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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第七章:廃地の穢された闇黒

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近くて遠い、遠くて近い存在

リオンがまだアレな状態なので三人称

「神たちよ! どうかリオンを、リオンを治してくれ……!!」


 血まみれのリオンを抱えてウルたちが帰ってきたことで、拠点は騒然となった。



 すぐさま祭壇のすぐ近くにある神たちの住む屋敷へと運び込まれ、寝かされるリオン。

 明らかに致命傷――即死と思われる胸部の大穴。それを目にした神たちは言葉を失う。

 しかも、傷はそこだけ。モンスターとの激しい戦闘の末に負った傷にしては不可解すぎる。


「何だこれは……!? ウル、アンタが居ながら何故こんなことに――」

「地神様!」

「……っ。……悪い」


 思わず地神の口からウルを責める言葉が出た。

 ウルの強さを知る者であればこその言葉であるが、経緯を知る者にとってはあまりにもウルに酷だ。

 フリッカとて平静ではないのだが、それを言わせてはいけないと思い咄嗟に遮る。地神も失態に気付き謝罪をする。

 当のウルは無言で血が滲むほどに唇を噛み締める。自分が引き金であることも、守れなかったことも事実であるからだ。

 そんな痛々しいウルをフリッカは慰めにもならないと知りつつも頭を撫でてから――これには自分の気持ちを少しでも落ち着ける意味合いもあった――、改めて神たちに向き直る。


「神様、治療をお願いします。ポーションは……血が止まっただけで、目を覚ましていただけないのです」

「……それは……いえ、出来るだけやってみるわぁ」

「私も全力を尽くそう。その間、説明を頼めるだろうか」


 治癒力の管轄である水神と、生命力の管轄である光神が進み出る。水神は何事かを言いかけたがさすがに口にはしなかった。

 ……『死んでいるのでは?』なんて、彼女らを前に言えるわけがない。水神とてそう思いたくなかったから言わなかった。言ったら確定してしまう気がしたからだ。

 二柱ふたりが治療のための魔法を使う傍らで、大筋をフリッカが説明し、レグルスとリーゼも混乱した頭で補足していく。

 この惨事が神子によって引き起こされたことに、神たちは揃って頭を抱えるのであった。


「は? この傷、神子にやられちゃったの!? そんなバカな!」

「しかもウルはともかく、リオンをモンスターと断じて刺すなど俺にも訳がわからんぞ……? あ、いや、ウルをモンスターと言っているわけではない、だから泣くな……!」


 風神が信じられないと嘆き、火神が首をひねる。

 火神の余計な一言に今にも泣きそうなウルが涙を決壊させる寸前になり、慌ててフォローを入れる。普段であれば地神か光神あたりが頭を叩くところであるが、今は誰にもそのような余裕がない。


