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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第七章:廃地の穢された闇黒

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頼みごと

 翌朝になり。案の定と言うか何と言うか、耐久値が全損してスプラッタならぬスクラップになった抱き枕に冷や汗をかきながら起床する。夢見が悪かったわけでもないのにこれはマズイ。なお、ウルは全然無事でした。単に抱き付いていないのか、鉄壁だったのか、回復したのかは不明だけども。さすがに抱きつぶされたらウルだって起きる……と思いたいけど、鉄壁だったらわからないよね。元より夜は弱いみたいであまり起きないし。

 あー……ウルが夜に弱いのって破壊神の神子だから、創造神の神子(わたし)の聖域で弱体化していた、ってことなのかもしれない。夜だと強くなりそうなのに、聖域においてはそうもいかず。わたしの場合は出自のせいで聖属性が強化されているからねぇ。しかし聖域を解除するわけにもいかず、今後もウルに我慢してもらうことになりそうだ。ごめんよ。

 それはそれとして、無意識下における行動をどうやって制御したものか……と考えていかなければだけど、ずっと気落ちしているわけにもいかない。フリッカが作ってくれる朝食なのだから、きちんと味わわなければ。


「……ん?」


 いつものオーソドックスな朝食。トーストにサラダ、目玉焼きとソーセージ、採れたての果物とジュース。

 その中の目玉焼きを口に入れた時……何やら違和感を覚えた。首を傾げながらも続いてジュースを飲む。またも違和感。

 まさか……と思いながら、おそるおそるフリッカに尋ねる。


「ねぇフリッカ……これ、味付け変えた?」

「……ひょっとして、調理失敗していたでしょうか……?」

「あ、いや、失敗してないよ。美味しいよ」


 今まで食べてきた味とは違ったから違和感と言う形になったけれど、決して不味いわけではない。美味しいと言ってもよい。

 では何故味が違ったのか。その答えには意外な原因があった。


「先に言っておくべきでしたね。そちらはアステリオスさんからリオン様の回復祝いにと頂いた卵とジュースです。数が少なかったのでリオン様のみにお出ししています」


 アステリオスは口がきけないので実際に言ったわけではなく、そんな感じのニュアンスで渡してきたらしい。


「何の卵とジュース?」

「……すみません、特に確認をしていませんでした。アステリオスさんがおかしな物を渡してくることもないと思って……」

「まぁそれはそうだね。謝ることじゃないよ」


 アステリオスは元がモンスターと思えないほどにいつも穏やかで優しく、子どもたちの人気者だ。そんなアステリオスから渡されたらわたしだって素直に受け取る。

 ジュースはアステリオスに管理を任せている果樹園の物だろう。配合が変われば味も変わるしね。素材そのものじゃなく出来上がった物を持ってきたのは珍しいけど。

 でも卵は……なんだろう? わたしの知らないうちに家畜の種類が増えてる?と一瞬考えたけれど、それはフィンから否定される。


「ジズーがどこからか拾ってきたのではないか? あ奴はフラフラと飛び回っているようだしのぅ」

「……まぁ、それはありえそうだね」


 ウルの予想に頷く。拠点うちで採れた物じゃないなら、外で拾った物しかないわけだし。

 ジズーの拾い物だろうとアステリオスの拾い物だろうと、今更彼らがわたしを害することはない。アステリオスは元モンスター、ジズーなんて現モンスターだけど、その辺りは信用している。おなかが痛いわけでもないし、気にしなくてもいいだろう。

 味の違いは素材の違い。心臓を作り直したことで味覚がおかしくなったわけじゃないとわかって、心の中でホッと息を吐いた。

 食事は活力の一つだからね……。



 食事の後は、力の制御に奔走する。

 基本的には壊して、壊して、壊して……ほんの少ししか進展は見られず、積みあがっていくダークマター。

 あまりに壊れるのでストレスが溜まって、そんな時は体を動かすことで発散する。

 この戦闘訓練と冠したストレス発散にはウルだけでなく、アイティと火神も加わった。アイティは改めて言うまでもなく、火神は最初は暑苦しくて面倒と思っていたけど、力加減を間違えてぶっ飛ばしても笑って許してくれる大らかなヒトだったので大変ありがたい存在だった。……火神の名誉のために言っておくけど、火神が弱いわけではなく、まだ本調子ではないだけである。

