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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第八章:凍土の彷徨える炎獄

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闇神の領域

 闇神の領域に辿り着くと……そこは辺り一面銀世界であった。


「うへぇ……すごい雪だなぁ……」


 さくりと雪を踏みしめる。行楽であれば存分にはしゃいだことだろう。しかし、ここを踏破しなければならないとなると全く楽しめない。耐寒装備のおかげでめちゃくちゃ寒い!とかはないのだけれど、見ているだけで寒い気分になってきて背がぶるりと震える。


「下に危ない物が埋もれているかもしれないから、飛び込んだらダメだよ?」

「……我をなんだと思っているのだ?」


 念のためウルに警告したらジト目で返されてしまった。……いや、一応ね? ……そもそもウルの場合は刺さる前に物の方が折れそうだな。

 ゆるゆると雑談をしながらわたしたちは雪原を進む。元々はゼファーで飛んでいこうかと思っていたのだけれど、それは取りやめにした。神子ルーエが居た島のように瘴気塗れではないのだが、何やら下――地の方から妙な気配を感じたので、それの調査も兼ねることにしたからだ。時間がないからといって、目の前?の怪しい出来事をスルーするのは神子としてはよろしくない。何となく、なのでひょっとしたら何もないかもしれないけど、何もないことがわかるだけでも十分だ。

 拠点うちにゼファーを置いてきて、代わりにレグルスとリーゼを連れて行こうかと思ったものの、バートル村のヒトたちと修業でモンスターを倒しに出掛けたらしくてタイミングが合わなかったので、わたし、ウル、フリッカの三人のままだ。まぁウルが居ればどうとでもなるでしょう。


「ぬぅ、目がチカチカするのである……」

「太陽の光が雪で反射しているからねぇ。ゴーグル要る?」

「……いや、やめておく。そのうち慣れるであろう」


 海を渡る前は天気が悪そうに見えたのだが、今は空が見えて日光が降り注いでいる。おかげで眩しくて仕方ない。ウルは遠慮したけど、わたしとフリッカはゴーグルを装着することにした。


「それでも吹雪よりはマシですね」

「だね。……いずれ遭遇しそうではあるけど」


 暗くなっている北の空を見上げる。あれが雲のせいだとしたらいつ吹雪いてもおかしくなさそうだ。それまでに隕石が見つからない限りは突入することになる。……あれが雲じゃなくて別の何かが原因だとしたらもっと悪いことなので、逆にただの天候変化である吹雪の方がいいのかもしれない、なんて。


「んじゃま、同じように鉱石探知しながら進もうか」


 わたしは一瞬だけ鉱石探知機を起動する。……残念ながらディメンションストーンも隕石メテオライトも反応はない。雪が積もっているから植物素材も見当たらない。くそ、なんて神子わたし泣かせなんだ。視界の先に森が見えるのでそれだけが救いだ。

 闇神に地形を聞いたところ、まずはだだっ広い平原、森があり、山が連なり、それを越えると凍土だそうだ。秋の半ばから夏の始めくらいまで雪が降る極寒の地。夏であれば避暑にピッタリだけれども、この時期はもっとも寒さが増す厳しい土地。それは足元に積もる雪の深さからも十分に察することが出来る。


「……視界は良いのだが、雪が保護色になってるやつがおるのぅ」

「ありゃ」


 どうやら先ほどの一瞬の起動でモンスターが反応してしまったらしい。おのれ。

 ウルの視力ではすでに見分けが付いているらしいけれど、白い体をしているせいでわたしもフリッカも発見出来ずにいる。


「白いオオカミの群れといったところか? 十匹近く来ておる」

「それならスノーウルフかな?」


 創造神の時間である昼間、冬のせいで日の光はやや弱まっていても雪のせいで眩しいくらいなのに、それでも活動しているモンスターは強敵といってもよいだろう。油断は出来ない。

