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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び

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新たな旅路

二章開始です。よろしくお願いします。

「リオン……さすがに、ちょっと疲れてきたのである……」

「はっ……ご、ごめん、つい」


 創造神より指定された東北東の森を目指して旅を始めたわたしたち。

 森には比較的すぐ辿り着いたのだが……この森が広いこと広いこと。入ってから三日経っているけれども、未だに目的地らしき場所が見当たらない。と言うかそもそも、森の中とは言え思った程の距離が移動出来ていない。

 何故なら……わたしがついつい素材目新しさにうろちょろしてしまうからです……。


「……リオン、木材は十分にストックされていなかったか?」

「え、この種類は初めてだよ?」

「ふむ、何か効果が違うのか?」

「色が違うよね?」

「……………………そうか」


 と、森に入ってすぐの所で伐採していたらウルに呆れられたのを皮切りに。


「おー、この花も初めて見るね。採取採取っと」

「キノコ! よーし、これも採っちゃうぞー。拠点でも栽培できるかなぁ?」

「おっと、この虫も錬金材料になるな。あ、あれも――」


 などと、あっちもこっちもこの世界(アステリア)に来てから初めて見るものだから、たとえ使う予定が無かろうともついつい集めてしまうびょうきが発生してしまい。

 ウルも最初は付き合ってくれていたのだが、さすがにこうも延々続けられると(精神的に)疲れてしまったようである。も、申し訳ねぇ。

 でも多分治らない。ゴメンネ!


「んー、大分離れたし、一度創造神の像を設置して拠点に帰ろうか」

「うむ……」


 念の為に二週間は補給しなくても移動出来る量のアイテムを持ってきたけど(その上現地調達も出来るので移動可能期間はさらに延びる)、拠点の様子も心配になってくるからね。いやぁ、帰還石って本当に便利。

 ……アステリアはゲーム時代と違って『悪い人』も居るからね……。壊されたり盗まれたりしたら、と考えると、信頼出来る留守番の人や警備ゴーレムが居ない状態で長期間空けておくのがちょっと怖くなってしまったのだ。

 牛や鶏も居ることだしね。自動餌やり装置はあるけれども、その装置が壊れて死んでしまっていたら泣いてしまいそうだ。

 と言うことで拠点へと帰還。



「ただいまーっと。伝言は……特にない、のも当たり前か」


 旅に出る前にレグルスとリーゼに「ちょくちょく家を空けることになるから、何かあったら伝言を残しておいてね」と言っておいたのだ。そのためのポストも家の玄関前に設置しておいた。

 でもさすがに三日程度だと、頑張って走り詰めでグロッソ村からここまで来れるかな?くらいの期間だろう。わたしたちは帰還石で一瞬なんだけどねぇ。

 うーん、彼らにも使える移動系アイテムは無いものかなぁ。中盤以降なら風の魔石と組み合わせてジェットブーツとか作れたりするんだけども今はまだね。

 この辺りも時間が出来たら何か作れないか試してみよう。でもどちらかと言えば素材の壁の方が厚い気がするよ……。



 拠点を一回り点検して、一泊ベッドでゆっくりと休んで(ウルは相変わらずダルそうであるから休めていることになるのか心配である)、帰還石で森の中の創造神像まで戻って像を回収してから旅を再開する。


「さて、コンパスは……えっと、太陽があっちにあるからあっちが東でこっちが北で……変わらずに西南西――拠点の創造神像を示しているね」


 ここで言うコンパスは北を指し示すあれではない。最寄りの創造神像を示すものである。ぶっちゃけやや使いにくいと思っている。

 だって、創造神像まで帰りたければ帰還石を使えばいいのだから、必ずしも位置を知っている必要はない。うっかり作り忘れて泣きを見たこともあったけれどもそれはさておき。

 廃棄大陸では帰還石の使用制限があるので心強い味方なんだけれども、先日は何の問題も無く使えたからね。

 ともあれ今回のように『拠点(の創造神像)を起点』にして移動したい場合には使えないこともないけど、普通に方角を知りたい時は現在の太陽の位置と時刻から計算した方が早い。

