五柱目の神様
腕が壊れているせいでモノ作りも出来ず、ダラダラと、久しぶりの太陽と平和を満喫すること十日ほど。
やっと腕も治り、わたしが真っ先にすることと言えば……まぁさすがに封神石から神様を解放することである。お待たせしました……。
今日の見学は神様ズに加えてウルとフリッカのみである。神様の弱った姿はあまり見られたくないだろう、とアイティが配慮を求めたからだ。……前回の風神様なんかごめん。
なお、神様ズを除いた人員がわたし一人だけじゃないのは、わたしが冥界に落とされた時の不安からウルもフリッカもまだ解放されておらず、常時必ずどちらか一人はくっついているからである。その辺りは神様ズも諦めて(?)生温かい視線になっているのはさておき。
「じゃあ始めますねー」
周囲を見回し、皆が問題ないと頷くのを確認してから、深呼吸をして、封神石と魔石を一緒に右手に乗せる。
今回は分離スキルは使わず普通の作成スキルで解放を行う。さすがにあんな危険な代物を二度と作りたくないからね。
しかし今にして思えば、四度目の神様の解放だけれども……一度もまともに作成スキルで解放した試しがないな?
一度目は封魔の魔石を作ろうとして何故か黒ずんだ残骸が出来て。二度目は浄化中に封印も一緒に壊れて、三度目は分離でアレなヤツを作り上げてしまって。つまりは作成スキルにこだわる必要もない、と言うことだとは思うのだけども。
……などと直前に考えたのがフラグになったのだろうか。
「作成――……あっ」
作成スキルを発動し、封印エネルギーを魔石に移して別のアイテムに変換する前に……封神石にヒビが入った。
音とわたしの間抜けな声に周囲がザワリとしたけど、わたし自身はそれどころではなかった。一時的に解放失敗するだけならともかく、封神石が壊れるような事態になれば封印されてる神様もタダでは済まないだろう。
と言うか、封神石が壊れるなんて思ってもみなかった。
だって、壊せるならば壊してしまえばいいのだ。わざわざ封印で済ませて存命のままで居させる必要はない。もしわたしが神様たちの敵の立場だったら後顧の憂いを断つために絶対に壊して、解放させないようにする。いやその前に封印せずに直接倒す方法を選択するかな? まぁこれは置いておこう。
しかし実際には封神石は壊されずに封印されたまま、と言うことは『壊すことが出来なかった』と言う意味だ。
……と思っていたけど、それが思い違いだとしたら?
壊すことが出来なかったのではなく。あえて封印するだけに留めておく何らかの理由があったのだとしたら?
壊そうと思えば壊せるのであれば?
や、やばいやばいやばい……!
どうしよう? ここから封神石を修復出来るかどうか試す? 本末転倒な感じがしないでもないけど、このまま壊れてダメになるよりは……!
焦りで、治ったと思ったのに実はそうではなかったのか、右腕がズキリとする。
……まさか、これのせいじゃ――
そんな思いが頭を過った時、もう一度痛みが走り、逆に思考が冷静になる。
あぁ、そうだ……いっそ。
――封印の機能を、壊してしまえばいいのだ。
刹那。
バキリと大きな音が響いてヒビが一層大きくなり。
割れ目から、ゴウ!と勢いよく炎が噴き出した。
「リオン!!」
「リオン様!?」
「――いや待て、落ち着け! あれは――」
熱さを感じたものの、炎はわたしの手を焼くことはなかった。
封神石が浮き上がりながら炎に包まれ、ボロボロと剥がれた破片が燃え尽きていく。
やがて、一際大きな炎が柱のように燃え上がり。
炎が晴れた、その中には。
「俺が! 火神!! ヘファイストだ!!!」
仁王立ちした火神が、吼えた。
灼熱の炎の色をした髪。浅黒い肌。
見た目は二十代後半で、背は高く、全身バランスの取れた筋肉が付き。さりとてムキムキと言うほどではない、いわゆる細マッチョの美丈夫。
……なのだが。
その一言を発しただけで……バタリと、後ろに倒れるのだった。
誰も何もしゃべらず、沈黙が流れる。
展開についていけずたっぷり十数秒は呆然としてから、やっとわたしは再起動を果たし。
「か、火神様あああああっ!?」
わたしの叫びを皮切りに、皆の時が動き出すのだった。
「……ひとまず大きな問題はなさそうねぇ」
水神の診察によると、倒れた火神には汚染の跡はなく風神の時と同じく単にエネルギー切れらしい。その割りには解放直後のアレは何だったんだ、って感じだけれども。
「……まぁ、ヘファイストだしな。暑苦しい――もとい、根性とか気合とか、きっとそんな感じさね」
「……えぇー……?」
地神が目を逸らしながらよくわからない回答をする。
火神は火の神様だけあって、ゲーム中では熱血キャラであった。見た目も野性的な美形で女性プレイヤーに人気があり、一部の男性プレイヤーからもアニキと呼ばれて親しまれていた神だ。
が、地神の言うように、人によっては『暑苦しい』の評価になるのだろう。むしろ近しいだけにその評価が真なのかもしれない。
何かこう、おかしな神様ばかりですね……?
