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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第八章:凍土の彷徨える炎獄

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神子をなんだと思っているのか

『み、神子様……っ!?』

『なっ!? 神子が我々を見捨てるなど、そんなこと許されないぞ!』


 長老さんが慌てているけどもう遅い。そしてグマロ、お前はどの口でそれをいう。わたしの機嫌を損ねておきながら、わたしの助けが得られると思っていたのならそれこそ脳内お花畑だ。

 神子に命令出来る立場なのか? それとも、神子を感情のないロボットだとでも思っているのか? まさか、自分たちを救うことが世界のためになるとでも思っているのか?

 ふざけるな。誠意には誠意で返すけど、悪意に対して誠意を返せるほど心の広い持ち主ではない。三人の神子の中で一番俗物である自信すらあるよ。全くもって自慢じゃないけど。

 幼い少女を見捨てておきながら、いざ自分が見捨てられようとする時には反発するだなんて、勝手にもほどがある。


『許されないって、誰に?』

『……っ』


 自分が思ってた以上に低い声が出た。わたしのことを甘い小娘だと思っていた男が狼狽える様は……胸がすくどころか余計に燃料がくべられる。弱い者相手にしか立ち向かえないのか、と。


『……そ、創造神様に決まっている!』

『おかしいですね。わたしは創造神様に『必ず住人を助けろ』なんて神託は受けていませんよ? 創造神様のお言葉を捏造するのはやめてくれません?』

『はぁ!?』


 言うに事を欠いて、創造神を盾にするなど……何故創造神の神子の前でそんな馬鹿なことをするのか。お前はわたしより多く創造神に会っているのか? わたしより深く創造神を理解しているのか? 神子の言葉全てが正しいなんて言うつもりはないし、わたしはそこまで敬虔な信徒ではないけれど……それでもそんな言葉ありえないとは言い切れる。

 むしろ負担になるようなら逃げていいとすら言われているのだ。

 こんな胸糞悪くなる男の側に……一分一秒たりとも居たくない。


『大のために小を切り捨てる、それはそれで立派な決断だと思います。貴方たちは是非それで頑張ってください』


 時には必要な行為であるので否定はしない

 けど、賛同もしてやらない。


『わたしは、その切り捨てられる小のために、手を差し伸べることにします』


 たとえ引っ込みがつかなくなって意地を張っているだけと貶されようと、私利私欲に塗れた愚かな神子と罵られようと、ここでマナを見捨てられるものか。

 ……さすがに世界と引き換えとかいわれたらどうしようもないけどね。

 わたしは目を剥いて絶句する二人に背を向け、ウルとフリッカに帰ろうと促し――おっと、肝心の本人マナを蚊帳の外にしてしまった。彼女から拒絶されたら……その時は他の村に打診すればいいか。


『えっと……ということで、わたしと一緒に来る……? もしわたしが怖くて耐えられないなら、他の場所に連れて行くことも出来るよ?』

『……』


 残念ながら、きみはここには居られない。とまでは伝えなくても、さすがにわかっているようだ。葛藤を見せつつも残りたいとは言われなかった。

 長いような短い沈黙の後、マナはフリッカにしがみ付きながらも『いっしょにいく』と小さく頷いてくれた。


『ま、待て!』


 もう用は済んだというのに、グマロが険しい形相でわたしを捕らえようと手を伸ばす。

 しかしその手は、届かない。


『リオンに触るな』

『なんだ貴様――ぐああっ!?』


 ウルがグマロの腕を掴み、捻りあげたからだ。それからドンと軽く付き飛ばし――軽くだと思ったのに部屋の端まで吹っ飛んでいき、背を強かに打つ。……まぁ大した怪我にはならんでしょう。


