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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第七章:廃地の穢された闇黒

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膨れる悪意

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「も……申し訳ありません、闇神様。もう一度、仰っていただけますでしょうか……?」

「……だから……世界樹が……死んだ……と」

「――っ」


 闇神はこの島、少なくとも世界樹の周辺を探る能力を持ち合わせているようだ。この場に居ながらして世界樹の状態を探れたのもその能力が所以。

 現状を伝えられた神子ルーエが顔色を蒼白にし声を失うのに対し、闇神はあくまでも落ち着きを払い、しかし少々の苦渋を籠めて述べる。

 世界樹の喪失。

 それは彼女らにとっても重大な出来事ではあった。


「……すまないね。僕が瘴気を抑えておくと言ったのに……このようなことになって……」

「い、いえっ、闇神様のせいではございません! 偏に、あのモンスターに対抗出来なかった私たちの弱さが招いたことです……っ」


 ルーエとて世界樹の存在は認識していた。ただ、あまりに大きく神聖で。畏れにより、滅多に近付くことをしなかった。アイテムとして使用するなどもっての外だ。これがリオンだったら『高ランクの聖属性アイテムだ!』と喜々としたことだろう。大違いである。……どちらが神子として正しいのかは不明としておく。


 その信仰が仇となった。知らぬ間に瘴気に侵されてしまっていたのだ。

 とは言えこれに関してはそこまでは責められない、かもしれない。従来は世界樹自身が持つ聖気により邪悪なるモノは祓われていた。瘴気溢れる島ではあっても、そこだけは絶対に侵されないと言う安心感があった。それほどまでに力が強かったのだ。世界樹が瘴気に侵されたと知った時には、まず第一に『何故……?』と疑問が沸き上がったほどだ。

 単純に、世界樹以上の力で侵されてしまえばどうしようもないのは自明の理なのだが……そのような強大な力を持つ存在はそれこそ神以外にはなく、ルーエが思い至らないのも無理はないかもしれない。

 ……だからこそ、曲がりなりにも神である破壊神の手によるものと思い込んだのだが。


 いくら創造神への敬意は失っていようとも、世界樹がどのくらい重要なモノかは理解していた。放置しておけば島で生きることはいよいよ難しいこともあって、対処に望もうとした。

 しかし……瘴気を払おうにも同様に知らぬ間に出現していた、世界樹を喰らい、世界樹えものに近付く者を襲うモンスター、ディジーズグリズリーを倒すどころか手酷く敗走してしまい、以降は手をこまねいて見ているしかなかった。

 見かねた闇神が『世界樹は巨大ゆえにまだ猶予はある。ひとまず僕が瘴気だけでも抑えて時間を稼ぐ』と提案し、ルーエも今の今まで戦力の立て直しに充てていたのだが……ただでさえ少ない人が減ってしまったことはあまりに痛く、遅々として進まず。結局、間に合わずに終わってしまったことを深く悔やむ。


「……あのモンスターはどうなったのでしょうか……?」


 世界樹を喰らっていたディジーズグリズリー。世界樹が死んでしまったことで標的を変え、自分たちのところまでやってくるのではないだろうか。

 何人もの仲間たちが咆哮で怯え狂い、鋭利な爪に無残にも引き裂かれた恐怖を思い出し震える。暴威を取り除くために準備はしてきたものの、いざ攻めてこられるとなると覚悟は定まっていなかった。


「……反応は消えている」

「……っ。何処に向かったのでしょうか?」


 村に来られるのも困るが、何処とも知れない場所に潜んでいるのもそれはそれで困る。居場所の把握は必須だ。

 しかしその懸念はある意味で払拭され……ある意味で、大きくなる。


「移動ではなく……消失だ。つまり……モンスターも死んでいる」

「……は?」

「破壊神のものらしき気配も残っていたが……関係しているのかもしれないな」

「な……っ!?」


 破壊神の気配。ルーエは即座にリオンとセレネのことが頭を過った。

 自分たちが手を焼いているモンスターをどのように……と考えて、ふと思い至る。セレネはモンスターを操ることが出来るし、リオンも剣を砕く(正確には違うのだけれども、砕かれたとルーエは認識している)ような力の持ち主だ。破壊神の神子がモンスターを倒す理由まではわからないが、二人が力を合わせれば可能なのでは――いやそもそもアレ自体があいつらの差し金で何某かの企みの結果なのかもしれない。

