魔法の解禁
「かくかくしかじかで、雷の力の利用について再度考えようかと思ったわけです」
さて、今日は魔法についてのお勉強である。前回に雷の話がチラっと出て、そう言えばその問題もあったな、と思い出したのだ。
今回は魔法と言うこともあってフリッカをお供に、題材のこともあって講師?に風神を招いて屋外訓練場に集まっている。何だかよくわからないけど風神は楽しそうだ。
「なるほどなるほどー。フフフ、最近は光神と火神ばかりが相手をしていたけど、もっと僕を頼ってくれてもいいんだよ!」
「……うっかり殴っても平気です?」
「それは困るなぁ!」
無駄にテンションの高い風神にそこはかとなくイラっときて真顔でそんなことを言ってみたら、ケラケラと笑って返された。本当に困っているのだろうか?と思いつつもさすがにワザと殴るようなことはしない。
ちなみに、うっかり殴っているのは火神だけでアイティを殴ったことはない。そろそろ体調も治ってきているはずなのに未だに喰らう火神がうっかりなのか、アイティがしっかりなのか。まぁ風神相手に訓練をしたところで、風の神様らしくすばしっこいのでまともに捉えられる気はしないのだけども。
「おさらいですけど、メル兄さんはどうやって雷の力を使っているんです?」
まずは雷を使えないとどうしようもない。しかしわたしは触媒がないと魔法を使えないのだ。雷の触媒なんてレアすぎて、それを念頭に入れて考えないといけないのはあまりに効率が悪い。
なお、初めてこの質問をした時は「なんとなく?」と返された。これじゃわかるわけねぇですわよ。
「力を使って、空気中にちらばっている雷素をかき集める感じだねぇ」
風神は雷素と言っているけど、摩擦で電子移動が起こり、帯電したモノのことだろう。静電気を強くしたモノとでも言えばいいだろうか。
言いながらピッと人差し指を立てる風神。数秒後にパチッと小さな音が鳴った。明るいのでわかりにくいけど、雷(と言うより静電気?)が発生した音だ。
「……そう言えば、雷は無条件に使えるわけじゃないって火神様が言ってましたけど?」
「ん? これくらいならねぇ。攻撃用途には全く使えるレベルじゃないでしょ?」
なるほど。
しかし弱かろうとも、神だけあってわたしみたいにわざわざ雷の触媒がなくても使うことが出来る。……いやフリッカも他の属性なら触媒なしに使えるし、どの属性でも触媒が必要なわたしが例外なんだけどさ……。
「うーん、僕としてはまずそこに引っ掛かるんだけど?」
「そこ、って……どこです?」
「リオンが触媒なしに魔法を使用出来ないところ? 地神には『創造に特化しすぎている』って言われたんだっけ?」
「そうですね……わたし自身、正直今でもよくわかっていません」
でもたまーにだけど、無意識の内に雷が発生するんだよねぇ。あれは一体何が原因なんだろう。他の属性は全然なのだから、やはり破壊神の力が関係しているのだろうか。
わたしの言葉に、風神がこめかみに指をあててウンウンと唸り始めて……放り投げる。
「うん、僕が考えてもわからないね!」
「……アッハイ……」
思わず口の端が引き攣り、フリッカからも脱力したような気配が感じ取られた。
風神は感覚派だしね……ノリと勢いで生きているような神だからね……。
などと頭を過ったのだが、その嗅覚はバカにしてはならないのだと、次の言葉で思い知らされる。
「創造特化が理由だとしても……それは、今もなの?」
「……はい?」
「破壊神の力を得た、今もそうなの?」
「――それ、は……」
そうだ。わたしは破壊神の力を得た。
得たからこそ、その力を制御し、使いこなそうとした。
……今のわたしは創造神の神子であり、破壊神の神子だ。
創造特化な、わけがない。
未だにモノ作りのことを優先していたせいで、考えがまるで及ばなかった。わたしはどれだけ頭が固いんだ。
「ついでに言うと、僕は雷がそんなに得意じゃないけども、ノクスの力を持つリオンならまた別かもね?」
「……それは、雷が破壊側に属するから、ですか?」
「うんうん! せっかくだし今ここで試してごらん! 君の中にある神力を解放するんだ!」
さぁ! と大きく手を広げて促してくる。
わたしはごくりと緊張で唾を飲み込み、念のためフリッカに下がってもらってから、言われた通りに神力を意識してみる。
以前わたしはライトニングボルトの魔法は雷雲がないと使えないと説明したことがある。
しかし……風神が先ほど極小であっても雷を発生させている。それは空気中で摩擦が起こっている(起こしている)からだ。
つまり、雷雲がなくても――どこであっても雷の魔法は使える、と言うことでもあり。
わたしは空気をかき乱すように、神力を解放していった。
ザワリと風が吹く。うねる。圧が増す。
もっと、もっとだ。集え。踊れ。荒れ狂え。
バチリ、と音が響く。
バチバチと、大きくなっていく。
そのせいで、風神が「あの……ちょっと……っ?」と慌てているのがわたしの耳に入らないままに、風を腕に纏わせて。
ゆっくりと腕を振り上げて……勢いよく、振り下ろす!
