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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第八章:凍土の彷徨える炎獄

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長老の願いごと

 ポーションが効かない、などという異常事態が発生することもなく、無事に彼女らの状態異常を治すことが出来た。ふぅ、よかった。

 疲労でまた寝入ったニフさんを心配そうに見つめ、マナが尋ねてくる。


『……ニフ、げんきになったの?』

『あとはちゃんと寝て、ちゃんとご飯を食べれば元気になるよ』

『そっか……ありがとう』


 ポーションで治したとはいえ、すぐに動けるようになるわけではないからね。

 この場にマナを置いていくのはちょっと不安だけど、別れて長老の部屋に再度向かう。……おそらくだけど、マナに聞かせられない話がある、ような気がするからだ。

 マナも疑問に思うことなく手を振り返してくれた。ニフさんのベッドにしがみ付くような状態の彼女は、実際の見た目以上に小さく見えた。



『治療は終わりました』

『おぉ……神子様、ありがとうございますじゃ』

『ついでに、作ったものの使用しなかったポーションを差し上げますね。いつか困った時に使ってください』

『よいのですか? 重ねてお礼を申し上げますじゃ』


 傍にあった机にポーションを出していったら、『こんなに?』と長老さんにもお付きの男性にも目を丸くされた。……少ないくらいでは? いや、レベル三はともかく、レベル二の状態異常が解決出来ないくらいなのだから、あまり製薬技術がないのかもしれないな。しかし教えている余裕まではない。黒幕ラグナの件が終わったらまた来てもいいけど、今回のところは現物を提供するだけに留めておこう。


『他にも何か欲しいアイテムはありますか? これも縁ですし、融通しますよ』

『それは大変ありがたいのですが……残念ながら儂らには、あまり返せる物がありませんのじゃ……』

『そうですねぇ……あればで構いませんから、こんなアイテムを持っていたりしませんか?』


 無償でもよかったけど、ダメ元でディメンションストーンを持っていないか聞いてみる。長老さんは首を傾げたが、お付きの男性には心当たりがあったようだ。ラッキーが発生したか? 情けは人の為ならずだな。

 お付きの男性は『倉庫を探してきます』と部屋を出て行った。……今日出会ったばかりのわたしたちと長老さんだけにしていいのかと思いつつ、わたしが神子だから信用されたのだということにしておこう。実際手を出すことはないし。


『……さて、今の内に神子様を再度お招きした理由を話しておきますのじゃ』


 そう切り出された話は……案の定、マナの話だった。


『神子様、ご負担でなければ、あの娘――マナを預かっていただけないでしょうか?』

『……理由をお聞きしても?』


 先ほどの一人の病人の反応から、何かしらトラブルの種が存在しているのは察していた。

 しかし……解決をすっ飛ばして『預かってくれ』とは、そこまで大きな問題なのだろうか。


『マナは……ここの子ではありませんのじゃ。先月、近くの海域で彷徨っていたのをニフという者が連れてきて住まわせておりますが……』

『故郷に帰してあげてほしい、ということですか?』


 お世話になっているヒト、とは聞いていたけど、祖母ではなく保護してくれたヒトだったのか。そりゃ病に倒れたら何とかしてあげたくなる気持ちはわかる。

 マナは彼らでは故郷に帰してあげられないほど遠くから来たのだろうか。海にもモンスターは居るし、小さい子を連れていくとなると更に難易度が上がるので、帰せなくても仕方のない面はある。逆にマナはどうやってここまで来たんだ?って疑問も沸いてくるけど。もしくは幼い彼女が故郷を覚えていないパターンとか?


