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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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救出と総力戦

 xxxxx



「くっ、リオン……!」


 予想出来たことではあったが、リオンが大技の反動で傷付いて動けない状態になっている。死には至らず最悪の事態は回避出来たものの、ニーズヘッグめの最後の悪あがき(のろい)によりアンデッドモンスターが大量発生し、生者わたしたちに殺到して、危地が続いていることには変わらない。

 今すぐにでも駆け付けたいのに、倒しても倒しても四方八方からアンデッド共が押し寄せてきて叶わない。アルバが近くに居て守ってくれているのが唯一の救いであるが、どれだけ保たせてくれることか。


 焦燥感が増していく私の視界の端に、突如として光が映る。

 この暗き冥界の地において、私たち以外の光の発生源はモンスターの魔法であることが多い。攻撃が飛んでくるか!?と警戒を向けてみれば。

 光を放っているのは、意外な物であった。


「……な、何事だ? トランスポーターが光って……!?」


 私たちが冥界を脱出し、現世に帰還するためのトランスポーター。

 完成はしたが、最後のエネルギー供給の直前でドラゴンゾンビが襲撃してきたことで起動はしていない。

 だから光ることなどない、はずなのだが――


 トランスポーターの枠に取り付けられた魔石が光を放っている。もしかしなくてもエネルギーが供給されているのだろう。

 魔石を満たした後にエネルギーは動力ラインを通り、他の魔石と連結していく。

 全てが繋がった時、トランスポーター全体が光を帯び。

 扉を二分割する縦の線が描かれた。


 ――扉が、開こうとしている。


 ニーズヘッグは確実に倒した。奴の体が、魔石が溶けたのは私もしっかりと目撃している。

 では何故……まさか、混乱に乗じて別のモンスターが魔力供給をして現世に移動しようとしている……!?

 行かせては駄目だ!

 しかし止めようにも、モンスターに囲まれてリオンの元へ駆け付けられないように、扉の方にも行くことが出来ない。

 ついには扉が完全に開き、カッと光が溢れる。


 ――繋がってしまった。


 日の光を浴びればモンスターたちはただ焼かれて死ぬだけだが、もちろん繋がる場所によっては大惨事になる。もし現世側が夜であれば尚更だ。

 私の意識が失意に満たされかけた、その時。


 冥界の闇を切り裂く、力強く鋭い声が響く。


「リオン、どこだ!!」

「リオン様!」


 リオンを呼ぶ声。

 ……であれば、あれは現世側からトランスポーターが開いたのか!?

 現世と冥界、両方にトランスポーターが設置されていたとしても、どこに繋がるかどうかは状況による。でももし『起動可能なトランスポーター』が双方一基ずつのみであれば、お互いに繋がる可能性はある、か?

 これも創造神の思し召し……いや、リオンの仲間たちの努力によるものか。感謝をしなければ。


「リオン! そこに居――貴様ぁ……! リオンに何をしている!!」


 安堵の息を吐きかけたのも束の間。

 リオンの仲間であるリザード?の少女が(何故かエルフの少女を抱えて)傷付いたリオンを発見し――すぐ側に居るアンデッドと……アルバに気が付いた。

 アルバはドラゴン(モンスター)だ。アンデッド共と同じくリオンを襲撃している側だと勘違いしても仕方がないかもしれない。

 しかし、仕方がないでアルバを攻撃されるのは困る!


「光神アイティの名において要請する! その白いドラゴンと空を飛ぶドラゴンは味方だ! 貴女たちがリオンの友であるのならば攻撃をしないでくれ!」

「――なぬ……っ!?」

「こ、光神様……!?」


 『ドラゴン(モンスター)が味方』

 そのような突飛なことをいきなり言われても戸惑う気持ちはわかる。冥界に光神わたしが居て戸惑う気持ちもよくわかる。

 でもお願いだから、聞き入れてくれ……!

