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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間六

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347/515

空飛び談義

 ある日の昼下がり。

 わたし、フリッカ、フィン、イージャの四人でゼファーとアルバを洗ってやっている。この子たちは基本的に野外生活だからすぐに土で汚れるんだよね……。放っておいても病気になったりしないだろうけど、特にゼファーはフィンとイージャを乗せることが多いので汚れたままは許しません。しかしドラゴンが水浴び出来るサイズのプールやら池やらは拠点うちにはないのだ。


「そう言えば、アルバは飛べるようになった?」

「……ウギュウ……」

「だめかー」


 アルバは出会った当初に比べれば断然肉付きはよくなったけど、言い換えれば体が重くなったことにまだ翼が耐えられないようだ。走っている時の加速くらいには使っているけど、空を自在に飛ぶまではまだ至っていない。ウェルシュにも『まずその貧相な体を何とかしろ』と言われてた。……彼は元気だろうか。

 まぁ、このままきちんとご飯を食べていけば、そのうち飛べるようにはなるだろう。


「ゼファーもお兄ちゃんみたいなものなんだから、アルバを見てあげてくれるとありがたいな。こう、翼の動かし方とか」

「キュ?」


 首を傾げている。……まさかこの子はお姉ちゃん(メス)か……?と脳内を過ったけど、そもそもモンスターは胎生でも卵生でもなく、どこからともなく発生するものなので雌雄はない。その割には卵アイテムが存在するけど……多分『成体ではなく卵の形で発生する』って話なのだと思う。

 うん? ゴブリンやコボルトの幼生体サイズとか見たことないな。単にわたしが見たことないだけってのも否定出来ないけど。モンスターの中でも最弱で真っ先に淘汰されそうだし。

 それとも……卵や幼生体で発生し(うまれ)、育っていくのがイレギュラーなのか、何か意味でもあるのか。


『神子よ。ドラゴンみたいなでかい図体の奴は翼をどうこうするだけでは飛べないぞ』

「おや? ジズー?」


 文字通り、声が降ってくる。視線を上に向けると、ジズーが旋回していた。

 スーっと降りてきてわたしの肩に止まる。……風神だけ頭に止まられるんだけど、舐められてるのか、ある意味特別なのか……。


「どう言う意味かな?」

『あんな重い体があの翼で耐えられるわけなかろう。魔力で補助をしているのだ』

「……なるほど?」

『付け加えると、光神も、天人スカイウォーカーも同じようなものだ』


天人スカイウォーカーの話題が出たことでイージャが目を瞬いている。彼の場合は魔力補助以前に翼を治さないとダメなんだろうけど、アイティの場合は常に神力を纏っていたから頷けるものがある。

 ジズーは肩に乗っていても重さを感じない。ミニサイズだからってのもあるだろうけど、鳥は空を飛べるように骨格からして軽いのだと聞いたことがある。

 そんな軽い鳥系モンスターと違って、ドラゴンは骨はぶっとく頑丈で武器にも使われるくらいだし、肉もみっちりと詰まっている。そりゃ重かろう。

 ゼファーは風属性で風を操るのはお手の物だろうし、ヘリオスも炎で勢いを付けている感じだったな。

 アルバの場合は……どうなんだろう?


『手始めに、翼に魔力を纏わせる練習から始めるんだな』

「ほーん? アルバ、出来そう?」

「……ギュ……」


 難しい顔をしている。グルルと唸り力を込めているようだが、感覚がわからないのか。


「ゼファーはどうやってるの?」

「キュ!」


 翼を大きく広げ、わずかに浮く。言われてみれば翼を覆っている魔力がうっすらと見える。

 気負いも何もなく、自然にやっている。正直よくわからん。

 ……うん? これってひょっとしたら……翼で空を飛ぶだけでなく肉体強化とか出来るのか? 他作品でそう言う魔法とかあったりするし。

 こう、腕に魔力を込めて――


「ギュウウゥン……」


 アルバの哀愁漂う鳴き声でハッとして取りやめる。また今度にしよう。


「……ジズー、なんかアドバイスとかないかな……?」

『私も勝手に出来るようになっていたので意識してやったことはないのだが……血を体が巡るように、魔力も体を巡るように意識してみる感じだろうか』

「……」


 こう言ってはなんだけど、この世界(アステリア)のヒトたちってそんなに医学知識はなさそうだから『血が体を巡っている』と言う発言に少し驚いてしまった。いや、わたし自身医学知識なんてほとんどないけど、それでも心臓をポンプとして、動脈静脈を通して血が全身を巡っている、ことくらいはわかる。