 そして予想通り、神様たちは破壊の力の制御については何も言えないらしい。


「俺から一つ言えることがあるとすれば、自分の感情を自覚することだな」

「……感情を自覚、ですか?」

「あぁ。怒りで力を揮うのは構わない。しかし、怒りを自覚しないままに揮うのは駄目だ」


 ……怒りのままに力を使うな、って話はよく聞きそうなのに、何だか意外な話だ。

 要は『我を忘れるな』ってことだろうか?


「喜びであれ、怒りであれ。創造の力もだが、破壊の力も感情に引きずられる。むしろより顕著と言ってもよい。年若いお前にとっては精神制御も容易くはないだろうから、焦らず気長に進めるとよい。心の乱れは力の乱れだ」

「はーい……」


 破壊の力と一口に言っても、つまりは神様の力だ。そう簡単に扱えるモノでもないってことだろう。なまじ創造の力がそれなりに使えるがゆえに、同じように破壊の力を使えないことに焦りが募っているのかもしれない。今のわたしは破壊神の神子?になりたてなのだ。出来るわけがない。

 世界樹の件もあるからあんまりゆっくりしてもいられないけど、だからと言って焦っても好転するわけじゃない。地道に頑張るしかないかぁ……。



 などと思っている場合でもなくなった。

 わたしが目覚めてから七日程経った夜のこと。


『結構結構。生きておるな』

「――えっ」


 ……破壊神が現れたのだ。

 と言っても現実世界にではない。寝た記憶はしっかり残っているので、夢の世界とか、精神世界とか、多分そんな感じだろう。わたしが今立って?いる場所も部屋の中ではない、真っ暗闇なのだから。


「え? いや、何で繋がるんですか? ウロボロスリングはもうないですよね?」

『……阿呆か? 形が変わっただけで貴様の中にあるじゃろ』

「――あっ」


 そうか、消えたわけじゃないんだった。……逆に、肉体の一部になったことで影響力が強くなって、いる……?

 ……まぁいいや。おかげで生きているのだから。

 それに影響を受けているからか、破壊の力を得たからなのか、前回会った時に比べて威圧感は感じなくなっている。全くないわけじゃないけど、むしろ普通に怖いけど、震えて立っていられないとか、血を吐くとかまではいかない。


「あの、助けてくださってありがとうございました」

『貴様に死なれてはプロメーティアが困るでの』

「その件もですが……やはりお二柱ふたりは仲が良いので?」

『……さて』


 何でそこでごまかすの。もしやツンデレか?

 って待って待って、アイアンクローしないで! ごめんなさい! 実体じゃないはずなのに痛みを感じるうううう!


『……儂はそんなどうでもよい話をしにきたわけではない。時間がないのに、無駄手間を取らせるな』


 理不尽だと思ったけど口にはしない。下手にからかって命の危険に晒されたくはないんです。まぁ、わたしの頭がスイカみたいに砕けていないので、これでもちゃんと加減はされているのだけど。


『貴様を助けたのはプロメーティアのためであるが……恩を感じているのならば、一つ頼まれごとをしてくれ』

「何でしょう? わたしに出来ることなら何でもしますよ」

『むしろ現時点は貴様にしか出来ん』


 そうして語られる破壊神による頼みごと。その意外な内容にわたしは目を丸くしながらも引き受けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >何でそこでごまかすの。もしやツンデレか? >って待って待って、アイアンクローしないで! ごめんなさい! 実体じゃないはずなのに痛みを感じるうううう!  こう実力行使で黙らせに来てる時点で…
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