 と言う、私の焦りは杞憂だったようだ。


「リオンであれば仕方ないな!」

「……ありえそうなことですね!」


 いともあっさりと私の言葉を受け入れ、アルバへの攻撃は控えてくれた。

 ……ま、まぁ、おそらく、これもきっと、リオンの人徳?……なのだろう。普段からありえなさそうなことをしがちで、ありえなさそうなことが起こりがちな……ドラゴンに関してはゼファーとやらの前例もあったか。

 代わりに周囲のアンデッド共が勢いよく吹き飛ぶ。……凄まじい力だな。


「フリッカ! リオンを頼む!」

「お任せを!」


 抱えていたエルフの少女を降ろしてリオンを託し、リザードの少女が突き進む。往く先々でアンデッドが吹き飛んでいっそ笑いがこみ上げてきそうだ。


「光神様だってぇ!?」

「よくわからないけど……助力します!」

「むっ……?」


 私の方に向かって、獣人ビーストの男女二人組がアンデッドを薙ぎ倒しながら走り寄ってくる。少年の方は力押しで豪快に、少女の方は目覚ましい槍の動きで、危なげがない。

 援軍はそれだけではなかった。


「早々にモンスターだらけで驚いたけど……見る限り雑魚だけだ! 怪我をしても治してあげるから遠慮なく突っ込んでくれ!」

「アイロ組は右手側から行くぞ! 神子カミルがついている! この程度で負けるわけがない!」

「バートル組は左手側だ! 磨いてきた腕の見せどころだ!」


 中央の男――あれが神子か、彼が仲間たちに祝福せいすいをかけながら指示を出す。

 それからリザードの男を中心とした集団と、獣人ビーストの男を中心とした集団に分かれて戦いを始める。総勢三十名ほどか。リザードの少女のような一騎当千の力はなくとも集団としての動きはよく訓練されていて、どんどんとアンデッド共の数を減らしていく。

 強敵だったグリムリーパーも、ドラゴンゾンビも居ない。アンデッド共の数がいかに多かろうと所詮は雑魚であるし、こちら側の数もドッと増えた。しかも疲労に疲労を重ねた私たちと違い彼らは見るからに万全の状態。こうなれば勝敗は決したも同然だろう。


 ……などと思ったのが切っ掛けなのだろうか。

 リオン風に言えば『フラグ』だったか?


『キシャアアアアアアアアッ!!』


「なっ……!?」


 リオンが倒したはずのグリムリーパーが、リオンの居るすぐ側の地から滲み出るように沸き出したのだ。

 確かに奴の消滅は確認していないが……まさか逃亡するだけでなく隙を窺っていたとは……!


「誰か、リオンを――」


 グリムリーパーから守ってくれ、そう言い切る前に。


「貴様あああああっ! よくも……よくぞ、我の前に顔を出してくれたなああああっ!!」


 リザードの少女の怒りが爆発し、猛然とグリムリーパーに殴り掛かる。

 あれは、あの力は――

 グリムリーパー相手に素手など無謀……であるはずなのに。


『ガ、ァ……ッ!?』

「リオンを冥界なぞに落としてくれた恨み! ここで!! 晴らしてくれよう!!!」


 拳が、全身がオーラに包まれ、目にも止まらぬ速さでグリムリーパーを殴打していく。

 その一発一発が速さだけでなく重さと、あの力(・・・)に満ちて、グリムリーパーの闇の衣がみるみると抉れ、削れていく。


『……ッ!』


 形勢の不利を悟ったグリムリーパーが空へと逃げる。リザードの少女が腹立たしく飛び上がる前に。


「セイクリッドフレイム!」

『ガアアッ!?』


 エルフの少女が放った聖なる炎がグリムリーパーの身を包み、焼いた。

 普段であれば闇の衣による防御でそこまで効かないのであろうが、大きく削がれた今は結構なダメージを喰らったようだ。動きが止まる。


「感謝する、フリッカ!」

「グリムリーパーに恨みがあるのは私もですから……!」


 その大きな隙を見逃すことなく。

 リザードの少女が大きく力を溜め。


「滅べええええええええっ!!」


 渾身の一撃さけびと共に。

 グリムリーパーの内部の闇が、弾け飛んだ。


 カツリと、魔石が落ちる音がする。

 ……今度こそ、奴の最期だろう。



 そして、さしたる間もなくアンデッド共は殲滅され。

 快哉の声が冥界に響くのだった。



xxxxx



 パキリと、乾いた音が微かに耳に届いた。

 青年は億劫そうに首を傾げる。


「んん……? 玩具オモチャが壊れたな? えぇと……どれだ?」


 顎を撫でながら記憶を探るが、ついぞ答えが出ることはなく。


「……まぁ、思い出せないってことは大したことがないんだろう。どうでもいいか」


 あっさりと青年は思考を放棄をして、それ(・・)があった事実すらも忘れるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >リオンの仲間であるリザード?の少女が >その一発一発が速さだけでなく重さと、あの力に満ちて  力を使う所である程度は気付いたみたいだけど、ウルの正体をひと目では光神では看破出来なかったか…
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