 ……強敵のはず、なのだけれども。


「ふむ、こんなものか」


 ウルがさっさと大半を蹴散らしてしまい、わたしは二匹、フリッカは一匹倒しただけだった。パンパンと埃を払うように手を叩くウルは手ごたえのなさに口を尖らせている。ウルは戦闘狂ではないけれど決戦のために力を求めているから(わたしもだけど)、訓練にもならないのはちょっと不満なのだろう。


「……ウルさんがまた一段と強くなっただけだと思いますよ」


 フリッカの苦笑を耳に入れながらサッと素材回収をする。スノーウルフの毛皮に牙、爪、どれも結構質が良い。


「いっそ鉱石探知機をずっと起動しておれば、訓練と素材集めが出来て一石二鳥なのではないか?」

「……いやいや、先に進むことを優先するよ」


 ウルの提案に、主に素材集めの点で思わず頷いてしまいそうになったけど、断腸の思いで首を横に振る。どうせしばらくは探索することになるのだ、そんなことをしなくても機会はいくらでも訪れるだろう。わざわざ歩いているのだから調査だってしなければならないし。

 わたしが揺れ動いたことをフリッカに察せられてクスクスと笑われつつ、進行を再開する。

 しばらく歩いて(フリッカはウルぞりに引っ張ってもらったりして)は探知機を起動、反応の無さに落胆して、またしばらく歩いては探知機を起動。探知機のせいだったり、単に偶然だったりでモンスターは断続的にやってくる。スノーウルフの他にホワイトフォックスが駆けてきて、アイスコンドルが飛んできて、中には地中からアーマーワームがコンニチワしてきたりもした。どれもわたしたち――ほぼウルには敵わなかったけど。

 しかし……それにしても。


「昼間なのにモンスターが多い」

「探知機のせいではないのですか?」

「だとしても、だよ」


 強いモンスターであれば日中でも活動出来る。出来るのだが、それを考慮に入れたとしても数が多い。

 これがゲームであれば終盤戦は強いモンスターが多いのも頷けるのだけど、現実なのだ。


「闇神様の領域だから……でしょうか?」

「いや、闇と夜は似てるけど、闇神様の力でモンスターが活性化するわけではないよ」


 フリッカの再度の予想にも否定する。

 闇属性というとどことなく悪いイメージがあるけれど、この世界(アステリア)では闇イコール悪ではないのだ。というかそんなんだったら闇神なんて住人からめっちゃ叩かれていそうだ。夜にモンスターが活発化するのは単純に創造神の力でもある日の光が差さないからである。


「となると…………創造神の力が弱まっておる、とか?」

「……どうだろうね」


 言外に『日蝕が関係あるのでは?』とウルが言う。

 わたしは神様たちとの協議の末、数か月後に日蝕が発生して創造神の力が弱まるかもしれない、と拠点うちの皆に通達していた。その時に少しでも創造神の回復が早くなるように普段からモノ作りを頑張ってね、とも伝えてある。

 ……しかし、黒幕ラグナの狙いは話していない。フリッカにもだ。わたしに関しては鋭い彼女のことだからうっすら察しつつも黙っていそうな気がしないでもないけど。後ろめたさもあってつい声が小さくなってしまった。

 仮に創造神の力が弱まっているとして、この場所だからなのか、日蝕が近いからか、わたしの心臓の作成にリソースを取られてしまったからか。


「……あ、もしかして」


 わたしは再び北の空を見る。何度見ても暗いままだ。

 ひょっとしたら、アレが関係しているのかもしれない。

 ただ天気が悪いだけでは?と思うこともあるけれど……そうであればここまで気になることもない、ような気がしてきた。神子としての感覚が、『アレを何とかするべきだ』と警告を発しているのかもしれない。地だけじゃなく空も気にしなければいけないか。原因は同じかもしれないけど。


「これは、隕石を見つけたとしても行く必要があるかな……?」

「ふむ? 何にせよ我はリオンに付いて行くだけである」

「そうですね」


 ただの荒天であればさっさと帰ればいいだけだ。

 ……きっとそうではないんだろうな、と心の中で呟きながら、わたしはギュと雪を踏みしめるのだった。

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