『お察しの通り、どこから来たのか覚えていないとのことですじゃ』


 うーん、もしマナが故郷に帰りたいと思っているならば帰してあげたい。けれど、今の状態で何処にあるともわからない場所を探すのは時間的に厳しい。渋面を作るわたしに、長老は更に言いにくそうに続ける。


『それだけではなく……マナは、ヒトの命を啜るのですじゃ』

『……はい?』


 内容に、思わず変な声を出してしまった。会話には参加していないけど、ウルとフリッカも驚き、段々と懐疑的な表情になる。もちろんわたしもだ。

 『ヒトの命を啜る』だなんて。

 マナはモンスターではない。では吸血鬼セレネみたいに他者の何かを奪う(というのはセレネの性格からして正しくはないけど)種族なのか? マーメイドだと思ったけど……もしかして実は異なる、わたしの知らない種族だったりする?

 種族はさておき、命を啜るとなると冗談では済まされない話だ。『そうですか、わかりました』とあっさり返事をするわけにはいかない。長老さんもわざわざ打ち明けるからにはわたしをハメようとしているわけではないだろう。でも厄介者を押し付けたいだけとなると、頷けないものがある。わたしが子どもに甘いだけだとしてもね。


『命を啜る、の根拠は何ですか?』

『……マナの近くに居ると疲れるという者が続出したのですじゃ。倒れる者が増えたのもここ最近のことですじゃ』

『……あぁ……それでか……』


 あの病人さんがマナの方を見ていた理由はこれか。彼らが【衰弱】に陥った原因がマナのせいだと? しかしそれだけでは根拠が薄い。


『どのみち、マナはここでは長く生きていけないでしょう』

『生きていけないとは穏やかじゃないですね。何故ですか?』

『儂らの作る料理があまり食べられず、いつもお腹を空かせておりますのじゃ。……場合によっては、そもそも食物から栄養素を摂取する生き物ではないのでは――』

『え? 彼女、わたしの差し出した料理を普通に食べていましたけど?』

『え?』


 サンドイッチもマフィンも、美味しいとたくさん食べていた。でも確か、初めて会った時の第一声が『お腹空いた』だったっけ。食べられない、というのは本当だったのかもしれない。長老の反応からして、わざとご飯を与えていなかったわけでもなさそうだ。

 はて、彼らの料理とわたしの料理に何か違いがあるのだろうか。彼ら水棲種族が常食する物がマナの口に合わないとか? マナはまんまマーメイドな見た目なのに?

 呆けていた長老さんが復活してゴホンと咳払いをする。


『ではなおさら、マナのためにも神子様に預かっていただきたいのですじゃ……』

『……まぁ、マナ次第でしょうかね』


 ご飯が食べられないのは問題だ。でもニフさんに懐いているみたいだし、ニフさんもマナのことを大切に思っていそうだった。それを無理矢理引き離すのは、色々とはっきりしない現時点では気が進まない。

 ここは海底だ。日の光が届かない場所では創造神の像が効果を発揮しない。つまり帰還石を作って気軽に行ったり来たりすることが出来ない。あの村を中継地点にすれば短縮は出来るけど……毎回泳いで辿り着くには骨が折れる。

 ……それに、わたしは『ちょっと怖い』とか言われてるし、素直についてきてくれるかどうかは微妙なところなのだ。


『そのニフも、このままでは病死してしまいますのじゃ。それはニフに恩義を感じているマナも望むところではないでしょう』


 命を啜るという表現はともかく、マナが相手を衰弱させる何らかの行動を無意識だろうとしていたとしたら、今回治したところでまた再発するだろう。ポーションをあげても、根本がどうにもならなければ焼け石に水だ。……ニフさんだけ衰弱レベルが高かったのも、あのヒトが一番マナの近くに居たからだとすると……やりきれないものがあるな。


『ニフ、しんじゃうの?』


 後ろからガタリと音がして。振り向くと、顔色を青くしたマナが居た。

 あちゃあ……めちゃくちゃタイミングが悪いところで……。

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― 新着の感想 ―
[一言] >マーメイドだと思ったけど……もしかして実は異なる、わたしの知らない種族だったりする? >『……マナの近くに居ると疲れるという者が続出したのですじゃ。倒れる者が増えたのもここ最近のことですじ…
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