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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第七章:廃地の穢された闇黒

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寄生モンスター

 寄生キノコことパラサイトマッシュ。

 こいつ自身に攻撃力も防御力もないが、モンスターなどに寄生して補助的な働きを行う。


「あのモンスターの体に糸が纏わりついているの見える? あれは蜘蛛の糸ではなくて菌糸なんだよ」

「ふむ……? 通常のモンスターとどこが違うのだ?」

「まず単純に力が強くなる」


 しかしそれにも代償があって、強くなる代わりにLPライフポイントの上限が削られている。限界を超えた力を使わされて体がボロボロになってるとか、そんなところだろう。この点は瘴気と似たような効果だ。とは言え、ディジーズグリズリー自体が体力がめちゃくちゃ多いので、倒しやすいかと問われてもあまり期待は出来ない。


「次に、気を付けないとわたしたちも寄生される」

「うぇっ……」


 レグルスから嫌そうな声が上がった。想像してしまったのだろう。もちろんわたしだって嫌だ。

 ゲームにおいては継続ダメージプラス体の動きが鈍くなると言うデバフだったけど……現実アステリアではきっとそれだけでは済まないだろう。わたしでもこれは検証したくない。


「どうやって気を付ければいいのかな……?」

「きみたちは万能耐性薬を使用しているし、あの糸や胞子を大量摂取しなければ大丈夫……ではあるけれども、長期戦となると蓄積するからね」


 わたしの答えにリーゼは槍の柄を握りしめる手にギュっと力を籠めた。

 ちなみに、どれだけ耐性があってもキノコを食べることで確定デバフだけど、いくら食いしん坊ウルさんであってもこの心配はしなくていいだろう。あ、いや、ウルであれば鉄壁胃袋でデバフもものともしない可能性が……とある意味失礼な感想が浮かび上がったが脳内から追い出す。

 そしてもう一つ、大きな困ったことがある。それにフリッカも気付いたようだ。


「あの、リオン様……。ひょっとして、この世界樹に生えている物は……」


 そう、わたしたちの目の前の幹、足元に広がる木の根。その至る所から寄生キノコが生えていたのだ。キノコが見分けにくいからって、実は関係ないただのキノコと考えるのはあまりに楽観的だろう。

 つまり……世界樹がしいたけの原木よろしく、寄生キノコの苗床となってしまっていると言うことを示している。

 ここまで広範囲だと世界樹から寄生キノコだけを駆除することは困難、と言うか不可能だ。一見して表面は無事でも内側が汚染されていることもあるだろう。

 寄生キノコの厄介な性質として、核である魔石を持たないと言うものがある。寄生先のモンスターの魔石で動いているから、らしい。だから魔石をぶっ壊して一網打尽と言う手を打つことも出来ない。

 唯一可能なのが燃やすことだけれども、そんなことをしてしまえばさすがの世界樹だって灰になってしまう。一体どうしたものか……。


「リオン、考えるのは後回しだ」


 ウルの固い声から警戒度が増したことが感じ取れた。

 ディジーズグリズリーを注視していたその瞳が今はキョロキョロと忙しなく動いている。

 ……わたしは、目の前の強大なディジーズグリズリーばかりに気を取られていた。

 瘴気に加えて寄生キノコの気配?のような物がこの辺り一帯に薄く広がっており、感知力が鈍くなっていたと言うのもあるだろう。

 気付いた時には。


 ――グルルルルル

 ――ブルルッ

 ――ギギギギィ


 大量のモンスターが、集まっていた。


「う、っそだろ……?」

「さっきの咆哮で逃げたんじゃなかったの……?」


 レグルスが呻き、リーゼが疑問を呟く。

 確かに、普通?のモンスターであれば、逃げているだろう。

 しかしこの場に集っているモンスターは……全て、キノコに(・・・・)寄生されていた(・・・・・・・)

 恐らくだけれど、先ほどの咆哮はキノコが他の寄生モンスターたちを集めるためにディジーズグリズリーに命令して行われたものなのだろう。

 幸いにしてディジーズグリズリーほどの強力なモンスターは他には居ない。けれども数が多いのはそれだけで力だ。

 ここまで多いと一度撤退も視野に入れたいところだが……世界樹の様子からしてあまり時間もかけたくない。この状態で生きているのが不思議なくらいなのだから。……実はもう手遅れで死んでるとかないよね……? まぁ確認するにも、寄生キノコ自体はどうしようもないとして他のモンスターたちを倒さなければならない。