 手に負えない凶悪なモンスターが倒されたのは喜ばしい話だ。けれども、それが破壊神の手の者によるとなると、次なる一手のための準備としか思えない。


「……もしかして、世界樹が死んでしまったのも……?」

「……さて。僕にはわからないが……否定は出来ないね……」


 となれば、世界樹が死んでしまった原因にも関わっている――世界樹を破壊した原因そのものと連想してしまうのも、あり得る話で。リオンからすればとんでもない冤罪に憤慨するところだが、この場に居ない彼女に弁明の機会はない。……居たところで、何を言っても通じず、犯人扱いされることに変わりはないのであるが。


 『まだ自分たちを苦しめようと言うのか』


 ルーエの怒りが、腹の底から沸々と溢れ出す。

 歯が砕けそうなほどに、強く噛み締める。

 瞳に、暗い光が、灯る。


 ……ルーエは気付かない。

 憎しみに溺れるルーエを……闇神が冷ややかな目で見ていることを。

 口元では苦い笑みを浮かべながら、目の色が、全く異なることを。


 闇神は、ほんの一瞬だけ口の端を大きく歪めてから、フラットに戻す。


「……神子ルーエよ」

「……はっ、はい!」


 わずかなれど、神の前で我を忘れかけたルーエは自分を恥じ入り、ぎこちない仕草で闇神に向き直る。闇神は親切心か別の物か、突っ込むようなことはしなかった。


「そのモンスターを倒した者どもの反応が見つからないが……死んだとは思えない。何らかの方法で……僕の感覚を欺いているかもしれない。……だとすれば……いずれはこちらまで来る可能性もある」


 反応がないのはリオンが帰還石で拠点に戻っているからなのだが、闇神はリオンのその能力アイテムを知らない。だが、リオンがいずれ闇神の居るこの地を訪れるであろうことには変わらない。


「奴ら、世界樹のみならず闇神様までも害そうと……!? おのれ……!」

「……僕はこの場から動けない。……対応を……お願いしていいかな……?」

「はい! 必ずや闇神様をお守りいたします! お任せください!」


 そうして挨拶もそこそこに、ルーエは鼻息荒く迎撃態勢を整えるように動き始める。

 ディジーズグリズリーに敵わなかったのに、ディジーズグリズリーを下した者たちを相手に一歩も引いた気配がない姿は、良く言えば忠義に溢れ、悪く言えばただの無謀者である。闇神が薄く笑みを浮かべたのは果たしてどちらの理由か。



 ルーエが去り、一人になった闇神は宙に視線を彷徨わせながら独りごちる。


「……ディジーズグリズリーの反応はないが、パラサイトマッシュは依然として健在だ。つまり、ディジーズグリズリーの討伐には成功したものの、増殖に増殖を重ねたパラサイトマッシュの排除までには至らず……偶然同時期に世界樹が死んだ、と言うことか? ありえない話ではないが……」


 目を閉じる。無音のまましばしの時が過ぎ、ぴくりと片眉を上げた。


「幹の周囲に聖域化した痕跡があるな。この中ではさすがに地上部のパラサイトマッシュは全滅か。……しかしやはり世界樹の反応はない。ふむ」


 もうしばし黙考した後に、まぁいいか(・・・・・)、と闇神は吐息を零すように呟く。


「全く、あの新人神子も困ったものだね(・・・・・・・)。周辺の瘴気の浄化もだけど、ディジーズグリズリーまで倒せるとは思わなかった。弱い弱いと思っていたのに、結構やるじゃないか。それでも世界樹が死んだのなら収支はこちらにプラス――いや待て、そこまでいくとあの方に(・・・・)泣かれてしまいそう(・・・・・・・・・)だ。どうしたものかなぁ」


 終始纏っていた気だるげな空気は、すでにそこにない。

 ただあるのは、暗く、深い、凍えるような澱んだ闇と。

 歪みに歪んだ――。

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― 新着の感想 ―
[一言] >アイテムとして使用するなどもっての外だ。これがリオンだったら『高ランクの聖属性アイテムだ!』と喜々としたことだろう。大違いである。……どちらが神子として正しいのかは不明としておく。  屋…
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