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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第七章:廃地の穢された闇黒

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神の子?

 呆気に取られるわたしに、セレネは続けてぶつけてくる。


「え? だって、神様の作った体って……今の六神もそう(・・・・・)でしょう……? アタシに継承された知識が間違っている?」

「……そりゃまぁ、神様たちは創造神様を補助するために生み出された存在ではある、けど……ん? 継承?」

発生した(うまれた)時にすでにいくらか知識が刷り込まれているのよ」


 セレネは特殊な生まれだし、そのようなこともあるのか。親も居ないところに一人で放り出されてしまっては知識がないと生きてはいけないだろうしね。

 知識は合っているけど神様は神様であって、神造とは言えあくまで人間であるわたしとは全然違うでしょう? と答えたら、何やら呆れを滲ませて。


「……『神造』で普通とは全然違うと気付くべきじゃない? まず創造神様が作ったヒトが世にどれだけ居ると思っているの……?」

「それは知らないけど……ウルも創造神様お手製の体みたいだし……少ないだけで居ることには居るのでは……?」


 割り振られた力の性質が違うだけで、ウルとは肉体的にはそう変わらない、はずだ。すぐ側に同類が居るのだから、探せば他にも居るのではないだろうか。

 そう言えばウルの体のことも伝えていなかったことを今思い出し、その事実にもセレネは「もう一人!?」とギョッとしていた。そして困ったような顔のままフリッカを見る。


「アンタは普通のエルフ……よね?」

「はい、そうです」

「何でこんな異常な環境で平然としていられるの……?」

「慣れました」

「…………そ、そう」


 フリッカも最初のうちは神様相手にめちゃくちゃ緊張していたけれど、今では普通に対応しているからね。いやぁ慣れってすごいよね。マヒとも言うかもしれないけれども気にしてはいけない。

 セレネは疲れたように眉根を揉みほぐしながら溜息と共に言う。


「いえ、もっと早く、神様相手に姉さんとか兄さんとか呼んでいたり、呼び捨てにしている時点で気付くべきだったんだわ……」

「いやいやいや、アイティの件はちゃんと理由があるし、兄姉呼びは押し切られただけなんだ……!」

「……アンタは、本当に、ただの神子が、そう呼ばれることを許可されると思うの……?」


 セレネの目が据わっている。ど、どうしよう。何を言っても信じてもらえない。

 つい最近にも火神様に『俺たち神とは条件が違う』と言われたばかりだし、わたしが神様と違うのは確かなんだよぅ……!

 頭を悩ませるわたしに、見かねたのか横からフリッカが口を挟んでくる。


「セレネさん。リオン様が神様と言うのはひとまず置いておきましょう」


 「置いておかずにそこは否定して?」と突っ込んだけど、フリッカは笑みを見せるだけで取り合ってくれない。え、マジでわたしは何だと思われてるの……?

 口をヘの字にするわたしにフリッカは更に笑みを深くする。


「今のリオン様を見てください。神様のような態度に見えますか?」

「……全く見えないわね」

「ご覧の通り、リオン様は神様と見做されて困っていますし、事実そのなかみはただの人間ヒューマンと大して変わりはありません。貴女もここで暮らしたいと思うのであれば、リオン様の精神性は汲んでいただきたいです」

「……」


 そうそう中身! 中身が違うんだよ!

 ……と意気込もうとして、風神と火神の普段の言動が脳裏を過って藪蛇になりそうだとやめておいた。あのヒトらと比べたら大多数が神様になってしまいそうだ……。

 わたしのアホな葛藤を他所に、淡々と諭されて、俯きがちに考え込むセレネ。やがて、おずおずとわたしに向けて尋ねてくる。


「……アンタは……その、本当に神様じゃない?」

「違うよ」

「……神様じゃないのに、神様に逆らおうとしてくれたの?」

「必要とあらば」

「……そう」


 わたしの回答に何を思ったのか、またも俯き黙り込んでしまった。その表情は前髪に隠れて窺うことが出来ない。

 静かになった部屋に、ウルの呟きがやけに大きく聞こえてくる。


「リオンは鋼メンタルと豆腐メンタルの差が激しいのぅ。我にはそこまで悩む理由がわからぬ」

「ある意味とても人間らしいのではありませんか? それに、決める時は決めてくださるので、頼もしいですよね」

「まぁ、そうだの」


 ぐぬ、豆腐メンタルは否定出来ない……落ち着きがなくてごめんなさいね! そしてそうもあっさり褒められると照れる!

