まさかのおまけ
「えぇと……ウル、これをどこで手に入れたのかな……?」
「うむ、それはだな――」
そうして語られた内容は、ある意味シンプルであった。
わたしが冥界に落ちてから、カミルさんをリーダーにトランスポーターを作るための素材を集める日々。現世は冥界と違って素材が豊富なので、鉱石探知機を作るのだってそんなに難しくはない。早々にディメンションストーンの捜索にかかっていた。まぁ、ディメンションストーン自体の数が少ないので、そこで時間はかかるのだけれども。
そのディメンションストーンの反応がする場所の一つ。わたしが冥界に落ちる前、推定火神の封神石がありそうと目星を付けていた、水神の領域。
わたしが作っておいた、カミルさんが作ってくれた水中活動用の装備を身に着け、ウルたちとランガさんたちで協力をして水中探索を進めていくと、海底にダンジョンがあることがわかった。
ディメンションストーンはその中にあるようだし、中へと入るウルたち。水中のモンスターたちは強かったが、訓練を重ねてきたことで怪我人は発生しつつも奥まで進み、ガーディアンを倒してダンジョン核回収を達成。
ウルは相変わらずツールを壊してしまうので、その後のディメンションストーン採掘には参加出来ず、周辺の探索を続けていると――
「深い縦穴があってのう。妙な感覚がしたのでずーっと下まで潜っていったら、それが転がっておったのだ」
「……そういえばウルさん、少し別行動を取っていましたね。それがまさか……」
「いや、その、当時はバタバタしておったではないか。なので……うっかり忘れていたのだ……」
どうやら行動を共にしていたフリッカすら知らなかったらしい。
取り込み中だったとは言え、まさか神様が存在を忘れられるなんて……ホロリと心の中で涙を零す。忘れられたのはわたしのせいだけど。
「ちなみにそれ、いつの話……?」
「えぇと……二月前、かの……?」
「ちょ、かなり前じゃないですかぁ!?」
そんなに放置をしていたなんて、神様大丈夫なのかな!?
すぐに解放を……って、今わたしの腕壊れてたああああっ!
急いでカミルさんにお願いをして……!と慌てていたのだけれども、地神曰く。
「アイテムボックスに放置されていたくらいなら悪化はしない。慌てなくていいさね」
とのことで。
……いやでも、早く解放した方がいいのでは……?
「見たところ汚染されているわけでもなさそうだし、リッちゃんの腕が治ってからでいいわよぉ」
「百年封印されていたんだから、今更あと数日遅くなったところで変わらないしね」
水神にも風神にも急がなくていいと言われ、アイティは黙って肩をすくめ。
……まぁ、神様たちがそう言うなら本当に大丈夫なのだろう。
封印を解くのは後日に回して、わたしは今度はアルバに会いに行くことにした。……もちろんまたもウルに背負われて。
ゼファーと一緒に居るって話だけど……寝床はどうしたのだろう? さすがにドラゴン二匹入れるほど大きく作ってないしなぁ。ドラゴンであれば別に野宿したって平気だろうけど、アルバの場合は日光に不安があるからなぁ。
「それならウェルグスさんが拡張していましたよ。ただ突貫工事なので、後できちんと作り直してあげてほしいそうです」
「なるほど」
まだドワーフ一家とは顔を合わせていなかったな。アルバの後に顔を見せに行こう。もうちょっと腕の調子がよくなったらレグルスとリーゼに会いに行って、カミルさんたちの居るアイロ村や、ティガーさんたちの居るバートル村にも行かないとな。忙しいな。
「……あれ」
拠点の端の方にあるゼファーの寝床は……わたしの記憶より二回りほど大きくなっていた。
……そう言えば、今更だけれども……聞いてないことがあったな。ごくりと唾を飲んで、おそるおそる尋ねる。
「ところで……冥界って太陽がないせいで時間感覚がめっちゃ狂ってるんだけど……わたしが冥界に落ちてから戻ってくるまで、どれくらい経ってる……?」
「……一年と季節一つ分だの」
「今は夏の終わりですね」
「まじで!?」
一年以上!? そんなに経ってたの!?
