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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間六

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345/515

はんどう

 窓の外から、微かに鳥のさえずりが聞こえてくる。

 もう朝か……とぼんやり頭に浮かぶが押し寄せてくる眠気に抗えず、モゾリと動くだけで終わった。


「リオン様。朝ですが……どうなさいますか?」


 間近にいるのに、ギリギリ耳に届く程度の囁き。ありがたくも気を遣われているからだ。

 ギュウとしがみ付き「……もうちょっと……」とくぐもった声で答える。

 小さな子どもがぐずるような仕草に呆れるでも怒るでもなく、頭を撫でる感触だけが追加された。


「では、今朝は私が朝食を用意しますね。反対側にウルさんが居ますので、そちらへどうぞ」

「うー……」


 素直に頷き(少なくとも頷いたつもりではある)、ほんのりと花の香りがする温もりから離れてゴロリと半回転。瞼がくっついた状態で全然見えないのだが、手探りで探し当ててソレを胸元にかき抱く。今度は乾いた風のような匂いがした。「ぬあぁ」とか何か聞こえたけど、気に留まる前にすり抜けていく。

 ギシリと、背後で動く気配。フリッカが立ち上がったのだろう。


「ではウルさん、よろしくお願いしますね」

「ま、待つのだフリッカ」

「待つのは構いませんが……朝食が遅くなりますよ?」

「ぐぬぬ……!」


 そんなやり取りが、再び遠くなる意識のフチで行われていた。


 ……ぐぅ。



 しばらくの後。

 「おなかが減ったのだ……!」とウルに訴えられて、目が覚める。


「……う……? ……わたしは放っておいて、食べに行っても、いいよー……?」

「……これだけしっかり捕まえておいてそれを言うのか……?」

「…………あれぇ?」


 恨みがましいウルの視線。

 が、めちゃくちゃ近い。

 それもそうだ。わたしはぬいぐるみよろしく、ウルの頭を抱えていたのだ。どうしてそうなっているのか全くもって記憶にない。

 わたしはウルを離しつつ、横向きの姿勢から仰向けになる。「はああぁ」と隣で大きな溜息がした。……苦しかったのかな、ごめんて。


「リオンはご飯を食べに行かぬのか?」

「うー……まだ眠い……けど、行く……」


 わたしが作ってないってことはフリッカが作ってくれているのだ。出来立てを食べなければ申し訳ない……と言うよりは勿体ない。

 あくびを連発しフラフラと歩いていたせいで途中からウルに手を引かれながら、食堂へと移動する。


「おはようー……」

「おはようございます、リオン様」


 フリッカを皮切りに、皆が挨拶を返してくる。フィン、イージャ、ウェルグスさん、ハーヴィさん、ルーグくん、全員が既に揃っていた。どうやらわたしが最後のようだ。ウルのお腹がリミットを迎えるわけである。これ以上待たせるのも危険なのでとっとといただきますをして朝食を開始した。

 なお、神様ズのご飯はわたしたちの分より先に別の場所に用意してあるとのことで。文句一つ言わずに代わってくれたフリッカには頭が上がらない。


「ふふ、最近はフィンも一緒に作ってくれるんですよ?」

「そうなの? どれどれ?」

「い、いわないでお姉ちゃん!」


 フィンが慌ててストップをかけてくるけど……言われなくてもどれがフィン作かは見ればすぐにわかる。

 わたしのお皿には綺麗な半熟の目玉焼きが二つ。フリッカとフィンのお皿にはちょっと焦げた固焼き目玉焼きが二つ。

 あえて指摘せず、出来るだけさりげなく(のつもりではあったけど、きっとフィンからすればすっとぼけにしか聞こえなかったことだろう)フリッカに言う。


「今日は固焼きも食べたい気分だなー。フリッカ、一つ交換しない?」

「――えぇ。どうぞどうぞ」

「えっ、ちょっとまって――」


 フィンが止めるが、フリッカも笑顔で取り合わない。快く交換に応じてくれた。

 あわあわとうろたえるフィンに気付かないフリをして、目玉焼きを口に入れる。

 ……明らかに焼きすぎで黄身がもっさりしてて、端っこがジャリっとしてる。塩を掛けすぎで味が濃い。

 それでも、わたしには。


「ま、まって。ねぇ、なくほどマズイの……?」

「……違うよ。とても美味しいよ」

「……え、えぇ……??」


 フィンにはドン引きされてしまったが、本当に不味くて泣いたわけではないのだ。

 こうやって誰かの料理を味わえることが、平和な世界が、とても嬉しくて、ホロリときてしまっただけなのだ。……我ながら情緒不安定にもほどがあるな。



 朝食を終えて。いつものわたしであれば何かしら作りに行くところだけども、眠くて仕方がなかったので午前は休むことに。みんながあくせく働いている中、ぐうたらするのは少々申し訳ない気持ちがある。でも冥界で頑張ったので許してほしい。

