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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第七章:廃地の穢された闇黒

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変化

「あー……」


 ぼーっとする頭で見慣れた天井を見る。

 猛烈な既視感、と言うよりはまんま同じような状況。

 違いがあるとすれば、この身に痛みがないと言うことくらいか。


「……あれ?」


 痛みが、ない?

 わたしは……胸を貫かれたはず、なのに?


 まだ頭がぼんやりとしているけれども……あの三人目の神子に、剣でグサリとやられた、はず。

 刺され、抉られ、もぎ取られた。


 そこまでの記憶しかないけれども……まぁ生きてると言うことは、ウルたちが連れ戻してくれたのだろう。

 胸を触る。痛みはない。包帯らしき感触もない。ポーションで全部治った?

 のそりとベッドから上半身を起こす。体が動かないと言うこともない。

 けれども――


 ――右腕に、黒い鱗が生えていた。


「……は?」


 左手で目をこすって腕を再度見る。

 ……変わらず見えており、幻や見間違いではない。

 手で触れてみる。

 ……触った覚えのある、ひやりとした硬質な感覚。


「……なんじゃこりゃあ……」


 途方に暮れたわたしの元にウルとフリッカが顔を見せるのは、それから十分は後だった。



「……え。わたし、死んでたの?」


 ひとしきり泣かれて謝られて、なんとか慰めて宥めて落ち着いたウルとフリッカから、わたしの意識が飛んだ後の経緯を軽食をいただきながら説明してもらっていたのだが……刺されたことまでは覚えていたのだけれども、実際には心臓をぶち抜かれたらしく、びっくりしてポロリとパンを取り落した。

 え? いや、わたし、マジでなんで生きてるの??


「……リオン様の場合、『死んでいる』の線引きがどこからかはわかりませんが……」

「普通の人間ヒューマンなら死んでおっただろうな……」


 なるほど。生き残った理由は、わたしが神造人間ドールだからのようだ。

 肉も骨も血もあるし、食事や睡眠が必要なところとか、アレとかソレとか人間と変わらないようでいて、しかしあくまで『人間そっくり』に作られているだけなので、死ぬ基準は人間とは異なるってことか。


「フリッカ、ありがとうね。そんな状態でも連れ帰ってきてくれて」

「……心臓が魔石――いえ、創造神様曰く神石だったのは私も驚きましたが、神造人間であることは知っていましたので、神様方なら何とかしてくれるかもと思いまして」

「うぐ、すまぬ。我は頭に血が上っているだけであった……」


ウルがしょげているけれどさすがにこれは責められない。わたしだって、そんなシーンを見てしまったら即死だと思っただろう。

 しかし……心臓は神石なのか。心臓部に手を当ててみるとドクドクと鼓動が手に伝わる。……これで気付けっていうのはムリな話だ。いや実際には魂を除くわたしの全ては神造物なんだけどさぁ、そこだけ明らかに見た目が違うとか思わないじゃん……?

 そのおかげで今生きているのだけれども、そのせいでわたしがモンスターだと勘違いされたのだから、何とも複雑なところである。


「それで、創造神様に新しい心臓を作っていただき、今に至る、と言う感じです」

「……馴染めば目覚めるとは聞いていたが、二日も寝たままだったので冷や冷やしたのである」


 ふむふむ、創造神の仕業であれば傷が残らないのも納得か。……むしろ創造神以外に誰がそんなこと出来るんだ。

 でも、だとしたら……。


「この腕、何……?」


 わたしが黒い鱗の生えた腕を掲げると、ウルとフリッカは何やら言いにくそうに顔を見合わせる。

 つまりこれは創造神がやったことではない、と……?


「理由の想像は付くのだが……」

「確証はありませんので、一緒に神様方に聞きましょうか」



 そうして、わたしたちは私室からくつろぎルームへと移動した。

 わたしが生死に関わる大ケガをしたのは拠点に居る皆に伝わっていたようで、フィンやイージャ、ウェルグスさん一家、駐在員さんたちやゼファーたちモンスター組からも、顔を合わせるなり目覚めてよかったと安心された。申し訳ないやら照れるやら。

 経過観察で残ったままだったレグルスとリーゼからも何も出来なくてごめんとめちゃくちゃ謝られたけど、そもそも創造神から忠告されておきながらわたしが油断していたのが悪かったのだ。その創造神も「刺すほどとは思っていなかった」とのことで、神も神子も警戒心が足りなかったですね……。

 顔見せが終わった後は、わたし、ウル、フリッカ、神様ズを除いて部屋を出てもらうことに。フリッカにも聞かせるか迷っていたけれども、もう察しているだろうとのことで居残りが許可された。……何やら不穏な気配?


