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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間六

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火神の鍛冶と神力

「ふぅ……ごちそうさまだ!」


 テーブルの上の食べ物があらかたなくなったところで、火神はペロリと唇をなめつつ腹をたたき、一息つく。

 なお、食べた量はウルの方が多い。ちゃんとご飯は食べてるのに何でですかねぇ……。それでいて太らないのは一体どれだけ基礎代謝が高いのだろうか。まぁわたしも体が特殊だから大きな体型の変化はないのだけれども。拠点うちに住むヒトたちは皆ダイエットとかしていないけど、体重やら体型やらを気にしているヒトに知られたらどうなることやら。


「これくらい回復したのであれば、一回なら何とかなりそうだな!」


 火神が手を握ったり開いたりして動きを確認している。一回なら、と言うのは鍛冶についてだろう。軽食……普通に一食分に近い量を食べていたのだけれども、それだけで神様の鍛冶一回分になるのはかなりコスパがいいのか、わたしの料理が良かったのか。


「酒と飯の礼だ。じっくり見ていくといい!」


 立ち上がり、ゆっくり炉へと歩み寄る。ひとまずお酒の影響はなさそうに見えるけど……まぁ怪しくなってきたらウルに制止をお願いしよう。ウェルグスさんとハーヴィさんは、崇拝対象である火神の鍛冶を見られるとなって緊張が高まっているようだ。

 まず火神は炉の前にかがみこみ……中に入っていた炭を火かき棒で掻き出した。ドワーフ夫婦が慌てて「代わります!」と交代する。

 しばしの後、空っぽになった炉に「うむ」と一つ頷いてから、火神は指をパチりと鳴らす。ボッと親指サイズの火が立ち上った。

 もしや……【火神の火種】か……!

 この火を使用してアイテムを作成するとアイテムの質が上がるのだ。高ランクの料理や鍛冶には必須の代物である。

 もう一度指を弾くと、火種が飛んで炉の中へと入る。途端にボウ!と火の勢いが強くなった。


「火にも神力を籠めるのが最初のポイントだな!」


 と、高説を述べるのだが。


「……あの、オラたちは神力なんて使えんのですが……」


 おずおずとウェルグスさんが口に出す。

 うん、そりゃそうだ。神様以外が神力なんて持っているわけがない。

 しかし。


「ハハハ、お前たちが励めば加護を授けてやろう。さすればヒトの身ではあっても多少は火に神力を籠められよう。とは言え、今はまだ力が足りぬゆえ授けるのは無理だがな」

「……え? 加護があれば神力が使えるんです?」


 知らなかった。確かに、神様たちから加護をもらった後にはアイテムの質が良くなったり、作れるアイテムの幅が広がったりするのだけれども……。

 そんな呟きをしたら、火神から呆れた目を向けられる。


「リオン……お前はそれだけ加護を授かっておきながら……嘆かわしいぞ」

「え? え?」


 火神の目が冷た……くはないけど、生温い。

 わたしは何か、大きな思い違いをしているのだろうか……?


「……ふむ。リオンよ、何でもいいからこの場でスキルを使って作ってみるがいい」

「え? ……はい、わかりました」


 素直に頷き、いつもの創造神の像を作成してみる。素材はただの石で、サイズは手のひらサイズだ。

 火神にそれを見せると、触るでもなく一瞥しただけで判断を下す。


「なんだ、ちゃんと使えているではないか。……まぁ思ったよりはずっと少ないのだが。もっと精進するとよい」

「え? え??」

「……自覚なしに使っているのか。それはいかんな。むしろこれだけ神が居て誰も教えなかったのか?」

「……聞いたことはないですねぇ……」


 記憶力に自信があるわけではないけど、そんな重要そうなことを聞いたら忘れるはずがない。なので、本当に聞いてない。

 ……はずだけど、もしもモノ作りで集中している時に言われてたら耳に入ってない可能性もあるな……? くそ、自分が信用出来ない……!


「いやはや、嘆かわしいのは俺たちの方であったか。リオンは神のた――……ごほん、いや、なんでもない」


 火神が言い淀むなんて珍しい。でも神様たちが情報制限しているのは今に始まったことじゃないので、突っ込んだところで答えてはくれないだろう。


「えっと……この神力って、どの神様の加護をもらってるかわかったりします……?」

「いや、お前はプロメーティアの神子であるから……と言うよりはおそらく、特製の神造人間ドールであるので、創造神の神力に変換されているな」

「……でも、火神様はわたしが既に加護を授かっている、とわかるんですよね?」

「俺たちにしかわからない……波長とでも言えばいいか。そのような物が出ているからな。普通はわからんよ」


 なる、ほど?

