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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第七章:廃地の穢された闇黒

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たとえ神様が相手であっても

 ――邪竜。

 この島にも、冥界で遭遇した邪竜ニーズヘッグのような存在が居る……わけではないのだろう。そうであればまだよかったのに、竜のような肉体的にも能力的にも巨大な存在が居るとは到底思えない。つまり。


「念のため確認させていただきますが……その邪竜とは、破壊神ノクスのことですか……?」

「……それ以外に、何が居ると、いうのだね?」


 わたしの出した答えは想像と違わず、若干呆れたようなトーンで闇神は肯定する。

 肯定されるのは想定通りといえば想定通りだけども……それはそれでおかしい。


 破壊神ノクスは、敵ではない。


 これは少し前にわたしが殺されかけた時に判明したことだ。実は破壊神は複数居て……などと淡い期待もしたけれど、名前込みで肯定されて打ち砕かれる。

 わたしの拠点に滞在している神様五(にん)ともが破壊神に対して敵意を抱いていなかったし、そもそも主神である創造神からして好意的だった。破壊神は必要があってモンスターを生み出しており、世界の敵役ではあっても、神様たちの敵ではないのだ。

 だというのに、何故、闇神だけ破壊神のことを名前で呼ぶどころか『邪竜』と呼ぶのだろうか。破壊神としての役割を知らない一般住人ならともかく、知っているはずの闇神がどうして……?

 性格が合わなくて好意的にはなれない? 表では創造神に賛同していても、裏では殺してやりたいと思うほどに嫌いだった?

 それとも……瘴気の取り込みすぎで、精神がおかしくなった?


「何故、破壊神のことを邪竜と呼ぶのですか?」

「……知らないのか? アレは、神と呼ばれはしても、竜……ウロボロスドラゴンでもある。人の形をすることはあっても……実体は、邪悪なるけだものなのだ」

「――」


 どうやらわたしが破壊神の本体を知らないと勘違いされたようだ。聞きたかったのはそういう意味ではなかったのだけど……それよりも。

 けだもの。

 その呼称が、どうにも癇に障った。

 確かに、面と向かうだけで気圧される恐怖の権化みたいな神だし、すぐに手が出る暴力的な面もあるけれど……けだものというのは、違う。

 神子ルーエよりよっぽど理性的であったし、それに――


 夜のような純粋な闇。

 満月のような曇りのない瞳。

 怠惰を望みながらも、創造神に向ける感情は本物で。


 あのヒトは、決して……邪悪などでは、ない。


 創造神や(闇神はまだよくわからないので彼を除いた)五神のように善というわけでもないだろうけれど。

 それでも、邪悪だなんて……どうしてそんなことが言えるのか。

 思わず拳を握りしめるわたしを見て、闇神が眉をひそめる。


「……何故、そのような反応をする……? もしや君は、創造神の神子でありながら、あのけだものの肩を持つのか……?」

「……」

「あぁ……君からは破壊神けだものの気配がすると、思っていたが……隣の破壊神の神子の臭いが、うつったわけではなく……本当に、君自身から、発せられているのか……」


 闇神の声が低く、重くなる。

 創造神の神子(わたし)を相手に、少しだけ緩んでいた神気による圧が、再度増していく。


「……創造神の神子でありながら、この地に住む民でありながら……ぼくに跪かないなんて、不敬だね……?」


 闇が、瘴気が、粘度を増していく。

 この地に来てからずっと感じていた不快な気配。それがわたしたちに絡み付き、地に引き倒そうと、這いつくばらせようとしてくる。

 「ぐっ」と後ろから誰かの呻き声が聞こえた。だんだんと息も荒くなってきている。ウルはまだ平気そうだけど、他の皆には辛いのだろう。


 だけど……わたしは、絶対に膝をつかない。


 背筋を伸ばし、足を踏みしめ、腹に力を入れ。

 聖水を撒いて瘴気を祓う。

 決意を示すように。決別するように。

 その反応に、闇神の機嫌がまた一段と降下した。


「……たかが神子が、神に、逆らおうというのか……?」

「……お言葉ですが」


 闇神は地下、わたしは地上に立っていることもあり、自然と見下ろす形になっている。

 しかし物理的な高さ以外にも、挑発行為だとわかっていながら……わたしは闇神を見下した。


「わたしは創造神の神子です。創造神様に従う立場にはあっても、闇神様に従う謂れはありません」


 初めて他の神様たちに会った時は自然と膝を付いたけれども、それは神気の影響だけではなく、わたしの位階レベルが低いせいもあったのだろう。

 今のわたしには、神様たちに敬意はあるけれど、無条件に従わなければならないという意識は……ない。お酒の件とかで最初から無条件に従ってなんていないだろうってのはさておき。