「……さて。まずはリオン、回復したようで良かったさね」

「神様たちが尽力してくださったからですよね? ありがとうございました」


 心臓を作り直してくれたのは創造神だけど、それまでの間に体を維持してくれていたのが神様ズと聞いている。

 お礼を述べると、地神たちは苦笑を浮かべた。


「アタシたちは始めは動転していたからねぇ……下手をしたらそのまま死なせるところだったさね」

「メーちゃんを呼ぶって言う、簡単なことすら頭から抜けていたわよねぇ……」

「あぁ……私たちだけでは危うかったな」

「うむ、適切な指示をしてくれて助かった」

「あの時ほど、僕たちが情けないとは思わなかったねー」


 口々に神様ズから反省が零れる。現時点で拠点に滞在している五柱全員からだ。

 ……どゆこと?

 一体、その『指示』は誰がした……?

 口ぶりからして創造神ではない。チラリとウルとフリッカに目を向ける。二人とも曖昧な表情だ。

 つまり、明確に知っている誰か、ではないと言うこと……?

 わたしが困惑していると、地神が咳払いをして背筋を伸ばす。ほんの少し、纏う空気が変わった気がした。


「さて。プロメーティアは今は顔を出せない状況なので、代わりにアタシたちが情報開示をしようじゃないか」

「……今まで大して教えてくれなかったのに、どうして気が変わったので?」

「そりゃ、アンタが大きく変わってしまったからさね」


 えっ。

 いやまぁ、この腕は確かに変わったには変わったし、心臓も作り変えられたけど。

 それでも『大きく』変わったなんて意識は全くなかった。


「……リッちゃん。ひょっとして起きてからまだ鏡は見てないかしらぁ?」

「……鏡?」


 見てはない、けど……何で鏡?

 水神だけでなく他の神様ズからも、ウルとフリッカからも、『とりあえず見ろ』と無言で催促されたので、仕方なく手鏡を取り出して見てみると――


「――えっ」


 映ったのは、普段のわたしからかけ離れた顔……とかではなかったけれども。

 少なくとも二か所、変わっている部分があった。


 一つ、右側の前髪が一房、金髪から黒髪になっていた。

 二つ、右目が碧眼から……金眼になっていた。いわゆるオッドアイだ。


 『まさか中二病が発症した……?』

 ……なわけがない。一瞬思考回路が逃避してしまった。

 混乱する頭のまま、鏡から地神へと視線を動かす。

 地神はこの現象に回答をしてくれるかと思いきや、違う話をしてきた。


「アンタの心臓は神石で出来ているんだが……それはとてもとても貴重な代物でね」

「……まぁ、それは……そうでしょうね?」


 でも名称からして、神様であれば用意は出来る物だと無意識に考えていた。

 その認識が、間違っていた。


「神であってもすぐには用意出来ないのよぉ。特にリソース不足の昨今では、ね」

「すぐには用意出来ない、って……」


 じゃあ、この心臓はどこから?

 ぎゅっと胸元を握りしめる。

 ……ふと、違和感。


そこ(・・)にあった物なら、使用させてもらったよ」

「……アイティ?」

「本(にん)が使えと言った――いや実際には言っていないのだがそれしかなかったので、愛着があったとしても諦めてもらうしかないのだが」

「――」


 ……胸元ここにあった物。


 え? ちょっと待って?

 あれはゲームで得た、ただの記念品のような物で……特に大した効果はない、はずでは――

 ……いや、違う。ちゃんと、書いてあった。一部読めなかったけれど、確かに。



 『原初の竜ウロボロスドラゴンの力と■が宿るアクセサリ』と。



「……まさ、か」

「そう、そのまさかさね」


 呆然とするわたしに、地神は容赦なく断言をする。



「今、アンタの体には……創造神だけでなく、ウロボロスドラゴン――破壊神の力が、宿っている」

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― 新着の感想 ―
[一言] >「今、アンタの体には……創造神だけでなく、ウロボロスドラゴン――破壊神の力が、宿っている」  知ってた\(^o^)/  さらに言えばウr( 'д'⊂彡☆))Д´) パーン
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