「……何故あの神子がリオン様をモンスターと判断したのかはわかりません。けれども……リオン様の体内から魔石が出てきたことで、モンスターであると確定したことに……」


 フリッカが血まみれのままの壊れた心臓かくを手のひらに乗せて見せる。

 これがリオンの体内から出てきたことに関しては、フリッカたち全員が目撃しているので疑いようもない。


「魔石……そうか! リオンは神造人間ドールだから……!」


 地神が苛立たし気に爪を噛む。

 リオンは見た目は人間ヒューマンであるが、人間ではない。創造神お手製の神造人間だ。

 だから、リオンの体内にそれが存在していたこと自体は問題がない。

 しかし……壊れていることは、大問題だ。


「ちょ、ちょっと!? リッちゃんの心臓が壊れたって、それは……!」


 それが意味することは。


「……ここまで破壊されては……私たちには、治せない……」


「「「――――」」」


 光神の呟きは、とても小さかったのに、誰の耳にも深く届いて。

 絶望に、包まれた。


 その時。



『……神どもが雁首を揃えておきながら……阿呆か、貴様ら』



 闇が、溢れた。


 しかしその闇は……皮肉にも、希望の光を運ぶ。


 どこからともなく溢れた闇は、ヒトの形を取り始める。

 背が高く、それでいてなお地に引きずるほどの長く艶やかな、混じりけのない黒髪。

 側頭部には赤い角を備え、切れ長の目は満月を彷彿とさせる金瞳で。

 各所に黒い鱗を纏い、尻尾を持つ、女性。


「……っ!?」

「ぐ、が……っ」

「ひ……っ?」


 闇が女性に成ると同じくして、フリッカが、レグルスが、リーゼが、えも言われぬ恐怖に呑み込まれ、倒れた。

 暑くもないのに大量の汗をかき、寒くもないのに全身が震え、ろくな呼吸も出来ず。

 隔絶した、抗うことの許されない――心臓いのちを握りつぶされそうなほどの、圧力。


「おっと?」

「……あ、貴女は一体何処から……いやその前に保護を……!」


 己が引き起こした予想外の事態に目を瞬く黒い女性と、目を瞠る神たち。その中でも光神は一早く行動に移す。

 柔らかな光の膜に覆われたことで、フリッカたちはやっと息をすることが出来るようになった。しかしまだ体を起こすことは叶わず、うずくまったままだ。おかげで女性の顔を見ることすら出来やしない。

 その様に女性は自分がかき乱したことは棚に上げて鼻で笑ってから、矢継ぎ早に指示を出す。


「アイティ、貴様はそのままひよっこに神力を流し続けろ」

「……っ。あ、あぁ」

「ネフティーは心臓の代わりに全身に巡らせろ」

「……わかったわ」

「レーアは肉体を保て」

「……了解さね」

「ヘファイストは活性化させろ」

「うむ!」


 突如現れた女性はどうやら神たちと知り合いらしい。神たちは驚きはしたものの誰何の声を上げることもせず、素直に指示に従う。

 フリッカたちには何が起こっているのかわからない。

 しかしそれらが、全てリオンを生かすためのものであると言うことだけはわかった。一縷の望みが繋がったことに、苦しさとは別の涙が浮かぶ。


「メルキュリスは……」

「うん、何でも言って!」

「プロメーティアを呼びにさっさと走れ」

「うわぁパシリだぁ!」

「むしろ何故今まで誰も呼ばなんだ。くそたわけどもが」

「それもそうだねごめんなさいーーー!」


 風神は謝りながらまさに風のようにカッとんでいった。

 創造神を呼ぶ。そんな単純なことが思い浮かばないほどに頭が回っていなかった事実に、残る神たちも気まずげになる。


 一通りの指示が済んだことで、しばしの静寂が訪れる。

 フリッカ、レグルス、リーゼは座り込んだままだが、ただ一人、膝をつかなかったウルは。

 ずっと、呆然と女性を見ていた。

 女性も見られていることに気付いていたがあえて無視していた。

 今になってゆっくりウルに振り向き、視線を合わせる。


 その姿は、あまりにも――


「まさか……ぬしは我の……親様、か?」


 あまりにもウルに似ていた。

 正確には、ウルの外見年齢を十ほど成長させた姿であるが、他人と言うには無理があるほどに似ていたのだ。

 その発言に女性はまた目を瞬いてから……クハッと笑う。


「まぁ、全くの間違いではないの」

「――」


 全てではないものの肯定する答えに、ウルだけでなくフリッカたちも息を呑む。

 しかし女性はウルに次の質問を許さなかった。


「気になるなら後でプロメーティアに聞け。儂にはもう時間がない」

「じ、時間がない……?」

「これでも封印されている(・・・・・・・)身であるしの。無理矢理経路(パス)を通ってきたが、もう限界だ」


 封印されている。経路。

 ウルには理解出来なかったが、時間がないと言うことだけは理解出来た。

 女性の体が、闇に戻り始めていたからだ。

 じわりじわりと、輪郭が溶けていく。

 ウルは何か声を掛けようとしたが何一つ言葉にならず、無意味に手を動かすだけになった。

 その行動を興味深く眺めてから、女性は最後に。


「あぁ。そのひよっこが次に目覚めた時、制御が出来ぬ(・・・・・・)であろうから相手をしてやれ」

「……は?」


 何処か楽しそうな言葉を残し、消えていった。

 それでも、確かに言った。

 『次に目覚めた時』と。

 リオンは……治るのだと。


 ウルがグッと拳を握りしめた直後、バタバタと風神が創造神を引き連れて戻ってくるのだった。

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