 つまり、わたしが迂闊に外で力を使うことで『封印したはずの神の加護を授かっている、だと……?』などと黒幕に知られることはなさそう、と言うことでよいのだろうか。きっと創造神はその辺りも考えてこの体を作ってくれたのだろう。


「まぁ、神力についてはおいおいだ。今は俺の鍛冶だ!」


 そうだった。さっきからドワーフ夫婦が待ち遠しそうにしているのだ。これ以上伸ばすのは悪い。


「リオン、何か素材をくれ」

「えぇと……これでいいですか?」


 せっかくの火神の鍛冶なので、とっておきのミスリルインゴットを渡す。少量しかないので使わずにおいたのが功を奏した。


「ふむ。少々不純物……いや、不純魔力が混じっているが及第点か」

「不純魔力? ミスリルって魔力が通っている物では……?」

「そうだが、この場合は複数属性が混じっていることを現す。用途にも依るが特化させることが望ましい。ミスリルは魔力・神力を通しやすいゆえに骨が折れるだろうが、抜けるようになっておくとよいぞ」


 そう言いながら火神はインゴットに手を這わせる。おそらく属性を抜いているのだろう。微細ではあるが力が動いているのが何となくわかる。ドワーフ夫婦は難しそうな顔で睨みつけるようにしていた。

 しかし、抜く、かぁ。元々の属性を利用することや籠めるのはしょっちゅうだけど、抜くのはやったことないな。今度から意識してみよう。


 火神はインゴットをくべる。火神の火種の力か、すぐに溶けて型へと流し込まれていった。

 型から取り出し金床に置く。さきほどのインゴットの状態よりも力が籠められるいるのが見るだけでもわかる。

 そしてどこからともなく(いやアイテムボックスだけど)火箸と小槌を取り出した。小槌とは言ったものの、頭の部分は火神の両手のひら分くらいのサイズはある。火神の持ち物だけあって作りもしっかりしており、非常に重そうだ。

 火箸でミスリルを掴み、「フン!」と勢いよく小槌を打ち下ろし。


 カキーン! 想定より遥かに甲高い音が鳴った。


「ミスリルは! 適切に魔力・神力を籠めれば! 硬くなっていくのだ!!」


 えぇと……普通の鍛造は叩いて圧力を加えることで強度を高める、と言う話だけど、ミスリルの場合は魔力・神力を加えることで同様の効果を得る、と言うこと、なのかな……?

 しかし『適切に』と火神は簡単に言うが、やってることは全然簡単そうに見えない。インパクトの瞬間に神力を流し込んでいるのだろうけど、ただ流すだけではなくきっちりコントロールされているはずだ。その手法が、こうして見ているだけではサッパリわからない。そこはさすがの鍛冶の神様と言うべきか。

 カンカンカンと何度も音が響き、ミスリルはみるみると小型ナイフの形へと成形されていく。インゴットに比べてかなり小さくなっているのは、圧縮されているからか。


「これで! 終わりだ!!」


 火神の咆哮と、一際大きな音。

 完成したナイフは仄かに赤い光を纏い、明らかに火の力を帯びていることがわかる。


 神の作成したアイテム。

 モノ作りの極地を目の当たりにして、体が打ち震えた。

 光剣クラウ・ソラスを初めて見た時と同じくらいの情動に、右腕がうずき――


 バタン! と大きな音がして、一瞬で思考が霧散した。

 ……音がした方を見ると……火神が後ろ向きにぶっ倒れていた。白目を剥いているくせに、どこか満足そうな顔で。

 わたしも、ウェルグスさんも、ハーヴィさんも、しばしの沈黙の後。


「「「って、火神様ああああああっ!?」」」



 どうやら火神は補充した分以上の神力を使ってしまったらしい、と水神談。

 何してんすか……。


 なお、この時作成したナイフは鍛冶場に飾られるようになった。

 火神としては使ってほしそうだったけど扱いきれないし……目標として掲げることで、わたしたち鍛冶組のやる気向上になっていますんで。

なお、メモをしてもメモの存在ごと忘れるのが作者です_(´ཀ`」 ∠)_(自分ガ信用出来ナイ

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[一言] >「いやはや、嘆かわしいのは俺たちの方であったか。リオンは神のた――……ごほん、いや、なんでもない」  神のた―― たわしかな?  \パ・ジェ・□!/ \パ・ジェ・□!/(いきなり飛んでく…
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