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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第七章:廃地の穢された闇黒

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371/515

衝突

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 ある日の早朝。

 瘴気の立ち込めるこの島においては爽やかな空気など望めるはずもなく、陰鬱とした気配に包まれているのが常であった。

 しかしこの日は……それに付け加えて、戦意、不安、怯懦……様々なものが入り混じることとなる。


 島に似つかわしくない、館と言うには大きい、城と言うには小さい、古めかしい建造物。ところどころがひび割れ、蔦が這い、どこからともなくモンスターの呻き声も聞こえてくる。

 リオンがこの場に居れば「おや、古城型ダンジョンか」などと口にしたことだろう。まさしくこの古城はダンジョンであった。

 その最上階、小さなバルコニーに立つ少女は、ぼんやりと下――古城の入口を眺めていた。


(あぁ、ついに来たのね……)


 腰まで届く癖のないストレートの銀髪。白磁のような、いっそ青白いとも言える肌。

 まるで血色の紅眼でありながら憂いを帯びたソレは見る者の多くを魅了する魔性であり、華奢な体と相まって庇護欲をそそられる。

 ……でありながら、彼女に好意的な意識を持つ者はこの場には誰一人としていない。

 ここにあるのはただ強烈なまでの敵意。……一つまみくらいは劣情もあるかもしれないが、そんなものは嬉しくも何ともない。


 少女の視線の先、古城の入口には、三十名ほどの男女が集っていた。

 その先頭には……創造神の神子ルーエ。誰よりも、少女に対して敵意を……殺意を持つ者。

 ルーエが少女の視線に気付き、頭上を見上げた。視線が交錯し、ルーエが宣戦布告として、同行者の気勢を高めるために、大音声を上げる。


「覚悟しろ! 今日こそ貴様の首を狩りとってやる!」


 少女は軽く眩暈を覚え、頭を押さえながら返す。


「……アタシが瘴気を発生させているわけじゃないから、アタシの首に意味はないと何度も言っているのに……どうしてわかってくれないの?」

「黙れモンスター! 貴様の発言など信用出来るものか!」

「だからモンスターでもない、って言っているのに……」

「貴様のような奴をヒトであると認めるわけがないだろう!」


 ルーエに合わせ、周囲の人々も野次を飛ばしてくる。ここには少女の味方など居やしない。

 わかっていたことだけれども、自分の何もかもを否定してくる彼女らに、少女は何度目かの絶望を抱いた。

 そのまさに『ヒトらしい』苦しみに気付く者は居らず。


「突入!」

「「「おおおおおおおおっ!!」」」


 合図と共に、ルーエたちは古城へと突撃していく。

 この古城はダンジョンであるがゆえに、普通の建造物とは異なる点がある。

 ます、壁を登ってショートカットすることが出来ない。壁にロープやはしごを設置しようとしても弾かれてしまう。ルーエたちが正面から侵入するのは律儀さゆえではなく、それを強いられているからだ。

 ……リオンがこの場に居れば「壁に触れなければいいんでしょ?」などと別の手段を取っていたのだが。

 次に、外観に比べて内部が広い。道が魔力で歪められて迷路となっているのだ。しかもランダムで入れ替わり、マッピングが役に立たない。このこともあってルーエたちは今までこのダンジョンを攻略出来ずにいた。

 そして、ダンジョンであるがゆえに……道中でモンスターも出現する。


「……はぁ……」


 少女は盛大に溜息を吐きながらバルコニーから部屋に引っ込み、さらに扉から顔を出す。そこにはモンスターが二匹居た。

 モンスターたちは視界に入った少女に攻撃するでもなく――


「アンタたち、侵入者たちを追い返して。でも本当にヤバそうになったら適当に逃げていいから」

「「グアッ」」


 驚くべきことに、モンスターたちは少女の言葉を理解し、受け入れた。侵入者ルーエたちに向けて歩みを進めていく。

 これはこのモンスターたちに、ゼファーたちのような知恵があるから……ではない。


 少女の、血の支配によりモンスターを操る特殊能力。


 この特殊能力を筆頭にルーエからモンスター扱いされているのだが、少女からすれば「アンタたちが攻めてくるから身を守るためにやってんのよ!」と憤慨するしかない。一度たりとも少女からルーエたちに攻め込んだことはないのだ。

