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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び

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杜撰な篭絡作戦と空虚な価値

 晩御飯はそのままこの長老宅(ザギ家)で軽い宴会……いや、一種のお見合いだった……うぬぅ。

 見たことのない色とりどりの料理に目を輝かせたのも束の間、先程の男性エルフたちやら村の有望な若者やら、色んな人がやってきては挨拶だけでなくアピールをしていくものだからもうね……!

 せっかくのご飯が楽しめなかったよこんちくしょう! 食べ物の恨みは怖いぞ!!

 その間、ウルがどうしてるか気になってキョロキョロと探してみれば、部屋の隅っこの方でフリッカと一緒に特に何をされるでもなくちゃんと食べれているようだった。それだけが幸いである。

 しかしフリッカは良く気が利くなぁ。そのうち何かお礼をしよう。


 んでまぁ、最悪だと思ったのが最後のやつ。

 長老の一人からニマニマとした笑顔で「お気に入りの若者は居ましたかな……? ご指名くだされば後程部屋に向かわせますぞ?」などと聞いてくるのだからもうね! もうね!

 下世話にも程がある!!

 指名とか、もう夜だってのに部屋に向かわせるとか……完っっ璧に目的がアレですよね! ここは風俗店か何かですか!?

 それともわたしがそんなに色狂いに見えたんですかねぇ!!

 あんまり頭に来たものだから、超イイ笑顔(自称)で、


「じゃあフリッカをお願いします」


 って言ってやったら、ピキっと長老が固まって鼻で笑いそうだったよ! ハハン!

 「そうでございますか……」とだけ残してスゴスゴと去って行ったので一難去ったか……と思ったのだけれども。


「……えーっと……ご、ごごゴメンナサイ」

「いえ、お気になさらずに」


 夜、寝室として宛がわれた部屋に本当にフリッカが来たものだから思わず土下座してしまった。



 結局、少し離れた部屋に割り当てられていたウルを連れてきて三人でお泊りと相成った。

 すっごくどうでもいい話であるけれど、この部屋のベッドは三人以上寝れる大きさである。……何を想定してるんですかねぇ……。


「あ。フリッカ、ちゃんと家に帰った?」

「はい。……外泊することになって妹には少し泣かれてしまいましたが」

「ごめんなさいごめんなさい! か、帰ってもいいんだよ?」

「それでは私が怒られてしまう……だけなら良いのですが、下手をすると『満足させられなかったのか』と別の者が来るかもしれませんよ?」


 ヒイイイィ!? それは困る居てください!

 と言うか、『満足』って……えぇ……これ本当にフリッカがアレの相手だと思われてるパターン……?

 まぁこれでその他の面倒なことが避けられるのであれば……。


「……一応ご説明しておきますが、この村では夫婦以外の行為を禁じられています。裏を返せば、致してしまえば婚姻に合意したことになりますのでご注意ください」

「……今ここできみを帰さなければ、手を出してなくても合意したと思われるのかな……?」

「……」

「ねぇ、わたし詰んでない!!?」


 頭を抱えて枕へと打ち付けるしかなかった。ぐすん。

 まぁ強要されそうになったら形振り構わず逃げよう、そうしよう……。そもそも外野が何を言おうと実際に手を出してない=合意してないんだからさ……。

 ずっとうずくまったままの姿勢でいるのも疲れたので、半ばいじけるように枕を抱えて座り込む。


「はぁ……わたしと結婚した所で、何のメリットもないんだけどなぁ」


 とボヤいたら、フリッカに困ったような視線を送られた。

 更にはウルからも呆れた声で言われてしまった。


「むしろぬしみたいなタイプが一番メリットがあるかもしれぬぞ」

「えっ」

「ヨメ……特別な相手とそれ以外とで『神子としてお願い』された時、主は公平に扱えるか?」


 ぐぬぬ……否定出来る要素がない……!

 今全員からお願いをされたら、よっぽどの緊急性がない限りはウルを最優先にする自信がある……!


「情に流されず毅然とした対応をせねば、そこを狙われるかもしれぬぞ? ……この村に入る前の我への対応からして、もう遅いかもしれぬがな」


 ……わたしは未だ『大勢居た神子プレイヤーの一人』と言う感覚が抜けていないんだろうなぁ。

 これまでの住人の反応からするに、神子はかなり立場が上っぽいんだよねぇ……まさに創造神の代理みたいな扱い。

 それなのに、責任を持って行動をする意識がまだ身に付いていない。自分の立ち位置を理解出来ていない。

 わたしの考えの甘さにフリッカが追い打ちをかけてくる。


「はっきり申し上げますと、貴女は神子と言う『だけ』で価値があるのです。そこはご自覚ください。そして、それだけの理由で手中に収めたいと思う人は……居ることでしょう」


 ハハハ……エルフさんたち実利主義すぎません……?