 それなりに力を付けたことで傲慢になった、と取られるかもしれない。実際、このセリフを聞かれたらそう思われること間違いない。『これだから破壊神の神子は……』なんて悪評を囁かれることだろう。

 けれども、違うのだ。

 わたしは創造神の直属なのだ。他の神様たちのお願いを聞くことはあっても、命令される部下ではないのだ。なおこれは、わたしが破壊神の神子を兼任していることと全く関係ない。

 もちろん、ただの神子であるわたしと神様たちとでは格に大きな差があり、神様たちと同列だなんていうつもりは全くない。本来ならわたしは従うべきなのだろう。闇神なんて、想定していなかったことを言われて目を見開いている。背後からも、ちょっとびっくりしているような気配が漂っている。

 闇神が普通の状態だったらわたしも跪いたかもしれない。いや、わたしが勝手におかしいと思っているだけで、これでも普通の状態なのかもしれない。


 でも……纏う神気で自然と跪かせるのではなく、力づくで押さえつけて跪かせようだなんて……上位者として認めない。

 今、わたしの目の前に居る闇神に、敬意なんて、払ってやるものか……!


 わたしの反抗いしが伝わったのか、闇神の表情が険しくなる。嘆かわしいとでも言いたげであるが、侮蔑が滲み始める。


「……全員精神が、邪竜に、汚染されてしまったようだね……神罰を、与えねば」

「そういう闇神様こそ瘴気に汚染されてるんじゃないですかねぇ? 言動が神様っぽくないですよ?」

「お前の物差しで……僕を、測るな。これは、汚染ではなく、利用しているだけだ……」


 おっと、『君』から『お前』になったな。わたしが闇神の中で格下げされたからか、それが本性なのか。

 しかし……利用、ねぇ……? 浄化のためだけに集めているわけじゃない、と?

 必要悪として生み出されたモンスターとは違い、瘴気は発生原理はよくわからないけれど確実に世界を蝕むモノだ。即浄化は基本である。それなのに、闇神は一体何に使う気なんだ……?

 闇神が利用していることを示しているように、怒りに合わせて瘴気やみの濃度が増していく。顔に凶悪な笑み――どこか神子ルーエと通じるものがある笑み――を浮かべながら、告げる。


「……これが、最後の通告だ。今すぐ、僕に帰順しろ。そうすれば……死罪だけは、見逃してやる」


 死罪って……大きく出たなぁ。わたしは反抗的態度を見せただけで具体的な悪事は行っていないというのに。闇神の上司である創造神、その神子とわかっててやるのは越権行為じゃないか? 闇神も神子ルーエと同じく舐められるのが我慢ならないタイプか? ……ひょっとして、神子ルーエがおかしくなったのって闇神のせいだったりする?


「ちなみに、帰順の方法は?」

「這いつくばること。そして……忠誠の証として、隣の、けだものの臭いのする、破壊神の神子を……殺せ」

「――」


 ……そんなに、破壊神が憎いのか?

 世界のために憎まれ役を演じてくれている破壊神に、ずっとわたしを支えてくれているウルに、わたしが殺意を向けるとでも?

 随分と軽く見られたものだ。

 わたしの答えなんて……決まっている。


「絶っっっ対に、嫌だ! ぶっ飛ばしてでもアンタを止めてやる!!」


 わたしの拒絶こたえと同時に、瘴気やみが溢れた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  拒絶して反抗する選択をする前に、とりあえず闇神の周辺の周辺を浄化して聖域にしてから返事するとか言って、本当に浄化して回ってたらどうなるのっと。  ついでに闇神と近いところは本気の、…
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