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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間一

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順調に増えているようです?・下

「見ろ、俺の腕だって治ってねぇんだぞ」


 ボーア(もう『さん』付けする気が起きない)は布に吊り下げられた腕を主張するように軽く叩いた。

 それにしても腕の怪我が治らないって、同じように瘴気に侵されたのかな。ほんの少しだけだけど気になる。


「創造神の神子っていうオエライさんが来たかと思えばただの小娘……こんな都合の良いタイミングに現れるとか怪しいと思ったんだよ。詐欺師じゃねぇのか?」


 それは、わたしがこの世界アステリアに来てから初めて向けられたヒトからの悪意。

 ……そうだよね、ゲームじゃ特殊環境下にない限りNPCは善人ばかりだったけれど、ゲームじゃないんだからこういうこともあるよね……肝に銘じておかないと。


「おっちゃん! 何てこと言うんだ!」


 さすがに看過できないとレグルスが咎めるが、ボーアは気にも留めないどころか逆にヒートアップしていくのだった。


「お前もだよレグルス。小娘と組んで俺を騙そうとしてるんじゃねぇのか?」

「なっ……!?」

「大体俺ァ気に入らねぇんだよ。アルグのヤツはもう死んじまったっていうのに、何でお前がデカいツラしてんだ? 何でさっさと俺を次の長にしねぇんだ? ライザはそんなザマだし、他に俺より強いやつでも居るのか? アァン?」


 アルグ、と言うのは聞いたことのない名前だけれども、流れから察するにレグルスの父親だろう。

 で、レグルスの父親がグロッソ村の長だったけれども死んでしまったので、その座をボーアが狙っている、ということか。

 こんな大変な時期に、何とも胸糞の悪くなりそうな話である。

 と言うかこの人、ポーションが効かなかったのはともかくとして、突然出来た家の件はどう思ってるんでしょうねぇ……。


「……そんな風に、思ってたのか……」


 レグルスも隣人のあからさまな悪意がショックだったのか、顔を青白くさせている。

 肩を震わせ、拳を握りしめ、青かった顔が赤くなり、怒りを爆発させ――


「リオン、この見るからに小者臭の漂う雑魚っぽいやつ、ぶっ飛ばして良いか?」


 る前に、ウルが口を挟んだ。声音は普段と変わってないのだが、地味に酷いことを言っている。レグルスも驚いて少し怒りが引っ込んだようだ。

 そうね……きみの嫌いそうなタイプよね……わたしも嫌いだけれども。

 ただきみがぶっ飛ばすとシャレにならないので、心情としてはものすごくぶっ飛ばして欲しいのだけれども、「ステイステイ」と抑える。

 抑えたのだけれども、抑えなくて良かったかも、と次の罵倒ですぐ後悔することに。


「俺が、小者だと……? こ、このっ、たかがリザード如きが!」


 あー、駄目だこれ。


 わたしは激昂したボーアの動きを遮るように石ブロックをデンと置いた。


「ぐぁっ!?」


 突然のことに避けきれず、ゴンッと壁にぶつかるボーア。さすが猪。

 目を回すボーアを除く他の人たちに「ちょっと離れてください」とジェスチャーをしてから石ブロックを追加で置き、一辺が二メートル程の立方体になる。

 「何だこれは!?」と石壁の向こうから叫び声が聞こえるけどスルーだスルー。


「ウル」

「……何だ?」

「ぶっ飛ばしていいよ」


 ウルは一瞬キョトンとしてから、ニヤリと笑い。


「任せるがよい」


 ――バッコオオオオオオン!


 ――ぎゃああああっ!?