 まぁ偉い人が私的な感情とか私利私欲とかで動いてたら、下の人は迷惑を被るか……恩恵にあやかるべく取り入ろうとしてくることだってあるだろう。


「嫁もしくは婿となって神子様を支える……そう言えば聞こえば良いかもしれませんが、神子様の意志を誘導したい、言い変えれば一種のハニートラップですね」

「……あははー……きみのそう言う余計なトコまで正直なの、結構好きだわ」

「…………ありがとうございます?」


 不思議そうにしているけども、バカ正直に実情をぶちまけてくれることでわたしの不利益が減ってるからね。感謝してますわー。

 でも……そうかそうか、そんなに神子の力が欲しいのか……『わたし』はどうでもいいのか……フフフフフ……。


「……フリッカも神子の力が目的だった?」

「…………いえ、私は……そう言われて育っただけですので……何も、望んでいませんでした」


 フハハハハ……それはそれで悲しい話ですねぇ……。


「……愛が欲しいよぅ」

「……」


 枕に顔をうずめながらポツリと零すわたしを、フリッカがジッと見ていたのに気付くことはなかった。



「そう言えばウル、今夜はダルそうじゃないね?」


 夜になると大体グッタリしてさっさと寝ていたのに、今はそれ程でもなさそうな様子だ。

 灯りが暗めではあるけれども、顔色も悪そうには見えない。


「うむ? そうだな……ずっと微妙な寒気はしているが、怠いと言う程ではないな」

「えっ、ひょっとしてあれからずっと? もう休みなよ!」


 確かウルが寒気がすると言っていたのはお昼前くらいのはずだ。半日近く経過していることになる。


「むぅ……ではそうしておく」

「気が付かなくてごめんね。後……これからどうする?」

「どうする、とは?」

「いやその、この村はきみを良く思ってないみたいだし……何なら拠点うちかグロッソ村まで送るよ?」


 過去にリザードが何かしでかしたのかもしれないが、ウル自身は何も悪いことをしていないのに一方的に敵対心を持たれると精神的に辛いだろう。

 そんなわたしの提案にウルは迷う素振りも見せず。


「むしろ主を放っておく方が精神的に良くないのでな。このまま一緒で良い」

「……えっと」


 それはつまり、わたしがやらかしそうってことですかね……否定出来る要素がない……!


「主が思う以上に我は頑丈であるよ。気にするな」


 そう笑いながら、ウルは毛布をかぶって寝る体勢に入った。

 うーん、体の頑丈さと心の頑丈さは違うと思うけど……その言葉を信じておこう。


「……寝る前に一つ言っておく」

「ん?」

「……先程はあぁ言ったが……いちいち計算などせず、感情のままに人助けに走る主のことは我は好きだぞ」

「――」


 わたしが返答に詰まっている間に、ウルはあっさりと眠りに落ちていった。

 しばらくしてからやっと「おやすみ」と呟いて、起こさないようにその頭を撫でる。


「……随分と仲がよろしいのですね」


 ウルが寝たせいか、フリッカが囁き声にトーンダウンして話しかけてきた。


「この世界に来てから一番付き合いの長い、一番の友達だからね」

「愛されているのですか?」

「ん゛っ……ん゛ん……す、少なくとも親愛の情は抱いているよ」


 恥ずかしいこともストレートに言ってくるなぁ!

 真顔だから茶化しているわけでもなさそうだし……。

 咄嗟に誤魔化したとも取れそうなわたしの回答にフリッカが俯いた。んん……どしたん?


「いえ……神子様は愛を重要視されますが……正直、私もウルさん同様、その感情がよくわかっていなくて……どのようなものなのかと思いまして」

「あー、ごめん、自分で言っておいて何だけど、わたしもそこまで良くわかってないよ?」

「……え」


 いやー、だってねぇ……恋人なんて居たことないし、恋人になって欲しいと思った相手も今まで居なかったんだよねぇ。

 ただ、まぁ、多分、だけれども。


「ある日ふと、恋に落ちたと自覚するのかな……なんて。あはは……夢見る乙女か、っての」

「……」


 まるで思春期の少女のような自分の言葉に恥ずかしくなって頬を掻く。

 ……いや、あの、ちょっと「何言ってるの?」みたいな目で見られると穴掘って埋まりたくなってくるんですけど……?


 フリッカは「……そうですか」とだけ呟いて目を伏せ、特に会話が続けられるでもなくそのまま就寝となるのであった。

 いっそ鼻でもいいから笑って……?

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