表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の開拓記  作者: なづきち
第七章:廃地の穢された闇黒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

398/515

わかってたけど望まぬ再会

 予想出来たことではあるが、神子ルーエは敵意に漲っておりる気満々のようだ。わたしとしては相手すらしたくないというのに。

 内心では無駄だとは諦めを抱きつつも、一応対話を試みる。


「侵略者? おまえたちの村に興味なんてない。わたしたちはこの近くで探し物をしているだけだ」

「モンスターのいうことを素直に聞くと思うのか? 仲間たちがこれだけ傷付けられて黙って見逃すと思うのか? 馬鹿が」

「正当防衛にケチをつけないでほしいんだけども」

「侵略者に抵抗せずただ蹂躙されろと? 勝手だな」


 敵意を隠そうとしないながらもわたしの言葉に返答しているのは、あちらさんも対話をしようと思っているのではなく、味方の態勢が整うのを待っているからだろう。遅れて到着した村人たちが倒れている村人たちを治療している。


「わたしたちが本気だったら、そいつら皆死んでいるけど?」

「あえて負傷させるだけに留めて治療のために手を煩わせるのは常道だろう。汚いモンスターなら十分にあり得る」


 普通のモンスターであればそんなことまで気が回らないけど、知恵のある悪辣なモンスターであれば確かにあり得る。しかし納得したからといって黙っていると『それみたことか!』となるだけだ。


「よく見なよ。そいつら誰も重傷を負ってないでしょう? 何ならポーションすら使ってあげたよ?」

「それがカモフラージュでない保証がどこにある。おい、毒が使用されてないか注意しろ!」


 後者は村人たちに向けた警告だ。どうやらポーションに見せかけた毒ということにしたいらしい。

 ……駄目だ、話が通じる気がしない。


「はぁ……。ところで、トラップに火を使ったのはどういうこと? わたしが消火しなければ、森が火事になってたかもしれないんだけど?」

「……そんなのは知らんな。爆発音がしたかと思えば、貴様らが森に火を放とうとしたのか。これ以上私たちから奪おうとするのはやめろ!」

「おまえ……!」


 神子ルーエの目が少しだけだが泳いだ。嘘を吐いている。

 あのトラップ発動で火事になることまで考えてなかったバカなのか、火事になっても構わないと思っていたのかまではわからないが、すっとぼけてわたしに擦り付けようとしているのが確定した。そして神子を信頼している村人たちは嘘に乗せられて戦意が増した。質が悪いったらありゃしない!

 一度倒されて怖気づいた村人たちも立ち上がってしまい、大したことはなくても手間が増えてしまった。問答無用で神子ルーエをぶっ飛ばすべきだった……? いや、それをやるとただでさえ悪い印象が最底辺になり二度と浮上しなくなるだろう。


「リオン、もうよい。アレには何を言っても無駄だ。ここまで拗れては力づくで通るしかない」


 ウルがコキコキと肩回りの骨を鳴らしながらわたしの前に立つ。声色は冷静だけれども……これは怒っているなぁ。呼応するようにレグルスとリーゼも構えを取った。加えて、わたしに背負われたままのフリッカからも冷気が漂っている。

 一触即発の空気に、神子ルーエは嘲りをこめて笑う。


「はっ! さすが邪竜。力に物を言わせるのはまさしくモンスターだな!」

「何もかもを関係ない我らのせいにして対話を潰そうとする貴様の方がよっぽど好戦的だと思うのだがの?」

「今の私たちの状況が貴様らのせいであるのは事実だ!」


 何を言ってもわたしたちのせいにする姿勢に、ウルは『処置なし』とでも言いたげに肩をすくめた。

 わたしからはウルの表情は見えないけれど、小馬鹿にでもしたのかもしれない。神子ルーエの表情が更に憤怒に歪み、腰元の剣に手が伸びる。


「リオン。アレの相手は我がしてもよいだろう?」

「……えぇと……ほどほどにね?」

「私も参加したいです」

「ほ、ほどほどにね……?」


 フリッカも背負子から降りながら参戦表明をする。強い意志で告げられ、わたしに止めることは出来なかった。

 わたし程度に勝てない神子ルーエが相手であればウルが負けるはずもないし、フリッカのフォローも可能だろう。わたしは二人に任せることにした。……任せないと後が怖い。


「この……私を舐めるのもいい加減にしろ!!」


 『うっかり殺さないように』というわたしの親切(?)が神子ルーエには侮りととられたのだろう。抜剣しながらわたしたちに向けて斬りかかってきた。村人たちも雄叫びを上げて詰めかけてくる。