 緩み始めた空気にセレネも顔を上げた。眉根は下がっているけれど、口元に浮かぶ苦笑からは困っている雰囲気でもなさそうで。


「アンタの正体がどうあれ、アタシは普通にすればいいってことね?」

「そうだね。その方が助かるよ」


 神子扱いは慣れたけど、異様に持ち上げられるのには未だに慣れない。特にリオーネ村のわたしの扱いなんて、むずがゆいにもほどがあるのよね……。

 セレネも「わかったわ」と納得を見せてくれて、その話はそこで終了となった。



 ……この話はともかく、ちょっと気になった部分があるので、わたしはフリッカを連れ出して空き部屋へと移動する。


「リオン様、お話とは?」

「その……フリッカはやけにセレネに好意的だね……?」

「……リオン様がそれを言いますか?」

「そうかもだけど……そうじゃなくて……ほら、あの子はわたしの『嫁になる』なんて言ってるのだし……」


 いや、ここは躊躇っていても話が進まない。ズバッと言うべきなのだ。

 それがどんなにみっともない内容であっても。


「フリッカは、ヤキモチとかそう言うのは、大丈夫なのかな、と」


 ……ズバッと言えてないのはさておき。

 怒られたいわけじゃないけど、あまりにアッサリしすぎているのがどうにも気になってしまって。自分でも矛盾しているとは思っている。

 でも、もしも逆の立場になったとして。

 誰かがフリッカに言い寄ったりしたら、わたしは心穏やかでいられないだろうな、って。

 本当に自分でも呆れてしまう。普段ウルにべったりすることもあるくせに、フリッカにその可能性を考えるとイヤになるなんて。


 情けなくも口をもごもごとしていたら……口を塞がれた。キスで。

 そのまま抱き締められたので、抱き締め返す。

 しばらくして唇は離されたけど、体は離さないまま耳元で囁いてくる。


「私の見解を話しておきますね」

「うん」

「私のセレネさんの印象は……途方に暮れた子どもです」


 その印象はとてもわかる。わたしも彼女の孤独が放っておけなかった。きっと破壊神の頼みがなくても、出会っていたら連れ出したことだろう。


「雨の日にずぶ濡れになった時に、雨宿り先を見つけたような。空腹で倒れそうな時に、木の実を見つけたような」

「……うん」

「その有り様が……アルネス村で、私の後を付いて回るしかなかったフィンと重なりました」


 ……なるほど。フリッカはすでに実例を見ているから、わたしと同様に、いやそれ以上に放っておけなかったのか。


「彼女の行動は私から見れば可愛らしいものなのです。私の対応でリオン様を不快にさせてしまったのなら申し訳ありません」

「不快ってわけじゃないよ。でもちゃんとフリッカの考えが知れてよかった」


 つまりフリッカは妹みたいに思ったのだろう。わたしもそのようなものだと思えば、確かにそこまで気にする必要はない。セレネには悪いけど。

 などと自分の中で結論を出した直後に。


「……後、もう一つ」

「うん?」

「……私も戸惑うリオン様を押して倒した身なので、セレネさんにどうこう言えない身では、と」

「ぶふっ!?」


 そこは言っていいからね!? きっかけはそうだけど、ちゃんとわたしの意志できみの手を取ったのだからね!?

 しんみりした空気が台無しだよ!

書き忘れてましたけど、セレネはヒロインその3です。昇格するかは……現時点では不明と言っておきます。

リオンにハーレム願望はなくても……押されると弱いので……(そっと目逸らし

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― 新着の感想 ―
[一言] >セレネも「わかったわ」と納得を見せてくれて、その話は一件落着となった  落着じゃなくて、保留なのでは?  ボブは訝しんだ。
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