 何度も何度も敵対の意志はないと、瘴気は関係ないと説明しても聞き入れてもらえず、一方的に敵意を向けられ続け、仕方なくモンスターの手を借りて防衛し。いくら少女にその気はなくてもルーエが譲歩する気も一切ないので、事態が好転するはずもなかった。頑なすぎる意志に「どうしてアレが創造神の神子なのよ!」とどれだけ毒づいたことか。リオンが知れば「どっちが破壊神の神子なのさ……」と思ったことだろう。



 ルーエたちが突入して数時間。近付いて来たのか喧噪が聞こえてくるようになった。

 これまではダンジョンに仕掛けられた各トラップにより何とか撃退出来ていたのだが、今回は今までに比べて気合いの入れようが違うらしい。準備万端で途中で諦めることなく、必ずここまで辿り着くという気概がぶつけられた気がした。

 少女は恐怖でブルリと身を震わせ。


「こうなる前にとっとと逃げればよかったかな……」


 物憂げに一人ごちる。

 こんなところで大人しく待っておらず、ルーエたちがダンジョンを彷徨っている間に窓から飛び出してしまえばこの場は逃げおおせることだろう。

 しかし言ってすぐに首を横に振り、自嘲の笑みを浮かべる。


「……逃げたところで、居場所なんてないか……」


 そう、少女は何処にも行けなかった。

 大して広くもない島。その島の住人たちのリーダーである創造神の神子(ルーエ)に憎まれ。誰からも手を差し伸べられることはなく、それどころか剣を向けられる始末。

 しかし一人で船を作って脱出することも出来ず。島を囲う海流なしにしても造船技術がなく、また技術以前の問題もあって。

 この地が島でなければまだ可能性はあったかもしれない。しかし現実は厳しくのしかかり。

 少女は、この小さな古城(はこにわ)に引きこもるしかなかったのだ。

 モンスターを操る能力はあれど、モンスターが友になるわけでもなく。

 たった独りで、ずっと。


 少女は窓に手をかけ、空を見上げる。

 朝ゆえに弱々しいながらも陽が降り注いでいるが、少女の心が明るくなることはない。


「神様……破壊神様・・・・


 泣きそうな声で、呟く。

 子が、親に願うように。


「助けて、ください……」


 目尻に浮かび上がった涙が一滴、頬を流れた。

 その時。



 ガッシャアアアアアアアン!!



「いったああああああい! けど痛くない!!」



 けたたましい音――少女が触れていた窓とは異なる窓をぶち破る音と悲鳴が響き渡り、少女は「まさか別動隊が居たの!?」と涙を引っ込めて警戒心を一気に引き上げる。

 しかし少女が振り向いた先、その音を立てた人物は……前髪を一房黒く染めた金髪の少女――リオンで。

 リオンは飛び込んできた勢いのままゴロゴロと壁に激突し「ぐえっ!?」とカエルが潰れたような声を出す。命を狙いに来た刺客?の間抜けな光景に、少女も思わず呆気に取られた。

 一瞬、死んだかのように動きが止まるリオンに少女は恐る恐る近付こうとし、ピクリと動いたことで大きく後ろへと飛んで身構える。リオンはそんな様子には目もくれず(と言うか見えていない)一息で跳ね起きた。

 髪に絡んだガラス片を振り払い、直前までの醜態などなかったかの如く、誤魔化すべくあえて勢いづいて、リオンは少女へと真っ直ぐ手を伸ばし。



「初めましてお嬢さん! 創造神の神子にして破壊神の神子リオンです! 破壊神様の要請により、あなたを迎えに来ました!!」


「――っ!?」



 少女は、予想だにしなかったリオンの言葉に目を見開き、硬直するのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「初めましてお嬢さん! 創造神の神子にして破壊神の神子リオンです! 破壊神様の要請により、あなたを迎えに来ました!!」  なお、現在は神子の力をまともに制御できない、神子と読んでいいか微…
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