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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第八章:凍土の彷徨える炎獄

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奇妙なダンジョン核

「んん……?」


 皆には休憩を取ってもらって、わたしはダンジョン核の捜索に当たっていた。ちょっと穴を掘るだけで発見出来たのでそれはすぐに終わったのだけれども……どうにも違和感を覚えて無意識に声を漏らす。


「リオン様、どうかしましたか?」


 わたしの呟きを聞きつけたフリッカがエルフらしく長い耳をピコピコと動かしながら近寄ってくる。なおこのメンツの中で一番耳の良いウルはおやつタイムなので、顔を向けはしたもののモグモグしたままだ。いいんだけども。


「いや、このダンジョン核……何かいつもと違う感じがするなぁと思って」

「いつもと違う感じ……ですか? そういえば、珍しく木の根のような形状をしていますね」


 ダンジョン核――魔石に決まった形状はない。けれど大体は、例えるなら河原に落ちている石みたいな似たり寄ったりな形状をしている。

 しかし今回発見したダンジョン核は、フリッカの言う通りに接地部分が木の根っこのように細く幾重にも分かれていた。これまで入手してきた魔石は細長かったり尖ったりと色々イレギュラーな形状もあったけど、それくらいなら石としてはあり得るもので、今回のようなタイプは初めて見た。

 魔石は加工出来るから自由自在に変形させられるけど……つまり、この形状に何か意味があったりするのだろうか?


「……まぁ、見てるだけじゃわからないし、とりあえず回収するかな」


 露出している部分を引っこ抜いたらブチっと千切れてしまいそうな気がしたので(触れたら普通に硬質だったので、ポキッと折れそうだと表現する方が正しいだろうか。どうでもいいか)、花を採取する時と同じように周辺の土を園芸用の小さなスコップで掻き出していった。

 思ったよりも深く、二十センチくらい掘ったところでやっと全部掘り出せた。


「……根ですね」

「そうだねぇ……」


 フリッカの感想に同意するしかない。

 二人してまじまじと魔石ねっこを見つめる。


「根が水を吸い上げるように、魔力を地から吸い上げていたのでしょうか?」

「うーん……あり得るかも?」


 魔力はどこにでも宿っている。もしこの魔石が何らかの理由……一番考えられるのはダンジョンの拡張かな? で更なる力を獲得しようとしていたのなら、こうして表面積を増やしてより多く吸い上げるよう変化をしていったのかも、という推測は一応は納得出来る。

 けれど……何故この魔石だけなのだろう? 他の魔石との違いは? 黒幕ラグナが何かを企んでいた? ありえる。ガーディアンがダンジョン拡張しようとしていた? それもあり得る。……もしくは、この土地に何かがある?


「リオン様?」

「もうちょっと掘ってみる。下に何かあるかも」


 気になり、今度は大きなシャベルを取り出して下へ掘り進める。どうせ消費するのはちょっとの労力と時間くらいだ。何もないならないでいいし、あるのだとしたら尚更掘らなければいけない。