「ハハハ、おかしな神子筆頭に言われるなんてヘファイストも浮かばれないね!」
「うるさい神筆頭にも言われたくないと思うのだが」
「アイティはリオンには親切だけど僕には辛辣だね!?」
……地神は酒狂いだし、水神は謎の姉だし、風神はうるさいし、火神もおかしな神だとしたら……普段拠点に居ない創造神は別として、まともな神様は光神しか居ないのでは……?と不安がもたげてくる。まだ見ぬ闇神が普通でありますように……!
心の中でもやもやと考えていると、察せられたのかアイティが深刻そうな顔でわたしに告げてくる。
「……リオン。火神は……地神と同じくらい、いやそれ以上に酒好きだ。あまり迷惑かけないよう諫めるが、覚悟しておいてくれ」
「――」
思わず絶句して地神を見る。地神は「一緒にしないでおくれ!」と言っているが、地神レベルでアレなのに、それ以上とか辛すぎるんですけど……!?
「えぇと……強く生きろ、リオン」
「……その……可能な限りお手伝いしますので……」
ウルとフリッカがそれぞれに同情的な声で、左右から肩にポンと手を置いてくる。
いやこれはもう、ドワーフ夫婦に土下座して対応をお願いするしかないのでは……? 自分たちもお酒好きだし、ドワーフだけあって鍛冶の神でもある火神を崇めていたし、ピッタリなのでは……? うん、そうしよう。わたしはモノ作りは好きだけど、お酒だけに人生を捧げたいわけじゃないのだ……!
「……リッちゃんがモノ作りから逃げるって……相当な話よね。レーちゃんもこれを機にお酒を控えたらどうかしらぁ……?」
「なっ……何を言うんだネフティー!? それは困る……!」
「ハハハ、神様が神子を困らせてどうするの?って話だよねー」
「だから困らせ筆頭のメルキュリスに言われたくない!」
ぎゃあぎゃあと元気にやりあう神様たちを前に、アイティがわたしたちを見てポツリと尋ねる。
「……彼女らはいつもこうなのだろうか……?」
「……概ねわたしの記憶と一致するね」
「リオンが居ない時はここまでではなかったが……」
「急に元気になりましたよね……?」
「えっ」
思いもよらぬウルとフリッカの回答にわたしは戸惑う。
一方のアイティは「なるほど」と一つ頷いてから。
「つまり、全部リオンが悪……いわけではないが、リオンの影響か」
「ちょっと!!??」
「そうだろうな」
「そうでしょうね」
「ちょ、二人とも何を言ってるの!?」
全く影響がないとまでは言い切れないけど、でもやっぱりわたしのせいだなんて認めたくない……!
涙目でウルとフリッカに訴えては、宥められて。
そんなわたしたちを眺めてアイティは。
「……何とも賑やかな場所だな」
と、柔らかな笑顔を零すのだった。
これで第六章は終わりです。次話からは恒例の章間に入ります。
ここまで読んでいただきありがとうざいます。
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