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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第八章:凍土の彷徨える炎獄

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道を切り拓く

 クイーンアラクネほどではないにしても、数倍のサイズまで大きくなったクモたちの一部がクイーンアラクネの周囲に展開する。女王を守る騎士でも模しているのか。

 このクイーンアラクネはクイーンスライムの時とは違って分け身を倒す必要はなく、本体を直接攻撃すればよい。防御力はもちろん通常のクモよりは高いが、ウルの攻撃であれば余裕で通る。


「喰らうがよい!」


 ア゛ア゛アアアッ!!


 糸と護衛クモの隙間を見事に縫い、ウルの投石がクイーンアラクネにヒットする。

 が、クイーンアラクネは単純に体力がとてつもなく高い。的が大きくて比較的当たりやすいのだとしても、なかなか倒れない。今回はガーディアンとなっていて強化されているのでなおさらだ。チッとウルの舌打ちが聞こえる。……さすがにクイーン系統のガーディアンが投石程度で倒れたらウルさん最強にもほどがあるな。でもまだまだ強くなっているので、いつかはありえそうだ。


「ちょ、あいつ!?」

「また仲間を食べてる……!?」


 そして、クイーンアラクネは再生能力も高い。さすがに無限の再生能力は持っていないのだが……他のモンスターを喰うことでも再生する。つまりクイーンアラクネの側に居るクモたちは護衛兼回復アイテム(しょくりょう)なのである。しかもクモたちは小粒ではなくなってしまったので、更に回復効率が上がってしまったことだろう。回復させないよう減らしても増えるし、面倒なことこの上ない。


「レグルス! リーゼ! きみたちはひとまず目の前のことに集中して!」

「お、おう!」

「……っ、そうだね」


 クイーンアラクネがいくら食べても、クモたちは他にもたくさん居るのだ。新規に生まれ、共食いで強化され。呆けている時間はない。

 加えて、巨大化したクモたちは前足の二本が鋭利な刃物のように変化していた。引っかけられただけでスパっと斬られてしまいそうだ。だというのに自分たちの巣の糸は斬らないのだから『なんでやねん!』と叫びたい気分である。

 それでいて各種状態異常付与も保持したまま――いや、蟲毒の如く強化されているのが禍々しい外見からもよくわかる。これはひょっとしたら耐性薬を貫通してくるかもしれない。たとえ状態異常自体は薬で治せても、ぶっかけられた痛みで動きが一瞬でも止まってしまっては、この大量のモンスターを前にしては致命的な隙になってしまう。


「いくら鋭くたって、当たらなければどうとも……おわぁっ!?」

「もう、ホントにレグルス兄は調子に乗ってばっかりなんだから!」


 ウルはもちろん、レグルスとリーゼは火神との訓練の甲斐があってかなり強くなっている。たまにヒヤっとするシーンもあるけど、フォローし合うことで概ね安定して戦っている。

 ……レグルスでヒヤっとするなら、それ以下の実力の持ち主であればどうなるか。


「ぐあああっ!?」

「ジルヴァ!?」


 ジルヴァの叫び声が響く。クモの毒液をまともに浴びてしまったようだ。クモの数が増え続けていることでベオルグさんのフォローが間に合わなかった。ハルバードを大きく振りクモたちを吹き飛ばしているのだが、ギリギリ刃が届かなかったクモが嘲笑うように毒液を撒き散らしている。


「くそ……!」


 ベオルグさんは予想より強かった。ハルバードの一振りで次々とクモたちを倒していくことにより、攻撃範囲も相まって殲滅速度はウルと遜色がない。だがクモたちはあまりにも数が多い。攻撃から攻撃の僅かな間を狙って刃とベオルグさんの横をすり抜け、痛みで混乱したままのジルヴァに襲い掛かる。

 しかしそのクモたちも、フリッカの魔法によって切り刻まれることになる。


「何をしているのですか! 早く立ってください!」

「……え、あ……あぁ、すまねぇ……」


 フリッカの一喝と、おまけにポーションと毒消しを投げつけられて痛みが消えたことでジルヴァはやっと正気に戻り、立ち上がって位置取りを調整する。すかさずベオルグさんも移動したので、あちらはまたしばらく大丈夫だろう。

