力の使い道
「あー……」
バキリと聖剣の柄が砕ける音に、わたしは何度目かの溜息を吐いた。
破壊神の力を使いこなす。
それを目標に訓練を始めたわけだけど……如何ともしがたい状況が続いていることを死屍累々と転がる木剣の残骸がそれを物語っている。いや後でまとめて修復するけど。
創造神の力はそれこそ(スキルレベル不足は除いて)この世界に来たその日から自在に使えていたのにこの落差。普通は作るよりも壊す方が楽なんじゃないですかねぇ……? それとも楽だからこそすぐ壊してしまう……?
「我も武器の類はすぐに壊してしまうしのう……。だからこの体そのものを使うか、使い捨てが前提の運用しかしておらぬのはリオンも知るところであろう」
「ウルは格闘タイプだからそれでもいいんだろうけどねぇ……」
最近は剣を使うことが多いけど、わたしの一番の得意武器って弓なんだよね。しかし矢を放つどころか弦を引いている時に弦が切れてしまう。
そもそもわたしが使用している弓に腕力はほとんど必要ないので破壊神の力は必要なのか、と言う疑問を抱いたこともあり剣で練習をしているわけなのだが……耐久性の問題もあるかと思って木剣から聖剣に変えてみてもこの様だった。
「そもそもの話を始めると、創造神の神子が破壊神の力を使おうとしていること自体が前代未聞であるのだが……」
「神たちの力とて破壊の一面を持っているから、使用出来ないことはないと思うのだがなぁ」
光神と火神もアドバイスに困っている。おかしな創造神の神子でごめんなさいねぇ。
火神の言う通り、創造と破壊は切っても切れない表裏一体の関係にある。
ゼロからイチを作り出せるわけではないモノ作りと言う創造には、必ず素材取得と言う破壊が付いて回るのだから。
だったら創造神の神子であろうと普段から破壊の力を使っているも同然なのでは?と思ったけど……そこに『神の力』が宿っているかどうかの違いはあるらしい。作成スキルは創造神の力が必要であり、創造神の神子しか行使できない理由もこれだ。
逆に考えると、明確にスキルを使用してもいないのに破壊神の力が行使されているのはわたしが未熟なだけだろうか。いやウルも同条件だからそう言うものなのだろう。
「制御の訓練ならともかく行使の訓練であるなら、武器を介した形態は諦めるべきかもしれないな」
「と言うと?」
「ウルのように体術で戦うか……もしくは分離スキルのように武器とは関係がないところで使うか」
「……なるほど」
アイティの言に腕を組んで考え込む。武器に破壊神の力を乗せて攻撃力アップ!とか出来ると便利だったけど、一旦諦めて別で運用するしかないか。相性が悪すぎた。
始めはそうとわからずに使っていたけど、分離スキルは『創造の力を壊すことで元の素材に戻す』と言う効果があるので破壊神のスキルに相当する。
この前、神子ルーエにもスキルを使ったけど、武器を打ち合わせたら相手の武器が壊れる!とか特殊効果が乗せられると面白そうと一瞬思った。でもまず最初に自分の持つ武器が壊されそうだ。
……付け加えると、分離スキルに関しては『創造の力』を壊すので、対峙する相手が所持しているのは創造の力を使われた品物――神子が作った品物である、と言う前提が必要になってくる。効果が限定されすぎなので、別の方法を考えないと。現在が例外なのであってわたしの敵はモンスターだ。
そう言えばつい先日、わたしの血から『他の属性を壊す』ことが出来ないだろうか、なんて考えていたっけ。
実験してみたいけど……ここでサックリと腕を斬ると絶対ウルに怒られるので、複数属性が混じっている木材をアイテムボックスから取り出す。これは地と風の二重属性だ。
『一体何を始める気だ?』と首を傾げる皆を視界の端に置きながら、属性、壊れろ、と頭に思い浮かべ――
「「――っ!?」」
「うえっ?」
唐突に、アイティと火神が身構えた。
動いたこともだけれど、発せられた気配にビックリして集中力を途切れさせてしまう。
