神様たちの裏話
時系列は『五柱目の神様』より前の話です。
「……アイティ……そんな小さな姿になってしまうなんて……!」
創造神との再会早々に泣き崩れられて、再会の喜び以上に申し訳なさを感じてしまった。想定通りと言えば想定通りなのだが……実際に直面してしまうと圧し掛かってきてしまうものなのだな。
これなら水神みたいにはしゃがれたり、風神みたいに笑ってくれる方がマシ……いや、やはりこれはこれでイラっと来るものがある。地神のようにさらりと流してくれるのが一番良い。……そう言えばリオンも割とさらりと流した方ではあったな。
「……あまり泣かないでくれプロメーティア。今のところ、この姿でそこまで不便は感じていないのだ」
以前のように力を行使出来ないので不便と言えば不便なのだが、現状を聞かされたことにより現世ではあまり力を使ってはいけないことが判明している。力が使えないのなら姿が本来のものであろうと今のままであろうと大して変わりはない。
それになんだかんだでこの姿に慣れてきたこともある。だから本当に、そこまで泣かれるようなことでもないのだ。リオンがまた寝ており、今この場には神たちしか居らず人目を気にする必要はないとは言え、ずっと泣かれているのは居心地が非常に悪い。
「……そう、ですか? ……改めて見ると、その姿のアイティは可愛らしいですね?」
「…………………………アリガトウ」
褒められるのも複雑な気分だが(我ながら面倒臭いことを言っている自覚はある)、プロメーティアが復活したので呑み込んだ。
「そうそう、元のアイちゃんは美人さんだったけど、これはこれで可愛いくて良いのよねぇ。妹が出来たみたで嬉しいわぁ」
「うんうん、大きい時より優しくなっているし、僕としてはいっそこのままでも――」
「……あなたたちは黙っていてくれないか?」
この二柱は隙あらばイジってこようとするのはなんなのだ……! 静かなレーアを見習ってほしいものだ。
キッと睨みつけて牽制してから、改めてプロメーティアに向き直る。
「一応聞くが、元に戻せるか?」
「……申し訳ありません。まだそこまでの余力がないのです……」
「謝らなくていい。貴女のせいではないのだから」
これも想定通りの答えなので特に落胆はない。ならば精々この姿を満喫することにしよう、と開き直ることにした。もちろん心の中で思うだけで宣言はしない。二柱が非常にウザいことになるのが目に見えている。
……のだが、言っても言わなくても変わらないのかもしれない。
「ちなみにリッちゃんに聞いてみたら、『大きい方も見てみたいけど、今もアリですね』と言ってたわよ?」
「何故そのような阿呆な質問をリオンにするのだ!? そして何故その答えを私に伝えるのだ!?」
「あら、すでに神子リオンと仲良しなのですね?」
のんきに笑うプロメーティアにまだ何も報告していないことに気付いたので、覚えている範囲での詳細を報告していく。ネフティーには物申したいことが多すぎるが後回しだ。
全てを報告し終えると、プロメーティアは長い長い溜息を吐いた。
「……よくぞ消滅せずに戻ってきてくれました」
「貴女が神子として選出してくれたリオンのおかげだ。まぁ、リオンも冥界に落ちたのは不運ではあるが……不幸中の幸いだったな」
おそらくだが、リオン以外の者であれば私は未だに冥界を彷徨っていたことだろう。とにかく素材を貯め込み、とにかくモノ作りが好きで……あの女神の加護を受けたリオンでなければ、本当にどうなっていたことか。
「ところでプロメーティア。他の皆も。……リオンは何故、あの女神の加護を受けているのだ? そもそもどうやって受けたのだ?」
「まぁ、普通は疑問に思うさねぇ……」
レーアたちも曖昧な表情で頷いている。歓迎していない、と言うよりは、私同様に謎であると言うところだろうか。
「どうやって、と言うのは私にもわかりません。その……いつの間にか増えていました」
「……なんだって?」
プロメーティアすら把握していない?