『拒絶したのはそちらが先だ。どうしてそれで恩恵を受けられると思ったのだ』

『きょぜつ、だと……? 俺は、事実を述べた、だけだ。貴様らは、自分の意に沿わぬ者を虐げ、傀儡以外は、要らないとでも言うつもりか……!?』

『ハッ! あれだけ神子を軽んじておいてよく吼えたものだ。それで心の底から自分が正しいと思っているのなら、愚物以外の何者でもないわ』


 グマロが憎々し気にウルを睨みつけるが、ウルはどこ吹く風だ。フリッカもそっと位置を変えて、マナの視界を塞いでいる。あんなの見てはいけないからね。

 悔しそうにわめくグマロの声を聞きながら、わたしたちは長老さんの部屋を後にした。



 最後に病室に寄ってニフさんと別れの挨拶でも……と思ったけど、残念ながらニフさんは眠ったままだった。

 マナは無理に起こすことはせず、じっと顔を見つめている。

 ……ただそれだけで、特に何もしていないというのに、マナに胡乱な視線を向ける元病人も居るわけで。やっぱりここはダメだと内心で溜息を吐く。

 フリッカに目配せをする。押し付けて申し訳ない気持ちはあるけど、フリッカが一番懐かれているからね。


『マナさん、そろそろ……』

『……うん。わかってる。……ニフ、ばいばい……げんきでね』


 フリッカから差し伸べられた手を、マナはぐずることもせずに握り返す。聞き分けがよくて助かるけど、聞き分けがよすぎるのもそれはそれで不安だ。いつか大きな反動が来ないように見守っておかないと。……わたしは素材探しをしなければいけないから、主に拠点の皆に頼むことになるけどね。

 後ろ髪ひかれるマナを連れて外に出ると、またもハギンさんと出会った。


『おや、神子様。お帰りですか……と、マナ?』

『えっと……諸事情により、マナを預かることになりまして』

『……そうですか。どうかマナをよろしくお願いします。マナもいい子にしてるんだぞ』

『……うん、ばいばい。ハギンも、ニフを、よろしくね』

『あぁ、任された』


 ハギンさんはマナの頭を優しく撫で、マナも大人しく受け入れている。どうやら彼はマナに思うところはなく、むしろ可愛がっていた方のようだ。それにしては彼は元気だけど……警護を任せられるくらいに体力があるからか、マナのせいであるのはただの思い込みだったのか。グマロの言うことを信じるわけでもないけど、証拠なしに否定したら同じ穴の貉になる。それはいただけない。拠点うちに帰ったらきちんと調べておかないと。もしも事実だった時に、何も対策をしなかったことでうちの子たちが倒れたら、悔やんでも悔やみきれないからね。……事実だったとしたらグマロに謝るべきかどうか、悩ましい。


『とりあえず、海面まで行こう』


 いつもであれば帰還石でパッと帰るところだけど、ゼファーが居るのだ。置いていっては可哀相である。

 それに、創造神の像を設置して帰還石を作っておかないと、またここまで時間を掛けて来なければいけなくなるからね。手間は減らしたい。

 海面から顔を出して、小さな舟を出して乗り込み、発信機を作動させる。ゼファーには受信機を持たせているから、これで拾いに来てくれるだろう。わかりやすいように狼煙でも上げておくか。


「キュー」

「……ほ、ほんとうに、ドラゴン?」

「キュ?」


 近くを飛んでいたのか、五分くらいでゼファーは到着した。待っている間にマナにはドラゴン(ゼファー)のことを説明しておいたけど……ビックリしているくらいで泣いたりはしなくて一安心である。ゼファーもゼファーで子どもに慣れてきたのか、『怖くないよー』とでも言いたげに愛想よく笑って(多分)いる。ヒトより愛想が良いモンスター……何とも皮肉なものだなぁ。

 小さな子が一人増えたくらいなら許容範囲内だ。皆でゼファーの背に乗り、陸地まで移動して、創造神の像を設置して(三日は保つように防犯もしっかりして)、拠点へと帰り着くのだった。


 ……はぁ……ダンジョンよりもヒトとの会話の方が疲れるなんてなぁ……今後はごめん被りたいものですよ……。

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[一言]  神子と村のお見合い失敗! リオン「今回はご縁がなかったと言うことで……」
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