間抜けな声を出すわたしに気勢が削がれたのか、二柱で顔を見合わせてから構えを解く。
頭をボリボリと掻きながら難しい顔つきで火神が尋ねてくる。
「リオンよ。お前は今、何をしようとしたのだ?」
「何って……属性が壊せないかなぁと思って……」
「属性を壊す……何のために?」
「え? 火神様が属性を抜くことも意識しろって言ったんじゃないですか。用途にも依るけど純粋な属性に――特化させた方がいいって」
先日の血の件のことも踏まえて説明をすると、妙な空気を醸し出してからゆるゆると納得の色を見せてくれた。
……何かマズかった……?と戸惑っていると、ウルがボソりと呟く。
「此奴らは属性の塊のようなものなのだから、本能的に危機感でも抱いたのではないか?」
「……はい?」
耳を疑うような内容ではあったが、図星だったのか二柱は少しばかりバツが悪そうな顔になった。
わたしがこの二柱を攻撃する? そんなことあるはずないのだけれど、ウルから更にツッコミが入る。
「……神様すらぶちのめすと言ったのであろう?」
「……言ったね」
ここでそのセリフを掘り出してくるか……!
いや確かに言ったけどね、それは『必要とあらば』であるし、たとえ必要になったとしてもブン殴るくらいで本格的に敵対しようとまでは思ったことないよ! 特にアイティなんて命の恩神で頭の上がらない相手であるし、火神にもこうしてお世話になっているし。もちろん他の地神、水神、風神だってそうだ。困ることも多いけど、それ以上に助けられているのだから。
だから……警戒心を持たれてしまったのが、少しだけ、寂しい。
「お二柱に、ハッキリと言っておきます」
わたしの普段の行いが悪いんだろうけど、敵対――壊す意志は全くないことを、知ってほしい。
「ここのところ戦闘訓練が多かったですが……破壊神の神子にもなった今でも、わたしの仕事は戦うことよりも作ることだと思っています」
力は必要だ。力がなければ皆どころか自分も守れない。
それだけでなく、力がなければモンスターから素材を得ることも出来ない、と思っている自分も居る。
「戦闘が楽になるに越したことはないですけど……それよりもわたしは、この破壊神の力を、便利に使いたいのです。モノ作りのために」
破壊のための破壊ではなく、創造のための破壊を。
神子ルーエとの戦闘中に使ったり、武器破壊出来れば面白そうなんて思ったばかりのわたしが、破壊の意志に呑まれかけることがあるわたしが言っても説得力はないかもしれないけれど。
ぶっちゃけ、戦闘なんて面倒なのだ。状況が許してくれないだけで、可能であれば一切戦わずにモノ作りだけしていたいとすら思う。
そんなある意味、自堕落な願望を吐露され。
アイティは……怒るどころか、頭を下げてきた。
「……貴女に問題はない。誤解をさせてしまってすまない」
「え、ちょ、頭を下げるほどのことでもないよ!?」
「いや、私は長いことリオンと冥界で行動を共にしていた。リオンが何を第一に考えているかは知っていたはずなのに……」
「……まぁ、そうだな。風神に雷すらモノ作りに利用する気のモノ作り馬鹿だと俺も聞かされていたな」
「え? 雷なんてエネルギーの塊ですよね?」
攻撃だけに使うなんてもったいない、と言ったら笑われてしまった。解せぬ。
解せないけど……空気も緩んだことだし、わたしの意志はわかってくれたようだ。良かった。
しかし最後に、罠(?)が待っている。
「まぁ、なんだ。お前の能力や思想に不満も不信もないのだが……うっかりだけは怖いのでな。そこは気を付けてくれ」
「ごふっ。…………それは、まことに、もうしわけが、ございません……!」
その火神の指摘には土下座したくなる思いだった。
……訓練でうっかり?火神を殴ったことあるけど、その時にうっかり属性破壊の力が働いたら問題があるってことよね……。
いやマジでやらかさないよう気を付けよう……。