確かに今現在あの女神はプロメーティアですら会えない、何処とも知れぬ場所に封じられているらしいが……だからこそ、リオンがどうやって会ったのかが更なる謎となる。
「ただ、私がリオンを招く際にあの神の力を借りているので、全くの無縁ではないはずです」
「ん……? ……会えない相手にどうやって借りた?」
「稀に、あの神の精神……魂と言い換えましょうか。それが世界と繋がるのです」
「……世界の半分であるから、完璧に封じるのは不可能と言ったところか……?」
「おそらく」と頷くプロメーティア。リオンの件だけでなく、他にも何件か力を借りているらしい。その内の一つについても聞かされ、目を丸くする私を他所に、ハッとレーアが何かに気付く。
「無縁ではないって……確実にその影響だろうね。ほら、リオンはずっとアレを身に着けているだろう? ほんの一欠けらであっても、本神の力が混ざっていれば繋がりもするんじゃないか?」
「「……あ」」
リオンの着替えの時に何度か目に入った物。それが何なのか聞いてもいたのに、何故結びつかなかったのか……! そしてプロメーティアすら気付いていなかったのはうっかりすぎないか……!
「つまりリッちゃんは、たまぁに魂の状態で会っているってことかしらぁ?」
「……うわぁおっかない。僕だったらそんな剥き出しの状態で会うなんて、想像するだけで震えちゃうよ」
ともかく、それで加護を受けるに至った……と言うことか。ひとまずの辻褄は合う、か?
しかし私にはまだ疑問がある。リオン本人が知らないだけならともかく、何故神たちの誰もが気付いていながら教えないのか、だ。
その問いにプロメーティアは困ったように笑うのだった。
「……それは……あの神が『その方が面白いから言うな』と……」
「……はい……?」
面白いから? そんな理由で?
いや確かに享楽的な面もある神ではあるが……! だからってプロメーティアもそんないい加減な理由に従っているのは何故だ……!
「い、いえ、私は別の理由からです」
「……ほぉう……?」
「リオンには、自分の考えで受け入れてほしいと思ったからです。私から言っては立場もあって『命令』になってしまいますので……」
「受け入れる? 力をか?」
「正確には――」
一拍間を置いてから、プロメーティアは言う。切なる願いを乗せて。
「その力も、世界には必要なのだと。創造だけでは、世界は成り立たないのだと」
「……」
その理想はわかる。わかるのだが……。
「だからって……相反する力を持たされて、体が壊れるとは思わなかったのか……?」
実際、リオンの右腕は壊れた。以前にも壊れたと聞いている。
時間が経てば治るし、その力で救われた身ではあるが……ヒトには過ぎたる力ではないだろうか。
しかし、特殊な出自ゆえに力を受け入れる土壌はあるらしい。が、そもそも繋がるとは思っていなかったのでプロメーティアにとっても予定外だった、とのことで。あの女神の気紛れっぷりに全員が溜息を吐く。
「……気紛れもあるでしょうけれど、神子リオンのことを気に入ってしまったのかと……」
「それはまた……珍しいな」
と口にしてみたものの、腑に落ちてしまった。『あの偏屈屋が相手でもリオンならありえそうなことだ』と。
……私も随分と毒されているようだ。
「ともあれ、加護を受けたのはどうしようもない。無茶をしないようアタシたちで見守るしかないさね」
「見守ったところで、必要ならば無茶をしそうよねぇ」
「僕、以前リオンに雷の使い方を聞かれたよ。あれは利用する気満々でいっそ清々しいね!」
呆れたように言うが……皆の口元には『仕方ないなぁ』と言うような笑みが浮かんでいる。
毒されているのは、私だけではなかった。
「アイティも楽しそうですね?」
「え?」
「口、笑ってますよ?」
プロメーティアに指摘されて初めて、知らず知らずのうちに私も笑みを零していることに気付くのだった。
後日、リオンに「残念だが教えられない」と伝えたら、案の定「えぇー……」と残念そうな反応をされるのだった。
……その内自分で気付くだろう。