何となく半年は経っていそうだなぁとは思ってたけど、その倍以上だったとは……! いや気温から気付けって話だけれども、そこまで頭が回っていなかったよ。
「何と言うか……わたし、よく生きていたなぁ……」
「……生きていてくれてなによりである」
「無事なのは創造神様より聞いていましたが、聞けば聞くほど過酷な地のようでしたし……本当に良かったです」
しみじみとつぶやきながらも進み、わたしたちの視界に映ったのは。
目的のゼファーとアルバだけでなく、フィンとイージャも一緒に居た。わたしを見るなり駆け寄ってくる。
「リオンお義姉ちゃん!」
「目が覚めて……良かった、です」
「えぇと……久しぶり、だね。二人とも元気だった?」
フィンはエルフ、イージャは天人で人間より寿命が長い。それゆえ成長も遅く、一年では見た目はそんなに違いが見えなかった。
でもなんだか……すごく成長している感じがする。そんな気配がした。また今度、二人がどうしていたかゆっくり聞くことにしよう。
そして二人とは違い、見た目がものすごく成長したのがゼファー。寝床が大きくなっていたことから察してはいたけど、合わせてゼファーも大きくなっていたのだ。もう二人なら余裕で背中に乗れるだろう。
「ゼファーも久しぶり。……ん?」
何やらゼファーの様子がおかしい。わたしを見て何度も瞬きを繰り返し、そわそわし、落ち着きがない。
まさか忘れられたわけじゃあるまいし、一体何事なのか。一年の間にイタズラを繰り返して怒られるのを怖がっている、なんてこともゼファーならないだろう。むしろそんな事態になっていたらまずウルがお説教しているはずだし。
最終的にゼファーは犬のように伏せて、首も伸ばしてペタンと地に付ける。……何だかよくわからないけど頭を撫でておこう。
「アルバ。……太陽の下だけど、体は大丈夫かな?」
「ギュウ」
アルバは特に動きがぎこちないと言うこともなく、わたしに顔を擦りつけてくる。うん、火傷している様子もない。当初、わたしの聖域でぐったりしていた時にはどうなることかと思ったけど、きっちり耐性を付けてくれたようだ。この目で確認が出来て改めてホッとした。
「最後、わたしを助けてくれてありがとうね」
「ギュー」
ウルたちが助けに来てくれたけど、その前にアルバが駆け付けてくれてなかったらどうなっていたことやら。
感謝を込めて撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。今は腕がダメだけど、治ったら美味しいご飯を作ってあげよう。それはこの拠点の皆にもだけどもね。
しかし、こうしてゼファーとアルバが並んでいるのを見ると、兄弟ドラゴンに見えてくる。ゼファーは風属性だけど鱗が白いし、アルバの属性はわからないけど、気付けばくすんだ鱗は黄色がかった白になっていたのだ。
……と言うか、この色……まさか……?
いずれアイティに確認をしておこう。もしそうなのであれば、彼女が真っ先に気付いているはずだ。
「ん?」
サクサクと足音が聞こえてきて、振り向く。
そこには、たくさんの果物を抱えたアステリオスが居た。大食いドラゴンたちにわざわざ配達に来てくれたらしい。
「やぁ、アステリオス。きみも元気?」
こくこくと頷きを返してくるアステリオス。相変わらずしゃべれないようだけど、柔らかい雰囲気がわたしの帰還を歓迎してくれているようで、わたしも嬉しい。
久々の太陽の光。久々の平和。
全く警戒せずとも生きていられることに。皆が居てくれることに。この場に居られることに。
大好きなヒトたちに、触れられることに。
心の底から、喜びが溢れてくるのだった。
都合により火神探索章がオールカットになりました(…
なお、ウルの鉄壁スキンでなければ耐えられないような深海に封神石はありましたとさ。




