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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び

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不穏な空気がします

 柵は一メートルくらいの高さで先が尖っており、小さめのモンスターだと乗り越えるのは厳しそうだ。それがぐるっと村を覆っていて、少なくとも外からの襲撃で早々にピンチになることはないだろう。

 隙間から見えてくる家屋はこれもやはり木造で、地面に作ってある物は普通に見えるのだが、高い所に作ってある物はツリーハウスみたいな物もあれば、木の幹をくり抜いているのか一体化しているような物もある。

 後はとにかくそこらに緑が多い。さすがに道の部分は手入れしてるのか丈が短いけれど、他は方々に伸びているし、蔦が色んな所から垂れさがっている。一部ははしごの代わりに使っているのか縛られて繋げられていたりもする。

 おー、すんごい大きいキノコとかも利用してるなぁ。それっぽいそれっぽい。


 しかし……やはり、全体的に色がくすんでいるようだ。時期が時期なので枯れるにはまだ早過ぎる。

 今すぐ腐り落ちる、という程ではなさそうだけれども、森に親しんだエルフであるならば尚更不安であるだろう。


「見張りの人と話を付けてきますので、少々お待ちください」


 フリッカはそう言い、柵が途切れている部分――村の入り口なのだろう――に弓を背負い杖を持って待機している二人のエルフ男性の元へと歩いていった。もちろんこの場合の杖は歩くための補助ではなく、魔法の補助もしくは杖術に使うものだ。エルフは魔法が得意だからね、羨ましいことに。


「お疲れ様です。こちら、本日の聖水です」

「フリッカか。お勤めご苦労様」

「あぁ、聖水は確かに受け取った」


 アイテムボックスから取り出した聖水を渡している。撒くのは他の人がやるのかな。まぁ村は結構広いから、手分けするのが楽でしょう。わたしだって自動装置で楽してるだけで、自力で拠点に撒こうと思ったら面倒で敵わないからね。

 その後、外の様子はどうだったとか警備に必要そうな話を続けている、と思いきや。


「昼のお勤めは終わりだろう? 俺ももう交代の時間だから一緒に食事でも――」

「ちょっと待て! おまえ、この前もそうやって――」


 ……ナンパされてたよ。まぁエルフの基準がどんなもんなのかは知らないけれど、わたしから見てフリッカはすんごい美少女だからねぇ……ちなみに見張りさんたちも結構美形である。日本だったらアイドルまっしぐらってくらいのレベル。フリッカの美少女っぷりにはインパクトが霞むけれども。

 しかし大丈夫なのだろうか? 彼女は長老から神子の嫁になるよう育てられてるらしいけど……いや、もらう予定はないんデスケドネ?

 フリッカは慣れてるのか、特に慌てるでもなくソツなく対応をしていた。


「申し訳ありません、本日はお客様をお連れしておりますので」

「……客?」

「後ろの二人か?」


 言われてやっとわたしたちに気付いたらしい。……見張りがそんな様で大丈夫? わたしが敵だったら不意打ちでグッサリですよ……?

 それ以前にウルなら投擲で視界外から、とか出来そうだけどもそれはさておき。やる必要はないし。……ないよね?


「えぇ。創造神様の神子様と、そのお連れの方です」

「「なっ……!」」


 驚いてこちらを凝視してきたので、とりあえず手を振ってみる。

 そうしたら……訝し気に目を細められて……何やら、歓迎されてないような空気が漂ってきた。


「成人すらしてなさそうな幼い子どもが、か?」

「あの人間ヒューマンは女のように見えるぞ。神子様は男ではないのか?」


 ……見かけが子どもで不安になるのはともかく、性別が女ってのはそんなに問題なんですかねぇ。と言うか、何時から神子=男っていう話が固まったんですかねぇ?

 ゲーム時代でもアバターの性別は自由に選べたのだ。男性が女性アバターを使うことも、逆に女性が男性アバターを使うことだって出来る。性別による能力の違いやストーリーの変化もない。

 だから元々男しか居なかった、ってことは無いと思うんだけどもなぁ。そもそもわたしのこの体は創造神自ら作ったものだし。

 まぁそのような疑問もフリッカからすれば想定内だったのか、同様にサラりと流す。


「私自身の目で直接確認しました。あの方は間違いなく神子様です」

「……そうか。司祭であるおまえがそう言うのであれば……」


 渋々と言った感じであるが、納得してくれそうで良かった良かった――とは、ならなかった。


「いや待て! 隣の黒髪の子ども……リザードではないか!」

「何だと!?」


 瞬時に色めき立ち、手にしていた杖を構えてこちらへと先端を向けてきた。

 溜息を吐きながらも、ウルをターゲッティングさせないようわたしの背へ移動させる。

 ウルの戸惑う声が聞こえてきたが、わたしはちらと横目で見て安心させるように軽く笑った。


「戦いの時はいつもきみに守られているからね。そうでない時くらいはわたしの出番だよ」

「……うむ」


 わたしの服の裾をきゅっと握る感触がした。これは保護欲がそそられますよ?