「ウル、ディジーズグリズリーをお願い出来る? 目途が付いたら加勢するから」

「うむ。でも倒してしまってもよいのだろう?」


 瘴気モンスターゆえにウルの攻撃が通りにくくなっているのが難点だけれども、ウルであれば負けることはない。揺らぐことのない信頼を元に彼女に一番の強敵を任せる。ウルは恐怖も気負いもなく、むしろ軽口が返せるくらいの自然体で頷いてくれた。……軽口じゃなく本気かな。


「レグルスとリーゼはそれ以外のモンスターをお願い。お互い背中に気を付けて、倒すことよりも行動不能にすることを優先してほしい」

「おう!」

「了解だよ!」

「フリッカはここでわたしと一緒に固定砲台で」

「わかりました」


 いつものフォーメーションゆえに、皆自分たちの役割を心得ている。頼もしい。


「じゃあ皆、よろしく!」

「グオオオオオオアアアアアアアッ!!」


 わたしの掛け声と同じくして、ディジーズグリズリーの咆哮かけごえが放たれた。

 一斉にウルたちが前に走り、モンスターたちも突進してくる。

 三人がモンスターたちを吹き飛ばす音を聞きながら、わたしはまず足元を固めていく。


「ちょっとだけ待ってね」


 攻撃に集中して足元をすくわれるのもごめんだし、足元が気になって攻撃がおろそかになるのも困る。

 なのでわたしはまず足元に石ブロックを敷き詰めていった。野宿の時にも使用している特別製の石だ。世界樹の根をブチ折ることになるけど今となっては誤差の範疇だ。

 そこから更に局地的に聖水を撒いて聖域化する。場所が場所ゆえに長時間の維持は出来ないけれど都度撒き直せばよい。これでスライムだって近寄れない、はず。


「よし、これでオッケー。抜けてきたモンスターはわたしに任せて、出来るだけ複数のモンスターを巻き込む魔法を使用してほしい」

「ありがとうございます。力の限り、やらせていただきます」


 足を踏みしめて貫通系魔法の詠唱を始めるフリッカ。わたしもわたしで様々な攻撃アイテムを取り出す。

 確かにわたしはフリッカの護衛役でもあるけれど、それは単なる戦力低下を示さない。この位置でもやれることはたくさんある。

 最近は破壊神の力を得たことで訓練も兼ねて近接が多かったけれど、それでもわたしは創造神の神子であり、モノ作りが一番得意とするところなのだから。

 とは言え火気厳禁であることに変わりはないし、あまりに広範囲の攻撃は前衛の皆を巻き込んでしまうので無差別に使うことは控えなければならない。あ、一つだけ使える物もあったか。まずはこれを投げておこう。


「そいやっ!」


 わたしはレグルスとリーゼの頭上を超えた先のモンスターたちの真っ只中に聖水を投げつける。降り注ぐ聖水は瘴気モンスターには効果が大きい。

 虫系モンスターも多いので殺虫剤も投げようかと思ったけど……あの冥界での黒い奴らの運動会カオスを思い出して躊躇う。嫌な予感がするのでこれは止めておこう。


「リオン、すまねぇ! そっち行った!」

「リオンさん、空のもお願い……!」

「はいよー」


 レグルスはこの時ばかり対単体である拳ではなく槍を使用していたが、モンスターの数が多いのと拳に比べて習熟度の低い槍のせいか二匹のモンスターがこちらにやってきていた。むしろこれだけで済んでいるだけ優秀だ。

 そしてリーゼの槍さばきとて陸上のモンスターの相手をしながら空を飛ぶモンスターを相手取るのは難しい。頭上からも三匹のモンスターが飛んできている。

 わたしは慌てることなく頭上のモンスターをウインドボールで地面に落としてから、陸上のモンスターたちとまとめてフリージングフィールドで凍らせた。


「文字通り火力のある火属性が使えないのは面倒だなぁ」


 内心で溜息を吐いていると、ドンッ! と体の芯まで揺らす音が響くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「次に、気を付けないとわたしたちも寄生される」  このテの寄生植物って、悪影響の部分だけ消して同化能力だけを引き出せるなら、かなり良いバイオ包帯になってくれそうなんですよね。  焼けた…
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