 しかし、予想に反して何も出てこなかった。わたしの身長を越え、五メートルを越え、十メートルを越えて掘っても何もない。空洞すらない。

 そしてある時――


「――」


 プツリと、ナニカが切れたような感覚がした。

 それが何なのかはわからない。だってここには土しかないのだ。そんな音がしそうな物体は存在していない。

 けれど……悪い意味で何かやらかしてしまったような感覚もない。むしろやるべきだったような、ふわふわと曖昧な。

 あのダンジョン核が吸い上げていた魔力の通り道のようなものでも壊したのだろうか、などと根拠のないことが思い浮かんでは消えていく。


『もうここに用はない』


 どこぞのRPGのようなワードが頭の中を過り、わたしは穴から出ることにした。


「リオン様、お帰りなさい。どうでしたか?」

「どうだろう? よくわからないや」

「……?」


 わたしの適当な答えにフリッカは首を傾げるのだった。なんかごめん。でも誤魔化したわけじゃなく、自分でも説明出来ないことなんだ。

 「さて」と、手をパンと鳴らして休憩していた皆の注目を集める。


「皆、もう動けるよね? もうちょっと休む?」

「まだまだ食べることは出来るが、行動するには問題ないのである」


 さすがにまだ食べたいと思ったのはウルだけのようだが、後者に関しては同じ意見のようだ。

 『じゃあ帰ろうか』と、皆はそう考えたことだろう。

 だがしかし、そうはいかない。いかせない。

 わたしはニッコリととてもいい笑顔をして、告げる。


「じゃあ、皆で素材回収といこうか」

「「「「「えっ」」」」」


 ウル、レグルス、リーゼだけでなく、ジルヴァとベオルグさんの声すらハモった。

 想像はしていたのか唯一声を出さなかったフリッカであるが、彼女も額に汗を浮かべているような気がする。

 ごめん、それでもここは譲れない。


「だってこんなに大量に素材が落ちてるんだよ? 放置するわけにはいかないよね?」


 辺り一面に散乱するモンスターを目にして、皆の顔色が一斉に青くなった。ハハハ。

 特にクイーンアラクネはクイーン系統かつガーディアン化して強化された良質の素材なのだ。ウルの拳で焦げたり潰れたりしている部分も多いけど、体内に貯蔵されている糸は大部分が無事だろう。その糸で何を作ろうか、考えるだけでもワクワクしてくる。

 そうでなくても、百体以上のモンスター素材を回収していかないなんて、神子であるわたしからすれば全くもってありえない。けれどわたし一人ではさすがに時間が掛かりすぎる。百歩譲って魔石だけでもいいから回収を手伝ってほしいと目に力を籠めて訴える。

 ある意味戦闘中よりも力の入っているわたしに、誰一人として抗えなかった。ジルヴァなんてめちゃくちゃ渋そうな顔をしたけど、回収した魔石はラスア村にも配布するからと告げたら頷いてくれた。項垂れたともいう。これもきみたちの功績にカウントしていいから、頑張っておくれ。



「……お、おわっ……たのか……?」

「……あぁ、そうだ」


 つい最近聞いたばかりのようなセリフ。二回目はジルヴァだけでなくベオルグさんもチベットスナギツネのような煤けた目をしていた。体力はあっても素材回収はまた別らしい。ラスア村のためか、結局魔石以外も色々と回収を手伝ってくれていたしね。ベオルグさんは怯えられているけれど、それでも住まわせてくれている村人たちに対して恩があるのだろう。これが態度軟化のきっかけになってくれることを願おう。


「ウル、お待たせ」

「……うむ。何だか悪いのであるな……」


 破壊神の神子の力が影響しているのか、ウルは素材回収がとても苦手で、魔石拾いくらいしか出来なかった。それは早々に終わり、残りの時間は周囲の警戒に務めてもらっていたのだ。ウルほどではなくても細かい作業が苦手で、どんどんと目が死んでいくレグルスとリーゼに対し、とても申し訳なさそうにしていた。こればかりは仕方がないし、きみのおかげでクイーンアラクネを早期に倒せたのだし、それで十分ですよ。

 まぁわたしも申し訳ないとは思っている。これでも。だから労いはしっかりとね。


「素材回収を手伝ってくれてありがとう。お礼に今日の晩御飯は豪勢にするからね」

「「「!!」」」


 わたしの作るご飯が大好き組のウル、レグルス、リーゼの目がわかりやすく輝いた。ジルヴァも道中のご飯の味を思い出したのか、ごくりと喉を鳴らす。ベオルグさんも耳をピクリとさせ、楽しみにしてくれてるようだ。よかった。

 フリッカは他の皆ほど興奮はしてないな……別の形でもお礼をしよう。特別扱いだって? はい、そうです。


 ここから更に徒歩でラスア村まで帰るのは酷だ。念のためジルヴァとベオルグさんに口止めをしてから帰還石でひとっ飛びで帰るのだった。



 xxxxx



 遥か北、極寒の氷の大地にて。


 『山』が、もぞりと身じろぎした。

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[一言] >わたしの適当な答えにフリッカは首を傾げるのだった。なんかごめん。でも誤魔化したわけじゃなく、自分でも説明出来ないことなんだ。 フリッカ「でしたら、神様方に説明して頂けば良いですね」(それ…
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