 ……こほん。


 とは言え、さすがに魔法を撃たれてしまったら現在の装備では死にはしなくても痛いことにはなるだろう。

 どうやって落ち着かせるかな……と考える前に、更に射線を遮る人影があった。


「止めてください。あの方は神子様の御友人です」


 フリッカだ。

 彼女も最初は怯えていたのに……何とまぁ随分と信用してくれたものだね。

 それはわたしが神子だからなのか、短い時間であったけれども多少なりとも打ち解けてくれたのか。後者だといいんだけどな。


「し、しかし……!」

「神子様の言を信じられないと?」

「む、ぅ……俺たちだけでは判断出来ん! 誰か長老を呼んでくれ!」


 いつの間にか遠巻きに見ていた他の住人が居たようだ。見張りの人から声を掛けられて慌てて駆け出す音が聞こえた。



 そうして十五分くらい待たされた頃だろうか、髪と髭の長い、若い頃はさぞイケメンだったんでしょうね、とお爺さんにしては顔の整ったエルフがお供をぞろぞろと引き連れて現れた。

 ……全員杖を持っているな。護衛なのだろうけれども……殺気立つとまではいかなくてもかなり警戒しているようで、ピリピリとした一触即発の空気が感じられる。


「其方が神子であるか?」

「そうですけど」


 長老エルフが、値踏みしてくるかのように無遠慮な視線でねめつけてくる。

 それを見てわたしは「あ、これはダメかも」と思ってしまった。まだ何も始まっていないというのに、諦めてしまいたくなってしまった。


 目が、フリッカと違いすぎるのだ。

 彼女はほんの少しだけ陰りを見せていたものの、春の象徴のような煌めく緑だった。

 しかし……この長老エルフは、酷いものだ。老人だからひょっとしたら目の病気かも?と逃避したくなったけど、そうではないだろう。

 欲やら猜疑やらに濁り切った目。冬よりもなお暗い、闇を孕んだナニカ。

 エルフだと言うのに、リザードであるウルよりもよっぽど……いや、比べることすらウルに失礼だ。それくらいの断絶がここにはある。


「証明は出来るのか?」

「……作成メイキング、【創造神の石像】」


 要求に対し、わたしは余計なことを言わずに作業台と石ブロックを出し、神子のみが使用できるスキルを発動した。

 周囲のエルフたちは構えていた杖を思わず下げてしまう程にはどよめいていたが、長老エルフは眉をピクリと動かしただけであった。


「大変失礼致しました、神子様。……しかし、後ろのリザードについては何と説明するおつもりで?」


 一応は認めてくれたみたいで口調も改められたけれども、どこか白々しい。彼に対してはわたしも『敬語は要りませんよ』何て言う気にはなれなかった。

 ……敬意なんて一切込められていないからね。

 そんな相手に、どんな説明をした所で納得してくれるわけもない。

 だからわたしは単純に力業で押し切ることにした。


「創造神プロメーティアの名に懸けて、その神子であるわたし、リオンが彼女の安全性を保証する」


 この世界に生きるヒトは皆創造神を信仰している。

 創造神の名に懸けて宣誓することは……命を懸けることに等しい。

 ……まぁ、実際に神子であるわたしを罰せられるのは創造神を始めとする神様たちだけなんだろうけどね、という実情はさておき。


 スキルを使った時とはまた別種のざわめきの中、長老エルフは厳めしく口を開いた。


「……信じましょう。申し遅れましたが、儂は長老のザギであります。我らが村アルネスへ、よくぞおいでくださいました」


 ただ……忘れてはならない。その口元が、わずかながらも嘲笑で歪んでいたことを。

話の内容に影響はありませんが、一部方角に記載ミスがあったので修正しました。すみません。

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― 新着の感想 ―
[一言] プロメーティア「娘の友達(元■■)ですが、何か?」 確かに創造神さまが、どう対処しても良いと言うはず。
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