 いやはや、フリッカもすっかり強くなったものだなぁ。これだけ大量のモンスターを前にして怯えずに……いや、おそらく怯えてはいるけれど、気丈に振る舞い魔法を放ち続けている。……このフリッカを怯えさせて硬直させたジルヴァはやはりギルティだな? スライム以下か? そんな思いが脳裏を過ったけど、アホなことを悠長に考えている場合ではないと追い出す。


「えぇいこやつら! さっきからウジャウジャと……!」


 ウルはクモたちの刃の足を物ともせず(そもそも掠ってすらいない)、状態異常の体液を掛けられてもビクともせず、ひたすらにクモたちを蹂躙している。……のだが、積み重なったクモたちの死骸に辟易としていた。これはクモ嫌いでなくてもげんなりしたくなるだろう。わたしもさっきから気持ち悪くて仕方がない。何も考えずに燃やせたらどんなに良かったことか。

 もちろんわたしだってサボっているわけではない。先ほどから範囲攻撃アイテムでクモの巣を破壊しつつ、クモたちを倒してもいる。しかしいくら取り巻きのクモを倒したところで、クイーンアラクネが居る限りどんどん沸いてくる。クイーンアラクネまでの道を拓いてウルの拳が届くようにしなければ。ここはもう、チマチマした攻撃ではなくでかいのを一発放つべきか。


 わたしはいつぞやのラーヴァゴーレム戦を思い出す。あの時は氷弾のスクロールを複数枚使用して氷河のスクロールに変化させた。

 今度は、複数種類のスクロールを組み合わせてみよう。

 貫通力の水の槍、範囲を広げるための水の渦、距離を伸ばすために水の鞭も混ぜるか。

 立ちはだかる無数の敵を蹴散らし、道を切り拓く。強い意志を籠めて、MPを籠める。籠める。籠める。

 やがて、ドロリと熱すら感じられるように溶けていき、混じり合い、一つのアイテムへと変化する。発動させるために、更に籠める。


「皆! わたしの前から退いて!!」


 味方を巻き込むわけにはいかない。警告を飛ばすと、前衛を務めていたウル、レグルス、リーゼは迷うことなくすかさず避けてくれた。さすが。ジルヴァとベオルグさんは少し逸れた位置に居たので動けなくても問題はない。

 わたしを脅威に感じたのか、前衛陣が開けてくれた空間にクモたちが殺到する。けれど、遅い!


「喰らえ! 水竜の咆哮(アクアドラゴンブレス)!!」


 ドドドドドドドドドドッ!!


 極太の水の槍が轟音を上げ、回転しながら前方へと突き進む。なお、水竜はゲームでも存在していたモンスターだ。水中戦を余儀なくされるため討伐難易度が非常に高くなっている。この世界(アステリア)にも多分存在しているだろう。素材は欲しいけど今はまだ戦いたくないな。

 群れていたクモたちは為す術もなく巻き込まれ、抗う間もなくバラバラに砕け散った。クモの巣も同じだ。激流で千々に引き裂かれ流されていく。

 とはいえ、クモたちの行動は無意味ではなかった。やつらが壁になったことで水の槍の威力が大きく減衰され、クイーンアラクネに届きはしたもののそこまで大きなダメージにはならなかったのだ。即座に直線上に居らず無事だったクモたちを食べて回復されてしまう。これが本当のドラゴンブレスだったら全部吹き飛ばせたのだろうか。黒幕ラグナにはこの程度では届かないだろう。もっと強くならなければ。

 ……だが、道は拓けた。今回の目的は十分に果たせた。


「ウル!」

「あぁ、任せるがよい!」


 クモたちが、巣が、ウルの行く手を遮る障害物が全て薙ぎ払われた。ウルがそんな特大の好機を逃すはずもない。

 疾風のように駆け抜け――クイーンアラクネに狙いを定める!

リオンはあまり魔法の練習をしていないので、自力発動よりもアイテム使用の方が楽だっていう…

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― 新着の感想 ―
[一言] >リオンはあまり魔法の練習をしていないので、自力発動よりもアイテム使用の方が楽だっていう…  それにプラスしてジルヴァ達がいなければ、蜘蛛の巣を通して電撃でまとめて焼くって手段もあったでし…
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