 自室に戻りベッドにごろりと寝転ぶ。枕はフリッカの太ももだ。……わたしが強要したわけではなく立候補してきたのだと一応弁明しておく。


「……リオン様、大丈夫ですか?」

「んー……? 眠いだけで、大丈夫だよー……」

「……モノ作りの頻度が減っているようですので……」


 睡眠時間が増えているのだからその分他の時間が削れることになる。ただわたしの場合は大半がモノ作りタイムなので、モノ作りが減ってしまうのは自明の理だ。

 けれど、モノ作りをしたくないと言うわけではない。一時的に体が休息を求めているだけだろう。スキンシップもその一環で、戻ってきてから抱き付く回数が増えたように思う。


「リオン様が甘えてくださるのは大変嬉しいのですが……一つ、質問が」

「なにー……?」

「光神様に抱き付いたりはしなかったのですか?」

「ブフッ」


 衝撃的すぎる発言に眠気がぶっ飛び、上体を起こす。

 なんでそんな質問が出てきたの……!? ひょっとして浮気疑惑を持たれている!?


「そうではなく……非常に精神的に消耗していらっしゃるようなので」

「ん、んん……? や、確かに冥界ではずっと寂しさを感じてたけど……だからって相手は神様だよ……!?」

「? 光神様も家族枠ではないのですか?」

「家族って……自称姉と自称兄なら居るけどさぁ……!」


 これもあのヒトたちが勝手に言っているだけでさすがにそこまでの気安く接することは出来ないし、あのヒトたちに理由なく抱き付ける勇気はないなぁ!

 ……まぁ、その、寝ぼけてアイティに抱き付いたことは数回あるけどもゲフンゲフン。


「それです」

「え――」


 アウト判定だった!?

 ごめんなさい――と口をつく前に。


「光神様のことを、他の神様方と違って名前で呼んでいますよね」

「え? そっち? それはアイティが要求してきたことであって、姉、兄呼びよりずっとハードル低いし……」

「少なくとも光神様は、リオン様を家族のように思っている、と私は感じています」

「……そうなん……?」


 アイティは良いヒトだし、手が掛かってばかりいたわたしに情でも湧いたのかしらん……? 情が湧いたと言うならわたしの方もだけど。あと常識(じん)すぎて、フリーダムな神様たちに比べてついつい頼ってしまう。

 「……まずその認識と対応が私たちの感覚からずれているのですが」とポツリと聞こえてきたが、そっと目を逸らすことで回答とする。もう今更です。


「えぇとつまり……フリッカとしては、ここまで消耗する前に何とかしてほしかった、と……?」

「……そうですね。今回は幸いにして致命的な問題にまではなっていないようですが……そうなってからでは遅いので」


 むぅ……どうやらわたしの情緒不安定っぷりが相当に不安にさせているようだ。

 他でもないフリッカに言われてしまうのは寂しいような、そうさせたわたしが悪いような。いや、すでにフリッカ以外、特にウルとかに抱き付いてるわたしが今更何を気にしているんだって言われそうだけども。

 今後……今後似たようなことがあるなんて想像するだけでも嫌だけど、もしもの時の自分の機嫌の取り方くらいはきちんと考えるようにしよう。

 ……それはそれとして、だ。


 わたしはフリッカの肩を押し、ベッドに倒した。

 唐突な行動に目を瞬くフリッカと視線を合わせるように、上から覗き込む。

 頬に手を添え、にっこりと笑い。


「今はきみが居るんだから……きみが癒してくれるよね?」

「――はい、喜んで」


 頷くや否や、わたしはフリッカの首筋に顔を埋め、噛みつくようにキスをした。

なお、噛み痕はポーションで治しました(無粋な補足(いやまだ昼前だし……

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― 新着の感想 ―
[一言] 返事の返事失礼しますねー  あー、ほら。  ヤる事はヤってても、もっと先が有るじゃないですか。  創造の力で二人の細胞(意味深)を掛け合せれば出来そうだし。  ……なにがって?  こづ…
[一言] >なお、噛み痕はポーションで治しました(無粋な補足(いやまだ昼前だし…… フリッカ「…………ちっ。 ヘタレが」  フリッカさんはもっとその先を求めているようです。
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