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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第八章:凍土の彷徨える炎獄

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更に北へ

 更に北へと歩みを進めるわたしたちは、凍り付いた湖を発見する。回り道するには大きな湖であったし、ウルが少々強く蹴ってみたところ氷は割れなかったので湖上を歩いていくことにした。「これだけ氷が分厚いとワカサギ釣りのために穴を開けるのも一苦労だろうなぁ」などとうっかり口にしたら、ウルが思いっきり蹴ってぶち破ったりするシーンも挟みつつ。ちなみにワカサギは居なかった。

 いっそ皆でスケート靴にして滑っていく方が早そうかな、なんて一瞬考えたけど、チラと横を見て口にするのはやめておいた。代わりに滑り止めエンチャントを靴に付与することで、不意に滑って転ぶのを防止する。でもウルなら颯爽と滑りつつ、ブレードでモンスターをバッタバッタ薙ぎ倒したり出来そうな……ちょっと、いやかなり見てみたい。


 そう、氷の上であってもモンスターはお構いなしにやってくる。

 空を飛ぶモンスターであるノースシーガル(かもめ)たちは地形に関係ないのだけど……わたしたちと同じく氷上を移動するフロストペンギンたちの動きがとてもトリッキーだった。


「ちょ、ま、こいつ速ぇ!?」

「見た目が可愛いからって油断しないでよ!」


 フロストペンギンがよちよち歩きをしていてモンスターながら可愛い……とほんわかしてしまった心の隙間を突かれる。彼らは腹ばいになり、お腹で高速に氷を滑って突撃してきたからだ。その速度の落差にレグルスが仰天するが、リーゼのフォローが入って激突を避けられた。この前の逆パターンは夢だったか……?


「いくら速かろうとただ真っ直ぐ滑ってくるだけなら……って、なぬ?」

「って、こっちかよおおおっ!?」


 すでに前方に滑りだしているフロストペンギンに別のフロストペンギンが体当たりをした。味方同士で一体何をしているんだと眉をひそめたけど、ぶつかられた方が弾かれて思いもよらぬ方へと飛ぶ弾丸となる。……ボウリングもしくはカーリングか……? きちんと身構えていたウルにではなく、またレグルスの方へと飛んでいき、情けない声が聞こえてきた。なおぶつかった方は誰も居ない方へと飛んでいったが、お腹で綺麗にターンを決めてフリッカに狙いを定める。


「っ、させるわけないでしょ!」


 上空のノースシーガルの対応に集中していたフリッカは急なことに対処出来ずにいたけれど、わたしが割って入り、剣をこん棒に持ち替えて全力ゴルフスイングする。速度が加わった球の重さに腕が持っていかれそうになったものの何とか打ち返し、フロストペンギンはとてもよく飛んだ。いやわたしも一体何やってんだろう、と後になって思った。


「……あ、ありがとうございます、リオン様。お手数をお掛けしました」

「上を頼んだのはわたしだしね。下は任せてくれていいけど、最低限気に掛けてくれると助かるかな」


 しかしフロストペンギンたちのアクロバットはそれだけではなかった。

 今度は複数の滑りだしたフロストペンギンの前に別のフロストペンギンが寝そべり、またぶつかるのか?と思いきや、滑走台にでも見立てたのか次々に空へと飛び上がったのだ。『飛べない鳥であるペンギンが空を飛んだ!?』と脳内で叫んでしまっても仕方ないと思うんだ。

 空から勢いよく落ちてくるソレをウルだけは迎撃し、わたし含む他の皆は回避に徹する。


「……いや、まぁ、速いんだけどさ……」

「……気が抜けるね……」


 今度は空中で方向転換……とはならず、避けられたことで盛大に氷に突き刺さるフロストペンギンたちがとてもシュールだった。結果を見るに破壊力はあるんだろうけど、どう見ても自爆にしか見えない……。レグルスたちが疲れたような顔をしながら、ビクビクと痙攣しているフロストペンギンたちにトドメを刺していった。

 結論でいえば、速くても動きがおかしいだけで強くはなかったね……。いや、速いし想定外の動きをするしで、これはこれで一般のヒトからすれば強力なモンスターなのかな……。

 そして強烈すぎるフロストペンギンの個性のせいで影が薄くなったノースシーガルたちは、ひっそりとフリッカの魔法で全滅させられていましたとさ。

 ……この世界であれば、空を飛べるペンギンも存在していたりするのだろうか?