「レグルス! リーゼ! わたしたちはウルとフリッカの邪魔をしないように周辺を!」

「お、おう」

「邪魔したら怖いしね……」


 どうやらレグルスとリーゼにもウルとフリッカの怒りが伝わっていたようだ。彼らも神子ルーエには怒りを抱いていたけど、ウルとフリッカの気迫が強すぎて出る幕はないと引っ込むことにしたようだ。苦笑を零し、村人たちの鎮圧に向かう。


「おまえたち、獣人ビーストなのに何でモンスターに従っているんだ! 恥知らずめ!」

「目が曇り切ってるテメェらに言うことは何もねぇ!」


 同じ獣人である村人から拳と共に罵声を浴びせられたが、レグルスは動じることなくカウンターを決める。リーゼは無言でその横の村人の剣閃を槍で逸らし、石突で思いっきり鳩尾を突く。あっという間に二人が戦闘不能になる。

 それでも神子ルーエが側に居るせいか、村人たちは逃げようとしない。どんどんとやってくる。わたしは棒を構えて(いつも使っている聖剣や槍など刃が付いている武器だとうっかり殺しかねないので)わたしに向かってくる村人たちを打ち据える。ただの硬いだけの棒だけど、今のわたしの膂力であればこれだけでも十分な武器だ。


「何で、何で生きてるんだよぉ……! おまえ、神子様に魔石を貫かれただろうが……この化け物め!」


 倒れた村人が痛みをこらえながら、震えた声で叫ぶ。この村人はわたしが刺された場面を見ていた一人か。

 ……化け物ねぇ。わたしが生き残ったのはモンスターだからではなく神様たちの尽力によるものだけど……そんな事情を知らない村人たちからすれば理解不能なんだろうな。わたしも倒したはずのモンスターが生きてたらそんなことを言っていたかもしれない。

 わめく村人に、わたしは何を言っても無駄だと諦めた。が。

 ガッ! と、リーゼがその村人の顔のすぐ横に槍を突き刺す。


「ひ、ひいっ!?」

「それ以上リオンさんを侮辱するなら……何をするかわからないよ?」


 リーゼの殺気にあてられ、村人は顔面蒼白で口をパクパクとさせて、黙り込んだ。完全に気力を打ち砕かれている。

 ……やはりリーゼも怒らせると怖いな。何て思ったのは隠しておき、リーゼにお礼を言う。


「代わりに怒ってくれてありがとう」

「どういたしまして? ……あたしもレグルス兄も、今回の件は結構腹に据えかねているからね」


 皆がわたしのことで怒ってくれるのはありがたいし、嬉しい。

 でも皆が怒っているからこそ、わたしは逆に冷静さを保つようにしないとな。そうでないと神子ルーエと村人たちと同じになってしまう。何も考えずにひたすら怒りをぶつける、それこそモンスターと同じになってしまう。

 わたしはそう気を引き締め直した。



 村人たちは数が多いだけで大したことはなく、あっさり全員倒していった。

 言うまでもなく殺してはいないし、擦り傷以上の怪我を負った人にはポーションだって使った。最初は毒を使われたのかと怯えを見せたが、本当に傷が治って目を丸くしている人も多い。しかし復活されてまた暴れられても困るので縛っていくことにした。


「こいつら、思ったより弱くね?」

「……そうだね」


 縛りながらリーゼと雑談をするレグルス。眼前で弱いと言われた人が怒りを浮かべたが、あっさり負けたのは事実だし縛られているしで噛みついてくるようなことはなかった。

 確かに村人たちは、島ごと常時危機に晒され、戦いを続けているにしては弱く感じた気はする。けれどもわたしは破壊神の力を得たし、レグルスとリーゼも武闘派神様である火神と訓練をしてメキメキと力を付けているので、さすがに比べたら可哀相だ。

 全員を縛り終えたわたしたちは、ウル&フリッカ対神子ルーエの戦いを遠巻きに観戦することにした。この後のことを考えると任せて先に行く方が正しいのかもしれないけれど、わたしたちはウルと違ってトラップを喰らっても無傷とはいかないだろうからね……ウル頼りなのが何とも締まらないものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >「こいつら、思ったより弱くね?」 >「……そうだね」  瘴気まみれな島で生存圏をなんとか維持していられる位だから、食い物の質がお察しで満足に食えてないんだろうねぇ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