 たったの一撃で分厚い石壁がぶち壊され飛び散る(ついでにその破片がガンガンボーアに当たる)様を見て、ライザさんとライオットさんが信じられないものを見たかのように大きく口を開けて呆然としていた。

 リーゼは苦笑し、レグルスは少しポカンとしてから「さすが姐さんだぜ!」と大はしゃぎ。彼に鬱憤を晴らさせるべきかちょっとだけ悩んだけど、まぁ結果オーライだね。

 悲鳴が聞こえる? 何のことやら? でも、一番ウルの力を見せつけたい相手が一番きちんと見れてないのは反省点かもしれない。


「で、ライザさん」

「は、はいっ……何でしょうか?」

「腕、もう一回見せてください」


 何事もなかったかのようにわたしに声を掛けられて、ボーアの方をちらちらと見ながら、戸惑いながらももう一度袖を捲ってくれる。

 わたしは包帯を外し、「染みてもガマンしてくださいねー」と注意してから患部に聖水を振り掛けた。

 すると、みるみる赤黒い瘴気の部分の範囲が縮んでいくのであった。


「! 傷が……」

「うんうん、治りそうで良かった。もしまた症状が再発したとか、だるさが続くようなら言ってくださいね」


 ついでに、アレがうるさかったのでポーション瓶を思いっきり投げ付けると「げふっ!?」っと声がしてから静かになった。大丈夫です、ただの治療です。トドメを刺したわけではありません。

 見た目で全てを判断してくることにイラっとしてついウルにやってもらっちゃったけど、別にわたしはヒトを痛めつける趣味はないのです。ないはず。

 ウルの「なんだ、お仕置きはお終いか」と呟きが聞こえたけど……まだやり足りなかったとかないよね……?

 ちなみに、後から聞いた話であるが、ボーアの腕の怪我はフェイクだったらしい。キマイラから逃げるためにそう見せかけたのだとか。そりゃ治るわけありませんよねー。必要なのは性根の治療ですわ。

 今後ずっと肩身の狭い思いをして村の片隅でひっそりと生きていくといいさ。それでも死ぬよりは全然マシでしょうよ。


「おー、そっかそっか、リオンだと聖水の効きが良くなるんだったな」

「リオンさん……本当にありがとうございます」


 レグルスが感心したように頷き、母親の腕が治ったことにリーゼがお礼を言ってきた。

 良いのよ良いのよー、と手を振っていると。

 ライザさんが跪き、ライオットさんが姿勢を正した。

 えっ、まさかこのパターンって……。


「……神子様、私共は、改めて貴女に忠誠を誓います」


 ああああああやっぱりいいいいい!?

 

 ノオオオオ!とわたしが頭を抱えていると、左右から肩を叩かれた。

 誰かと思えばレグルスとリーゼだ。


「実は一つ」

「謝らなければいけないことが……」

「な、何かな……?」


 二人は神妙なような、どこか面白がっているような、何とも判断付かない表情だ。

 深刻なことではないのだろうけれども、何だか、嫌な予感がするんだよ……?


「あー、その、なんだ。この村がこうなった経緯を、当然村の皆に説明しなきゃいけないよな?」

「後、あたしたちが皆を集める際に、色々アイテムを使わせてもらったんだけどもね?」


 う、うん。それは、正しいこと……だけれども。


「リオンとウルの姐さんの武勇伝に村の子ども……特に男子がな」

「立派な家に畑、モンスターを寄せ付けないアイテム、良く効く薬とかで、女の子も大人もね」

「だからまぁ、姐さんへの敬意ももちろんそうなんだが」


 何やら、雲行きが怪しく……?


「「オレあたしたちが止める間もなく、とっくに、リオン(さん)が崇拝対象のようになってるぜます」」


 …………なんです……と……?


 うええええ!? ナンデー!?

 あっ……ひょっとして、村に来た時にやたら懐かれていたのもそのせいなのか……!?

 モフモフには囲まれたいけど、そういうのは何か困るのよ!

 わたしの信者みたいな人は要らないんだよ!!



「もう、お祈りは創造神様の方にお願いしまーーーす!!」



 天に向けて叫ぶわたしを慰めるかのように、ウルがポンポンと背中を叩いてくるのであった……。

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[一言] 主人公が上から目線すぎて感情移入できない
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