「居ますよ?」

「えっ」



 湖上の移動は終わり、また凍土を踏みしめる。これならやつらも滑ってはこれまい。

 しかし今度やってきたのは、しっかりとした大地を勢いよく蹴立てて突進してくるベオルグさん……じゃない、スターベアー。ベオルグさんと違って鎧は身に着けていないけど、マジで似てるな……! ラスア村の村人さんたちの気持ちが少しわかってしまう。


「……さすがに顔つきは全然違うが、ちょっとやりにくいのぅ……」

「……そうですね」


 きっとこれがジルヴァ似だったら彼女らも思いっきりやれただろうに、とかなり酷いことが脳裏を過る。許したつもりだったのにまだ恨みは残っていたようだ。

 やりにくい、などと言いつつも、ウルは遠慮なくスターベアーを粉砕する。レグルスとリーゼは筋肉という鎧に手間取っていたけれど、二人で足止めしている間にフリッカの炎の魔法で焼く。乾燥しているからか毛が脂っぽいのかよく燃えた。わたしもわたしで、破壊の力と獣の力でまた剣を壊しつつも(今回は三回使用出来たので上達していると思いたい)斬り裂いて倒す。……モンスターだからね!


「リオンさん、最近また強くなったね?」

「そう?」

「あたしの槍は深く刺さらなかったのに、リオンさんの剣は通っていたからね。ちょっと悔しいな」


 戦闘後にリーゼからそのようなことを言われる。武器の質……は同じくらいか、わたしは二代目聖剣を壊すのを避けるために予備を使用しているのだから。技術ではまだまだ到底敵わないのだけれども、パワーは追い越せたってことか。きっちり使いこなせていないのでその点では微妙だけども。


「火神様からは褒められているんだし、きみたちもまだまだ伸びるよ」

「……うん、頑張る」


 慰めに聞こえるかもしれないけれど事実だ。リーゼもそれはわかってくれているのだろう。表情をほころばせ、拳をぎゅっと握りしめた。

 わたしもわたしで訓練を頑張らないとだし、彼女たちのためにもっと良い武器も作ってあげたいな。リーゼの技術であれば武器に振り回されることもないでしょう。



 北へ進むごとに、瘴気がわずかずつながらも濃くなっていく。ついには周辺を浄化してもすぐにダメになるだろう、創造神の像が設置できないレベルになった。しばらくは拠点うちに帰れないな。


「リオンが居れば、帰れずとも快適に夜を過ごせるのであるな」

「あはは、休息を取るのは大事だからね。そこは手抜かりないよ」


 濃くなっていても、わたしの瘴気対策は十分に通用する。この中でも寝ることは可能だ。さすがに吹きっ晒しは怖いしモンスターも多いので穴を掘るけどね。

 鉱石探知機に隕石の反応はまだない。もっと北なのだろう。……実はありませんでした、とかだったら泣く。

 見通しは悪くなっているけど、見通しに関わらず辺りには何もない。あるのはモンスターくらいだ。素材も少ししか採取出来なくて悲しいし、この瘴気では今後もっと期待出来なくなる。

 空を見上げる。相変わらずゴロロロと鳴っているが、雨――ここの場合は寒いから雪か、雪が降る様子はない。大地も凍ってはいるけれど積雪はまばらだ。降雪量自体が少ないのかな。降られる方が困るので助かる。


 ……ふと、ラスア村の村長さんに言われたことを思い出す。


 『怪物の雄叫びのようなものまで聞こえてくるとか』


 まさか……これらの音全部、雷は全く関係なくて……ナニモノかの声なのか……?

 そんなことが思い浮かび、ゾワリと、背筋に寒さとは別の原因で寒気が走った。



 ――ロロロロロロロロロ……

書こうと思ってたスターベアーの存在感がかすんでしまった…

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― 新着の感想 ―
[一言] >北へ進むごとに、瘴気がわずかずつながらも濃くなっていく。ついには周辺を浄化してもすぐにダメになるだろう、創造神の像が設置できないレベルになった。しばらくは拠点に帰れないな。  なぜここ…
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