表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間六

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

339/515

とんでもないのがやって来た

 手が治り、火神も解放出来たことで、わたしが次に行ったのはレヴァイアサンのお墓作りだ。

 これまで【獅子王の魂】と【森王の魂】のために作った墓の近くに小さな池を作成し、その中央、水底に【海王の魂】を安置させることにした。

 本当なら故郷?である水神の領域まで連れて行ってあげたかったけれども……管理しきれない場所に作って、モンスターに荒らされたら目も当てられないので止めておいた。なお、ウルたちは一度近隣を訪れてはいるけれど、わたしと違って創造神像を設置したところで帰還石は作成出来ないので、再訪するにはまた遠路の移動から始めなければいけない。ゼファーが大きくなってるから、少人数なら空を飛んで行くことで楽になってるとは思うけどね。


「……あれ。アステリオス」


 お墓を作ってお祈りが終わり、待っててくれたウルとフリッカに帰りを促そうとしたところ、アステリオスが来訪した。

 彼の魂の元がベヒーモスだからだろうか。同じ終末の獣として思うところもあるのかもしれないな。お墓の上にお供え用の小さな舟を浮かべていたのだが、そこにアステリオスも果物を供えていった。

 ……ひとまず、レヴァイアサンはベヒーモス(アステリオス)と同じようにゴーレム化する気は今のところない。【海王の魂】は何の反応もないし、アステリオスがせっついてくることもなかった。


 アステリオスはじーっとレヴァイアサンのお墓の前に座って見詰めていたのだが、唐突に頭を上げてキョロキョロとし始める。


「ん? 何かある?」

「……む? 何やら、どこかで見知った気配が……するような……」


 アステリオスにつられて空を見上げてみるが、何も見つからない。しかしウルが言うからには実際に何かがあるのだろう。警戒をしていないってことはモンスターの襲撃でもないとは思うけれど……見知った気配って何だろう?

 すぐにその答えは知ることになる。

 どこからか飛んできた一羽の小鳥が、わたしの肩に止まることによって。


 サイズは長い尾羽まで含めて全長四十センチくらい。インコ……にしては首がちょっと長い。

 目の覚めるような鮮やかなスカイブルーの羽毛。赤に染まった先端。

 ……このカラーリング、どこかで、見たことがある……ような……。


「……貴様、まさか……ジズーか?」

「「えっ」」


 既視感のある見た目に、呟くウル。

 わたしとフリッカはあまりの内容にそろって小さく声を上げた。

 改めてマジマジと確認するまでもなく本(にん)から挨拶される。


『その通りだ。久しいな、神子だちよ』

「あ、はい。お久しぶりです。……って、待って待って、なんでジズーがこんなところに!? て言うかめっちゃ小さくなってますよねぇ!?」


 わたしたちが山の中で出会ったジズーは全長二十メートルはあった。それがなんでこんなコンパクトサイズになっているのか……!


『それはまぁ、話すと長いような短い話になるのだが』

「短いんですかい! あ、いや、説明は是非聞きたいですけどちょっと待ってください。神様たち――風神様も居るので皆の前でお願いします……!」

『む、あいつも居るのか』


 そうしてわたしたちは(アステリオスも一緒に)、小鳥ジズーを連れて神様ズハウスへ移動することになった。



 xxxxx



 ジズーはリオンとの遭遇後も変わらず、ダンジョン核の上に陣取っていた。

 長命種にありがちなゆったりした思考回路で、特に何か行動をするでもなく、天から差し込む光を浴びてウトウトする日々。

 しかし……ある日。

 その男は、現れた。


「……はぁ。全く……こんな所に居たのか」


 翼もないのに天の穴より侵入し、足音を立てることなくフワリとあえてジズーの目の前に着地をする。

 ジズーに向けるその目は非常に怠そうで、それでいてニヤニヤと、粘つくような悪意を滲ませていた。


「お前があの山から移動していたなんて……ひょっとしたら僕から逃げていたのかな?」

『……』

「いや別にさぁ、僕はお前のことなんて大して気にしてなかったけどね? ここまでずっと見つからなかったのがその証拠だからね?」


 答えないジズーに男は聞いてもいないことをまくしたてる。何の事情も知らずに聞けば負け惜しみに聞こえるかもしれないセリフであるが、事実この男はジズー探索に全くもって本気を出していなかったことをジズーは理解する。