 皆して首を傾げているので特別ジズーが物知りなだけなのかな? わたしがざっくり説明すると、わかったようなわからないような顔をされた。


「リオン様は物知りですね」

「……そう言うわけでは……」


 むしろざっくりとしか説明が出来ない状態なのに物知りと言われてしまい、反応に困る。


「ま、まぁ、一度コツさえ掴めばアルバも出来るようになると思うよ。地道に頑張ろう」

「……ギュウ」


 いきなり言われてパッと出来るようなものでもないだろう。おいおいやっていくしかない。

 ここで話が終わるかと思えば、フリッカがポツリと漏らす。


「魔力で補助……翼そのものの性能ではないのでしたら、補助具があれば翼がない者でも飛べるようになるのでしょうか……?」

「あ、それはそうだね」

「え?」


 ジズーでなくわたしが間髪入れず答えたことでびっくりしていた。

 だって、その補助具と言うのが。


「スカイウイング、ってアイテムがまさにそれだからね。所詮外部パーツだから肉体の一部として動かすのではなく、魔力で動かす感じ?」


 スカイウイングは翼のような形をしており、それ単体でもばっさばっさ羽ばたけば飛べるけど、効率が悪いのでプレイヤーたちはジェットブーツと併用していた。

 ジェットブーツをエンジンとして使い、スカイウイングで姿勢制御をする。バーチャルであっても初めて空を飛んだ時は爽快感を感じたものだ。病みつきになってひたすら飛んでいたプレイヤーも居たらしい。

 あと、もしイージャに義翼を作ることになったらスカイウイングも参考にする予定だった。スキルレベル的にもそろそろ作れるとは思うんだけど……。


「フリッカも飛んでみたい? スカイウイングもジェットブーツもいずれ作る予定だよ?」

「い、いえ、私は……」

「ワタシはとんでみたい!」


 フリッカは恐怖感があるのか遠慮がちであったが、フィンが勢いよく手を上げた。おそらく拠点うちで一番空を飛んで――ゼファーに乗っているので、人一倍自力飛行に憧れがあるのかもしれない。

 ……なんとなくゼファーがショックを受けた顔をしている気がしないでもないけど……一緒の空の旅がそんなに楽しかったのだろうか。実際、わたしに次いでフィンに懐いている節があるしね。でもスカイウイングでも一緒に飛べるから心配は無用だよ。

 しかし、フィンが使うことを考えると責任重大だ。わたしの場合はゲームの時の感覚もあるから多分大丈夫だけど、一から練習するとなるとかなり大変だろう。制御を誤って落下したり建物や木にぶつかったりしたら大ケガを負ってしまう。

 ゲームだったらLPライフポイントが減るだけだし、死んでも復活リスポーン出来るから何も問題はなかった。しかし現実アステリアではそうもいかない。身代わり装備があれば死にはしなくても、とても痛い。その上、痛みが恐怖を呼んで二度と飛べなくなってしまうかもしれない。

 であれば、何かクッション系もしくは痛みそのものを無効化するアイテムを作らないといけないな。クッション、物理無効と考えるとやはりスライム素材から考えて――


「……リオンお義姉ちゃんが、自分の世界に入っちゃった……」

「よくあることです」


 そうやってみんなが生暖かい視線で見ていることにも気付かず、ブツブツとアイテム案を考えるわたしであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >鳥は空を飛べるように骨格からして軽いのだと聞いたことがある。   そそ。  骨を折って覗き込むと、スッカスカで骨粗しょう症並に穴だらけみたいです。  んで、飛べる鳥が飛べる上限は諸説あり…
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