 ……ひょっとしたら普通のコンパスも作れたりするかな? 磁石とかあるのかなぁ。


 一応、メリットが発生する場合もある。

 それは『近くにきちんと創造神像が機能している村があった時』だ。

 その時はコンパスの針が向きを変えるので、進んで行けば新しい村が見つかる、という寸法だ。

 割と近くに村があったのに発見出来てなかったということもあるからね。そういうのを防ぐためにも持ってきている。

 ……まぁこれも注意して見ていないと、「あれ? いつの間にかぐるっと方向間違えた?」ってなっちゃうんだけども……。(経験済み)


「んじゃ、続きと行きましょうか」

「……それは良いが、あんまり素材に夢中にならないでほしいのだぞ……?」


 ウルの注文に、わたしはそっと視線を逸らすことで回答としたら、溜息を吐かれてしまった。


「……せめて足元やら頭上やら周りに注意してくれ……何度転んで何度枝に引っ掛かったのだ……」

「あ、あははー……」


 わたしが以前ウルにダンジョンでの注意として挙げたモノですね! 言った本人がこの有り様で本当に申し訳ありません!

 ゲーム時代でも頭上の虫を追い掛けてたら丘から転げ落ちたり、花畑で採取に夢中になってたら後ろからモンスターにグサリとかあったからねぇ……って成長してないな!

 もうゲームじゃないんだから、本当に気を付けないと……とは思っているのだけれども、体が勝手に動いてしまうんですぅ……。

 一人ならともかく、近くに信頼出来るウルが居るからついつい気を抜いてしまうんですよ……言い訳ですね、はい。


「う、む……信頼と言われてしまうと、嬉しいものがあるな……」

「いやいやいや、そこは怒っていいのよ……?」


 どうしよう、ウルが優しすぎて堕落してしまいそう。やっぱ真面目に何とかしよう……。



「しかし、本当に虫が多いな」

「そりゃ森の中だからね。これでも虫除けで減っている方だよ」


 視界の端を飛び回る虫が鬱陶しいのか、ウルが顔を顰めながら手で払う仕草をする。

 そう、森を移動する時は虫除けが地味に重要なのだ。たとえモンスターではなくても、刺されることで毒やら痺れやらが発生することがあるのだから。

 そして……モンスターではないのに、ある意味モンスターより厄介な虫がいる。


 その名もサイレントキラー。プレイヤー間の通称は自爆仕事人。


 ハチのような見た目で、音もなくプレイヤーの近くに忍び寄ってはプレイヤーを刺し、少なくないダメージを与えていく虫だ。刺した後に必ず自身が死ぬから『自爆』が付いている。

 ハチより一回り大きいので視認はしやすいのだけれども、飛ぶだけあって何時の間にか後ろから――とかしょっちゅうあったりする。

 たとえ敵対行動こうげきをしていなくてもプレイヤーが近付いただけで自分の命を省みずに刺しにくるのだ。一体何が彼らをここまで駆り立てるのか、謎である。


「チッ……またこやつか」


 ウルがバシっと件のサイレントキラーを叩き落としていた。きみもきみで良く気付くね……。


「うーん、近くにサイレントキラーの巣でもあるのかな」


 ゲーム時代には存在していなかったのだけれども、アステリアではあってもおかしくない。形状もまんまハチの巣だったりして。

 虫除けアイテムの質がそんなに良くないからなぁ。迂回することも視野に入れた方がいいかな。


「……まさにその通りかもしれんな」


 ウルの深刻な声に、視線を向けている方向に目を向けてみれば――


「……でっか」


 そんな間抜けな感想しか出てこなかった。

匠さんは恐ろしいです。

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