 ……と言うより、思い出した(・・・・・)。寝すぎたせいか、別の要因か、どうにも過去の記憶があやふやだった。


『……それで、今まで見逃してくれていたのに、気が変わった理由はなんなのだ?』

「それがさぁー、創造神様が新たに神子を任命しちゃったんだよねぇ」


 男の発言と共に、彼の神子のことをジズーは脳裏に思い浮かべる。もちろん外には出さない。すでに会っていると知られれば痛くもない腹を探られかねないからだ。


「万が一、うっかり、その子がお前の肉を喰って狂っちゃったら大変だろう?」

『……さすが、うっかり狂った者(・・・・・・・・)が言うと説得力があるな』

「あぁ?」


 ジズーとしては『狂ったら大変なのではなく、神子が力を得たら厄介なのだろうな』と想像していた。

 だから本心は隠し軽く揶揄するくらいのつもりで言ったのだが、癇に障ったのか男の声が一段低くなり、威圧が飛ばされてきた。巨体であるのに、全身に重しを付けられたような圧迫感が襲い掛かる。

 思わず『グ……』と呻き声を上げると男は溜飲が下がったのか、ニヤと笑みを浮かべてから威圧を解除する。


「ははは、面白い冗談だ。この俺がお前程度に影響されたと思ったのか?」

『……』


 狂わずともそのような思考回路(・・・・・・・・・)であれば、余計に頭がおかしいのだがな。と言う感想はさすがに呑み込んでおいた。


「だからまぁ、俺としては未来の悲劇を回避するために……てめぇを潰しておこうかと。おーっと、逃げられると思うなよ? 咄嗟に張ったから網目はデカいけど、てめぇくらいの図体なら十分に阻止出来るからな」


 ジズーは上空を見上げる。穴の部分に目には見えないが魔力的な網が張ってあるのがわかった。確かに、この体であれば通り抜けることは出来ないだろう。

 ただし――この体であれば(・・・・・・・)、だ。


『わざわざご丁寧にありがとう。……では、さらばだ』

「は?」


 男が呆けている間にジズーは風で自分の体を切り刻む(・・・・・・・・・)。おまけで、ずっと下に敷いていた魔石に『燃やせ』と魔力を流して炎を発生させ、消し炭にまでした。

 風と炎と血から咄嗟に身を庇っている間に、全てが実行されてしまった。壮絶な自殺に、さしもの男もしばらく言葉が出ないでいたが。


「……あー……まぁいっか」


 最後には『どうでもいい』とすっかり興味を失い、その場を去るのだった。



 xxxxx



「え、ちょっと待って。……じゃあ今わたしの目の前に居るジズーは何? と言うか、わたしのせい……?」

ませき部分だけ切り離した一部だ。本体を一部と言うのか適切かどうかは知らないが。其方が切っ掛けではあるだろうが、アレのせいであって其方のせいではない。気にするな』

「……」


 ジズーいわく、小鳥状態になり、体の大半を目くらましにして網目からすり抜けてきたそうだ。それでパタパタと適当に飛んでいたら、偶然にわたしの拠点に辿り着いた、と。

 わたしとしては罪悪感と盛大な自殺自演に(誤字にあらず)目を白黒とさせていただけだけど、ウルには看過出来ない点もあったようで鋭く問いかけをする。


「……待てジズーよ。ここに貴様が居るのであれば、その男はここを狙ってくるのではないか?」


 その言葉にわたしはウゲッとなった。もしそんなことになってしまったら、ジズーには悪いけどとても困る。

 が、それは杞憂だったようで。


『それはない。アレの目的は肉だ。この加食部分の少ない体に価値なんてない』

「……まぁ、丸ごと食べたところで腹一分目にも満たなさそうだの」


 ウルの胃袋と一緒にしないでほしい気持ちはあるけど、元々の巨体に比べれば肉なんて無いようなものであるのは事実だ。

 ひとまずの危機はなさそうだ、と神様たち含めて空気が弛緩していく。


「いやぁ、ジズーも大変だったんだねぇ」

『メルキュリスもな』

「はは、そうだね。いやしかし、そんなに小さくなっちゃって……ん? つい最近同じ感想を――って待ってごめんアイティ睨まないで」


 風神が怯えて肩をすくめる。わたしも同じことを思ったけど口にしない分別はある。


「こほん。で、えぇと、ジズーはどうするんだい?」

『……ベヒーモスも居るようだし、ここにお邪魔させてもらおう。もちろん、アレに見つかる愚は犯さないし、もしもの時は出ていくさ』


 おっと、アステリオスがベヒーモスだとしっかりと気付いていたようだ。……まぁ、ベヒーモスも居るんだし(魂状態ならレヴァイアサンも追加で)今更ジズーが増えたところで大して変わりはない、か?

 はぁ、まさか終末の獣全員が集まるなんて思わなかったよ。全員元の姿とは違うけど。


 そうしてジズーは、風神の頭かアステリオスの肩でよく見かけるようになりましたとさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >はぁ、まさか終末の獣全員が集まるなんて思わなかったよ。全員元の姿とは違うけど。  あと少しで神々と終末の獣が1ヶ所に勢揃い。  …………これがその辺のに知られたら、どんな天変地異が起こる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