「ライトニングボルト!」
ドガンッ!!!
細いながらも、一条の雷光が、轟音と共に落ちた。
ぶわりと風が溢れ、弾けた土と石が飛んでこの身を叩き――「あっ」と今更ながらに気付く。
「フリッカ!?」
慌てて後ろを振り向いてみれば。
そこには、手を前方に翳した風神がフリッカの前に立っていた。どうやら咄嗟に風のバリアを張って守ってくれたようだ。
「ふぃー。危ない危ない……!」
「あ、ありがとうございます。風神様」
「いやいや、僕がリオンを煽ったせいだしね! でもリオンもヒドいな! 僕の心配なんて全くしてなかったでしょ!」
怒っているようでいて軽い口ぶりからして二人とも無傷らしい。わたしは謝罪をしながら大きく安堵の溜息を吐いた。
あと風神の心配をしなかったのは……その、ゴメンナサイ。でもこの程度なら平気ですよね……? いやその反省はしているんで勘弁してください……。
なお、この音を聞きつけた地神からも後ほど小言をもらうことになる。曰く「いきなりデカいところから始めるんじゃない!」とのことで。ごもっともですぅ……。
「それにしても……出来るとは思ったけど、いきなりここまで出来るなんて思ってなかったよ。ひょっとしたらリオンは特に雷と相性がいいのかもしれないね!」
「それは……あるかもしれませんね」
「ってことは、間接的に僕とも相性が――」
「それはないですね」
「即答かぁー!」
ペチンと額を打つ風神。いやマジでこの神のノリはちょっとついていけないな……!
わたしの雷の力。切っ掛けはアルタイルの雷に打たれたからだけど……根本的には破壊神の加護のおかげだろう。いつからなのかはわからないけど、わたしがこの体になる前から加護を得ていたのだし。
……うん? ってことは、自覚がなかっただけでわたしの破壊神の神子歴はもっと長いってことか? だから何だと言う話ではあるけど。
「ま、これで魔法が使えることがわかったね!」
「はい。……メル兄さんの言葉のおかげです。ありがとうございました」
「苦しゅうない! もっと頼ってくれたまえ!」
……間違いなく風神のおかげではあるのだけど……やっぱこの性格がなぁ……。
ともあれ、この雷魔法を使いこなせるようになれば――と意気込むわたしにフリッカが。
「……リオン様。ふと思ったのですけれども」
「ん? 何かな?」
「雷と言う形態でなければ、モノ作りに利用出来ないのでしょうか?」
「――えっ」
……元の世界において電気を使用しているのは……様々な物が電気で動くからでありまして。
けれども……この世界では、様々な物が魔力(魔石)で動くわけでありまして。火属性の着火石とかはあっても、雷じゃなきゃ動かない物は今のところないわけでありまして。
つまり……自然の雷を利用するならともかく、わざわざ魔力を雷に変換する必要は……一切ないわけでありまして。
「…………わたし、バカでは……?」
「ブハッ」
愕然とするわたしの耳に、風神の大笑いが聞こえてくるのであった。




