」


 呆けていたらフリッカに心配されてしまった。この件は帰ったら神様ズに聞こう。地球外もといアステリア外生命体の存在を知っているかどうかすら不明だけど。いやひょっとして、続編ゲームに宇宙開拓編とかあったり……!?

 沸き上がるゲーム欲を何とか抑え込み、ゆるゆると深呼吸する。炎の巨人が居なくなったことで周辺の空気はまた寒くなってしまった。わたしが雪まで降らしたのだから温度差もあって更に寒く感じる気がする。わたしは緩めていた防寒機能を戻した。

 フリッカたちの様子を確認すると、疲労は見えるものの大きな怪我はない。巨人から目が離せなくて任せっきりだったけど、無事でよかった。


「それでリオン、どうするのだ? 目的の隕石も手に入ったことだし、帰るのか? もうしばらく探索を続けるのか?」

「んー……心情的には帰りたいけど……一応この辺りの瘴気の原因を軽く確認してから、かな。あの巨人のせいではなさそうだし」

「奴もある意味被害者であったしのぅ」


 周辺の浄化をしたおかげで帰還石は使える状態だけど、瘴気の大元が消えた感覚はないので、創造神の像を設置しても翌日以降に戻ってこられる状態で残るか不明だ。

 ラスア村にならいつでも戻れるけど移動し直すのもだるいし、こんな北の果ての地までは少なくとも夏になるまでは再訪したくない。万が一今回放置したせいで悪化したら目も当てられないからね。



 そうしてわたしたちはもうしばし探索をし、翌日に少量ながらも瘴気を吐くダンジョンを攻略、またも変な形をした核を浄化して無事に帰還しましたとさ。

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